2019年08月31日

ありがとうございました

大変ご無沙汰しております。
何年放置した・・・と言う位のご無沙汰で、申し訳ありません。

異動してからのこの数年、自分で思うより上司からの課題が大きく、やっと最近になって時間も心の余裕も出て来たなと思った所だったのですが、まさかまさかのYahoo!ブログ閉鎖という事で、何も追いついていません。

とりあえず、ほぼ閉鎖状態のこのブログですが、まだ未練がましく閉鎖は考えておりません。
期間内に移転だけはしますという告知だけになってしまいますが、いずれ移転して、未完のお話の続きを書きたいという意思表示をさせて頂ければと思い、ギリギリの今日になって出て参りました。
(明日は、仕事でコメント出来るギリギリの時間の帰宅になりそうなので・・・)

いろいろ思うところがあり、移行ツールが使えるブログにするか、全く別のブログにするか、はたまたとりあえず移行しておいて、追々変えて行くかで悩んでいます。
移行先の告知が出来ないのは申し訳ありませんが、期間内には仮の姿であっても何かしらの措置は取ります。
もしまだお付き合い頂けます方は、宜しくお願いいたします。

これまで楽しい時間を過ごさせて頂き、たくさんの方と繋がる事が出来たこの場所は、私にとって宝物です。
ありがとうございました。
ラベル:練習用
posted by 美佳 at 01:29| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月01日

会うは別れの始め 14

ユルが帰国する数日前。
ユルが帰国したら事態が動き、自分がここを出て行くようになると考えたチェギョンは、シンを宮の外に連れ出す許可を上皇に求めた。

「以前話していた事をしようというのか、嬢や?」
「うん。だって、シン君ってプライベートでこの広大な敷地から出た事無いんじゃない?」
「そうだな」
「それに、『井の中の蛙大海を知らず』・・・世の中を見れば、少しは変わるかもしれないでしょ?」

何が、とは言わなかったけれども、上皇はその口には出さない部分にたくさんの含みを感じた。

「わかった」

事前に話をしていたせいか、あっさりと許可が出た。
それどころか。

「嬢、持って行きなさい」

と、かなりのお小遣いまで渡された。

「だけど・・・」
「交通費だってバカにならんだろう。シンの社会勉強の授業料と思えば良い。そして、残りは嬢の好きにすると良い」
「ありがとう、陛下のおじいちゃん」

しっかりと軍資金を手に入れたチェギョンは、次いでコン内官へと視線を向けた。

「コン内官のおじさんもチェ尚宮お姉さんも、今の話は聞かなかった事にしてね」

シンに関わる事だからと呼ばれていたコン内官と、常にチェギョンのそばにいるチェ尚宮達に知らない振りをしてもらう事も忘れずに手配した。

「嬢は手抜かりがないの」
「だって、本当は陛下のおじいちゃんが知っていてイギサのお兄さん達も遠巻きに見守ってくれるとは言え、“抜け出す”って言うスリルがあった方が良いでしょう?」
「確かに」

そんなスリルなど無縁のはずの上皇なのに、なぜかあっさりと頷かれた。

「コン内官のおじさん、シン君の予定教えてもらえますか?」

いくらシンの社会勉強とは言え、本来の予定に影響させるつもりは無い。
もちろん、多少の変更は必要になるかもしれないけれども、それでも影響は最小限に留めたい。
そう告げるチェギョンに、コン内官は直ぐさまスケジュール帳を開いた。

「そうですね・・・」

現状の予定だと、自由な時間を取っていないわけではないけれども、外出するほどのまとまった時間が取れない。
言葉を濁すコン内官に、チェギョンは許可をもらってそのスケジュールを見せてもらった。

「・・・今日は?」
「え?」
「ここの予定って、何とかなりますよね?」

伊達に、毎日シンと一緒に過ごしているわけではない。
シンの予定の中で、調整可能な時間を見つけたチェギョン。
コン内官の了解を取り付けると、それを見ていた上皇がシンのイギサを呼び出した。

「お兄さん達、お願いしますね」

上皇によって呼ばれたシンのイギサたちに、チェギョンが今現在行こうと思っている所を伝えておく。
そうすれば、多少なりとも護りやすいはず。

「ただ、シン君が突然ここに行きたい、とか言いだすかもしれないので、絶対じゃないですけど」

その可能性は否定出来ないから、そう付け加えた。
日頃無表情と言ってもいいイギサ達でさえ、チェギョンのお願いにわずかに表情を崩した。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「チェギョン姉さん、どうした?」

シンが自室で宿題に取り組んでいると、チェギョンがドアから顔をのぞかせた。

「あのね」

イタズラっぽい目で近付いて来るチェギョンに、シンは首を傾げた。
この宮に、そんなに面白いものがあるとは思えないから。
でも、自分の遥か上を行くチェギョンなら、何か見つけても不思議には思わない。
だから、片手間に話を聞くのではなく、きちんとチェギョンの方へと向いた。
すると。

「遊びに行かない?」
「チェギョン姉さん?今、なんて言った?」
「聞こえなかった?遊びに行こうって言ったの」
「いや、聞こえてたけど・・・」

シンにとっては、聞き間違えかと思うような言葉だった。

「シン君の予定がどうなっているかは知らないから、予定がなければだけど・・・」

予定調整が可能と知っていながら、さも思いついたばかりですと言わんばかりの様子で提案するチェギョン。
その上目遣いのおねだり目線に、

「ああ、外へ出る公務や執務なんかは無いけど・・・」

思わず、そう答えてしまった。

「もしかして、宿題やってた?」
「ああ」
「それって、明日提出するもの?」
「いや」

以前チェギョンをモデルに写真を撮った時のように、提出期限に余裕がある宿題。

「他にも、やる事あるよね?」

どこかシュンとした言い方に。
何も無いとは言い切れない。
学ばなければならない事はいくらでもある。
それでも、

「大丈夫だよ」

と言葉が勝手に飛び出した。

「本当?」
「ああ。だけど、どうして急に?」
「陛下のおじいちゃんと話していてね、抜け道があるって教えてもらったの。だから、遊びに行かない?」
「は?」
「・・・イヤ?」

イヤだと言われたら、この話は終わってしまう。

「イヤとかそう言うんじゃなくて。何で上皇陛下が、抜け道を知ってるんだ?」
「・・・そう言えば、そうね」

今の今まで気付かなかった。
シンを連れ出す事ばかりに気をとられて、上皇のアドバイスを当たり前に受け取っていた。
でも、良く考えればシン以上に国民に顔を知られ、抜け出す事など不可能な立場だった人。
その上皇が、なぜ知っていたのか。
そう考えるまでもなく、シンの言葉がチェギョンをからかう。

「チェギョン姉さんの事だから、楽しい事しか考えてなかったんだろう?」
「何よ・・・」

否定出来ないだけに、むくれるチェギョン。
でも、直ぐさまその表情が変わった。

「ま、そんなチェギョン姉さんと一緒なら、楽しくないはず無いよな」
「シン君。それじゃ・・・」
「ああ、行ってもいいよ」

素直ではないその物言いに内心苦笑しながらも、嬉しそうにニッコリと笑った。

「じゃあ、まずは着替えましょ」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョンの見立てで、ラフな格好に着替えたシンとチェギョン。
シンが持つラフな服装は限られているのだけれども、それでもそれらを上手く組み合わせて一見シンとは分からないように変身させた。

「俺じゃないみたいだ」

思わずそう呟くシンを促し、上皇に教わった通りに上皇の命令で警備が手薄となっている所から抜け出した。

「うわ・・・」

日頃車の中から見ている景色が、何も遮る事なく視界に入ってくる。
その開放感にシンが思わず呟きを漏らすと、チェギョンは優しく微笑みながらシンをバス停へと案内した。

「ほら、乗って」

シンの背中を押すように目的のバス車内にシンを押し込みながら、

「ふたりね」

と運転手に声をかけ、パンツのポケットに入っているICカードで運賃を精算。

「?」

不思議そうな顔をするシンを促して、周囲に乗客のいない最後列の席に腰を降ろした。

「物を買うのと同じように、バス代を払ったの」

そう言って、カードを見せた。
機械に強いシンは、チェギョンの説明であっという間に仕組みを理解した。

「あとでやってみる?」
「ああ」

ワクワクした眼差しで頷くシンに、チェギョンはそのカードをシンのポケットに差し入れた。

「落とさないでね」
「・・・子ども扱いするなよ」

一瞬不満そうな表情を見せたシンだけれども、次にやってくるであろう新たな体験を思い、再びワクワクした眼差しに戻って行く。

「どこ行きたい?って聞いても無理だろうから、あたしが行きたい所になっちゃうけどいい?」
「ああ。何が出てくるか分からないびっくり箱みたいで、楽しみだ」

ふたりは、バスが目的地に着くまで、息つく間もなく話し続けていた。
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posted by 美佳 at 23:59| Comment(0) | ∟ 会うは別れの始め | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

今年もよろしくお願いいたします

去年の秋から、お話し書き始め記念日も年末も何もご挨拶出来ずご無沙汰してごめんなさい。

昨年は色々と中途半端に放り出したままになってしまいましたが、大変お世話になりました。
今年も色々と中途半端になる事間違いありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。


以前お話しした通り異動したのですが、職場の雰囲気はすごく馴染みやすいし、周囲も気を使ってくれるのでそういう意味でのストレスは全くと言って良いほどにないのが助かっています。
それでも、今までと全く違う分野だけに、何もかもが手探りで。
その上に、異動してひと月も経たないうちに、「美佳さんなら向いている」と、更なる資格取得計画が遂行中(←美佳が遂行しているのではなく、上司が計画して、その波に乗せられ中というのが正しい)。

なので、今月から再びお勉強しなければならなくなりました。
まあ、分からなければ職場で聞き放題、先生はいっぱいなのでその点は心配ないようです。
既に上司にも、「分からなかったら教科書持って来ていいですか?」と了解を得てますしね(早っ!)。


そんなこんなで再び雲隠れ気味になりそうですが、せめて1週間に1回は更新したい(少なっ!)と思っています。
さすがに、このまま放置したらシン君に怒られるし。
あっちもこっちもネタだけは貯まってるし。
せめてこのお正月休みの間ぐらい、少しはお話し進めたいなぁなんて思っています。
とはいえ、明日あさっては、恒例の箱根駅伝のテレビ中継にかぶりつきなので、どうなるかは微妙な所ではありますが・・・。

こんな私ではありますが、どうぞ本年も宜しくお付き合いのほどお願い申し上げます。
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posted by 美佳 at 23:58| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年09月30日

会うは別れの始め 13

これと言って言葉を交わすでも無く、シンの部屋へと向かったシンとユル。

「・・・着替えるから、少し待っててくれ」

自室に着き、やはりどう呼んでいいか戸惑ったシン。
昔のように“ユル”と呼びたい反面、あの頃のように名前で呼んで怒られたら・・・と思うと呼べない。
もちろん、昔と今とではお互いの立場が逆転しているぐらいだから、名前を呼んで怒られる事はないはず。
それでも、呼べなかった。

「ああ、わかった」

シンが自分との時間を拒否しなかったせいかシンと違って葛藤や戸惑いが無くあっさりと返事をするユルを置いて、シンは着替えるために別室に入って行った。
残されたユルは、手持ち無沙汰を紛らわせるように周囲に目を走らせた。

(あの頃とは、ずいぶん変わったな)

ユルが皇太孫だった頃と同じ建物のはずなのに、雰囲気はまるで違う。
もちろん、それぞれの住人の趣味などが反映されるから同じはずは無いけれども、それでも目に見えないものの感じ方が違う。

(・・・今の方が、居心地良いな)

ユルにとってここは現在のイギリスの自宅の前に住んでいた場所、最初の自宅と言ってもいい場所のはずなのに、なぜかそう感じた。

(僕も、いつかシンみたいに誰かと結婚するんだろうか。そうしたら、シンとチェギョン姉さん、僕と僕の相手とこうやって一緒に時間を過ごせるようになるんだろうか。あ、母さんがいたら無理か)

つらつらとそんな事を考えていると。

「トント~ン」

なぜか、口頭でノックをしながらチェギョンが顔をのぞかせた。

「シン君、着替えた?入るよ~」

尋ねておきながら、シンの答えを待たずに入ってくる。
そして、その手には先ほど持っていたお菓子だけでなく数種類が載った盆。
それをどこに置こうか迷う様子も見せずに、ローテーブルへと置いた。
その様子に、これが初めてではないのだろうと漠然とユルは感じた。

「チェギョン姉さん」

シャツのボタンを留めながら出て来たシンが苦笑している。

「今のって、覗きますって言ってるようなもんだぞ」
「そんなわけないでしょ!!」

力一杯叫んだチェギョンは、ユルに訴えた。

「ユル君、聞いた?シン君、ヒドくない?」
「ユル、チェギョン姉さんの言葉に耳を貸すなよ」

チェギョンの味方になるのを阻止しつつ、何よりもユルをユルと呼ぶ事に成功した。

「・・・どっちの味方をしても、怒られそうだね」

賢明にも、中立の立場を取ったユル。
賢明な、でもある意味ずる賢くもあるユルに、シンは苦笑するとユルを促してソファに腰を降ろした。
レディ・ファーストの国で暮らして来たユルからすれば、シンの態度は褒められたものではないのだけれども、韓国国内での慣習や宮の序列を考えれば当然の事。
何より、チェギョンは少しも気分を害した様子を見せずに当たり前にシンの隣にポスンと腰を降ろした。

「シン君、いつものようにお願いね」
「ハイハイ、お姫様」

シンがチェギョンをそのように呼んだ事も驚きだけれども、ユルをもっと驚かせることが起きた。

(え?えええ?)

チェギョンの言葉にシンはすかさず立ち上がった。
そして、チェギョンが持って来たお菓子の載った皿や女官達が用意したティーセットに近付いて行く。

「お姫様、今日はいかがしましょうか?」
「ストレート」
「畏まりました」

その答えに、シンは数種類用意された茶葉の中から1つを選び出し、チェギョンに確認をしてから用意を始めた。
そう、執事のようにチェギョンの為に給仕をしだしたのだ。

(何これ?)

「ユル君にもよ」
「もちろんです」

遠慮なくシンを扱き使うチェギョンに驚くのはもちろん、人に世話を焼かれる事はあっても人の世話をする事には縁が無いはずのシンが嫌がる様子も無くそれをこなしている事に驚かずにはいられない。

「失礼いたします」

シンがテーブルセッティングをしてから、時間を見計らってティーポットからティーカップへと紅茶を注いでいると、女官が何かを持ってやって来た。

「お姉さん、ありがとう」

チェギョンとの時間を邪魔されたとばかりにシンの眉間にしわが寄ると同時に飛んだチェギョンの声。
その声に、チェギョンが何かを頼んだらしいと気付いたシンが、そのしわを消した。

(すごい。チェギョン姉さんに、操られてる?)

全てを握られていると言ってもいいのかもしれないけれども、握られているというほどにはチェギョンが強い態度に出ているわけではなく、むしろチェギョンは意識せずに結果としてそうなっていると感じられる。

「作る順番間違えちゃって、出来上がったら持って来てもらうようにお願いしてたんだ」

いつも、シンが帰って来る時間に合わせて、出来るだけ温かいものは温かいうちに、冷たい物は冷たいうちに出せるようにしている。
でも、今日は作りたいものがいくつもあったせいか手順を間違えて出来上がりの時間の計算に狂いが生じていた。
だから、オーブンに入れたあとは厨房の職員に任せてあった。

「では、せっかくですから出来立てのものからお召し上がり下さい」

チェギョンとユルの前にティーカップを置くと、シンはアフタヌーンティーの基本的な順序を敢えて変えて、温かく甘い出来上がったばかりのパウンドケーキとスコーンをチェギョンの皿に取り分けた。

(へえ、知ってるんだ)

紅茶文化の国からやって来たユルは、シンのその行動に驚きと同時に感心した。
サンドイッチから始まって甘いお菓子へと続く順は、あくまでも基本。
チェギョンがシンのために出来立てを用意したように、温かいものは温かいうちに食べた方が美味しい。
でもそれは、教科書で学んでいる人には伝わらない事。

(どれだけ勉強したんだろうな)

自分より後に皇位継承者となったシンは、自分が覚えさせられた事よりさらに覚えなければならない事が山のようにあったはず。
小さかった自分は、最低限の基本さえ学べば良かった。
それに対しシンは、その国の人でさえも知らない事を知らない事が無いぐらいに教え込まれていたはず。
それは、どれほど大変で窮屈だっただろう。

(父上には悪いけど、シンが代わってくれて良かったな)

そんな事をつらつらと考えていると。

「ユルは、どれがいい?」
「そうだな・・・パウンドケーキ頂こうかな。美味しそうだね」
「紅茶は?」
「ミルクティ・・・いや、チェギョン姉さんと同じストレート」

チェギョンの事はお姫様扱いしているにもかかわらず、ユルに対してはかなりの手抜き。
でも、不思議とそれをどうこう思わなかった。
もちろん、シンに特別扱いしてもらおうなんてこれっぽっちも思っていないけれども、最初に見た瞬間のシンのチェギョンへの懐きようから、シンにとって特別なのはチェギョンだけだと分かったから。
ただ、ユルは素直ではないから。
シンが昔のように接してくれるのか不安になるくせに、大丈夫か?と感じた途端ちょっとしたイタズラをしたくなる。

(あ、やっぱり・・・)

ユルがチェギョンを“チェギョン姉さん”と呼んだ事に、不快そうに眉間にしわを寄せた。
そうなると思ってその呼び方を口にしたけれども、余りにも想像通りの反応に笑ってしまいたくなる。
すると、シンの不機嫌さを感じ取ったのかチェギョンが立ち上がり、今度は反対にチェギョンがシンのために紅茶を入れ、お菓子を取り分けた。

「はい。シン君もどうぞ」

もちろん、途端にシンの機嫌は直った。

(面白い)

そう思うと同時に、

(羨ましい)

とも思う。
ユルが韓国で生活していた頃は、ユルが皇位継承者だったから年相応にその座に相応しくあるように求められ、息苦しさを感じていた
本当の理由が何であれ皇位継承のレールから降り、母の思惑はともかく窮屈さから解放されて呼吸がしやすくなったと感じていた。
あの頃のユルよりも年上で遥かに求められるものが多くなったはずのシンが、自分が韓国を離れて初めて表せるようになった表情をここで見せている事に、そう思わずにはいられなかった。

「ところで、何でシンが執事のような事を?内官や女官達がやってくれるだろう?」

至極当然な質問。

「なあ、ユル」
「ん?」
「バスに乗った事あるか?」

その質問に対し返って来たのも、質問。
しかも、その脈絡が分からない。

「イギリスに行ってからならあるけど・・・」
「この前、チェギョン姉さんと乗ったんだ」
「え?嘘だろ?」

警備の関係から、そんな事が出来るとは思えなかった。

「ホント」

それを示すかのように、シンもチェギョンも何かを思い出したように顔を見合わせてクスクスと笑っている。

「あの日は、初めて経験する事ばかりで、ものすごいカルチャーショックだった」
「・・・だろうな」

自分がイギリスに行って、色々な事に驚いたのと同じような状態だったのだろうと想像がつく。

「で、チェギョン姉さんがどうしても行きたいケーキ屋があるからって連れて行かれたんだ」
「だってね、すっごくカッコイイお兄さん達がいるんだもん」

途端に、口をへの字にして不機嫌になるシン。

「はいはい。シン君が一番カッコ良かったです」

どう聞いても適当過ぎる言い方なのに呆れるぐらいコロリと機嫌を良くするシンを尻目に、チェギョンが解説を続けて行く。

「あたしがお兄さん達を褒めるせいか、シン君が自分にも出来るって言い出して」
「それで、シンが?」
「そう言う事」

例え嫉妬が理由だとしても、シンにそれをさせてしまえるチェギョンのすごさに感心せずにはいられなかった。
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posted by 美佳 at 23:46| Comment(0) | ∟ 会うは別れの始め | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

旅から戻ってきました

今までで一番長期に、しかも無言で雲隠れしてしまい、申し訳ありません。
本当に旅行していたわけでは、もちろん無くて。
5月から急遽仕事で必要な資格を取るために勉強を始め、1つの予定がその後3つも続けてとるはめになり(楽しかったからいいですけどね)、気付けばこんなにも長期間になっていました。

以前に呟いていた指導員活動(こちらはボランティアで、仕事ではありません。その割に仕事以上に熱心かも?)のための勉強は、事前に分かっていたから予告出来たし、いつからいつまで休みますって言えたし、最低限の勉強はしてたからまだ良かったんですけどね。
今回は本当に突然だったもので・・・。
しかも、未経験の分野だったものですから、理解出来る事と実践出来る事はまた別問題で・・・。
とっても苦労してました(ホント、落第するかと思ったわ)。

そして、当然の事ながら、10月から異動です。
何となく空気は掴めても、実際に働き始めてみなければ分からない事も多々あり、多分また消えるかもしれません。
今度は頭じゃなくて体力と気配り勝負なので、通勤中は爆睡してるかも(座れたらですが)。
電車の中でネタを考える時間が取れるかどうか疑問です。
が、逆に言えば今までに無い環境なので、ネタを拾える気もします。
もしかしたら、変わり種の宝庫の美佳でも、さらに傾向が変わるかも???

未完の話を放置したままここを閉鎖するつもりは無いので、時間がかかっても全て終わらせます。
もちろん、あちらも。
(あ、閉鎖前提、という意味ではありませんよ。突然消えても、いつかは戻りますという意味です)
なので、気長にお付き合い頂ければ嬉しいです。
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posted by 美佳 at 23:46| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月20日

会うは別れの始め 12

キム内官に案内されたユルが東宮殿へと近付くと、ユルが知っている、つまりユルの父が存命の頃の東宮殿ではあり得ないぐらいの甘い匂いが漂っていた。
ユルの疑問に気付いたのか、キム内官がにこやかに教えてくれた。

「チェギョン様は、お菓子作りがお好きなのです」
「でも・・・」

昔の毒殺を防ぐという名残で、毒味こそ無いものの決められた場所や人が作ったもの以外は食べてはいけないと教えられて来た。
だから、イギリスに行ってから初めて決められたものではないものを食べ、買い食いというものを経験したユル。
いくら東宮殿内の厨房で作っているとしても、ユルが知る今までの宮の仕来りではあり得ない。
そう思い口を開こうとすると、もっとあり得ないことが起きた。

「お姉さん。シン君、そろそろ帰って来る時間だよね」

皇太子であるシンを“シン君”と呼ぶ声。
皇子を示す“君”や“大君”とは違うそれに、ユルは戸惑ったようにキム内官に目を向けたけれども、キム内官は驚いた様子も無く、むしろ嬉しそうに微笑んでいる。
つまり、珍しい事ではないという事。
不思議に思っていると、出来上がったばかりなのか微かに湯気を立てたお皿を持った少女が姿を見せた。
その少女を見ても何も思い出さないけれども、おそらく彼女がシンの許婚なのだろうと思いながら見ていると。

「あ、キム内官のお兄さん。こんにちは。ちょうどいい所に」

すぐ傍にいるユルには目もくれず、にこやかにキム内官に声を掛けるチェギョン。
職員に気さくに声を掛けるところからして、かつてここで暮らしていた時のユルの感覚からすればかけ離れた世界にいる存在に思える。
でも、不思議な事にキム内官は、先ほどから一貫してチェギョンの言動ににこやか。
今だって。

「上皇陛下へのお使いでございますか?」

これが初めてではない事を示すかのように、チェギョンが何も言わなくても心得ているらしい。
しかも、職員だから従わなくてはいけないという理由ではなく、嫌がっている素振りがどこにも無い。
対するチェギョンも、

「お願いしても良いですか?」

と申し訳無さそうではあるけれども、楽し気ですらあるように見える。

「もちろん、キム内官のお兄さんの分もありますよ」
「いつもお気遣い頂きありがとうございます」
「すぐ用意しますね」

クルリと背を向けようとして、ようやくユルに気付いたチェギョン。

「えっと・・・」

キム内官と一緒にいるから職員なのかと思えば、服装が明らかに違う。
首を傾げるチェギョンに、キム内官が紹介した。

「義誠君殿下です、チェギョン様」
「???」
「皇太子殿下の従兄弟でいらっしゃる、ユル様と申し上げるとお分かりになりますか?」
「ユル君?」

先ほどのシンを呼ぶのと同じ呼び方。
あの時は気付かなかったのに、今度は気付いた。

「・・・チェギョン姉さん?」

頭で考えるよりも先に、言葉が飛び出した。
それを聞いたチェギョンは、目を見開いた。

「覚えてるの?」
「顔は覚えてない。でも、ポニーテールにリボンをしてた?」
「してた」
「それは覚えてる。それしか覚えていないって言ってもいいぐらいだ。申し訳ないけど」
「謝らないで。あたしだって、余り覚えてないのよ、ユル君の事」

シンのように遊んだわけではないから、殆ど覚えていない。
でも、と言ってクスリと笑ったチェギョン。

「覚えてなくても、呼び方は覚えてるのね。シン君と同じ呼び方するなんて」
「シンも、“チェギョン姉さん”って呼んでるの?」
「ええ」
「チェギョン姉さん」

チェギョンの言葉を証明するかのように聞こえて来た、シンの声。

「あ、シン君。お帰り~」
「ただいま」

チェギョンに向かっては、ニッコリと答えるのに。

(やっぱり・・・)

ユルが警戒していたように、ユルに投げかけて来る眼差しは鋭く警戒心に溢れている。

(あの頃の事、覚えてるんだな)

自分の態度が原因だから、シンが悪いとは思わないけれども。
それでも、どこか残念に思ってしまう。
虫がいい話なのは分かっているけれども、あの頃とは違ってただ従兄弟として接してもらえたらと思っていたから。

(まあ、あの頃と反対に、絶対に皇太子の座を奪われないようにって教え込まれてたらそうなるよな)

あの頃の自分がそう思い込んでいたように、シンも自分たちがいなくなってからそう叩き込まれていたら。
今の態度は当然と言える。
と、ユルが感傷に浸っていると。

「ちょっとシン君。ユル君相手に、ナニ凄んでるのよ」

とても皇太子に対する態度とは思えない様子で、チェギョンがシンに対し怒りを見せた。

「そんなつもりは・・・」
「そんなつもりじゃなければ、どんなつもりよ」
「・・・」

(シンが、負けてる?)

チェギョンの言葉に、叱られた子どものようにシュンとするシン。
あり得ないとばかりに目を見張るユルとは違い、キム内官はずっとにこやかに笑っている。

「いつものことですので、ご心配なく」

こっそりとキム内官が囁いてくれたけれども、それさえもユルの驚きに拍車をかける。
これがいつもの様子である事はもちろんの事、その事を誰も不思議に思っていないらしいから。

「シン君」
「・・・うん」

スッとシンがチェギョンの盛っていた皿を手に取ると、チェギョンはクスリと笑ってシンの両頬を自分の手で挟んだ。
ただそれだけなのに、シンの表情がフッと和らいだ。
すると、これまたあっさりとチェギョンは手を離し、シンの手から皿を取り戻した。

「ちょっと、シン君!」

チェギョンが取り戻した皿から、シンがクッキーを1枚つまみ食いしたのだ。
しかもシンは悪びれた様子も無く、どこかいたずらっ子のように笑うだけ。
そしてチェギョンもまた、声は怒っていながらもお皿を落とさないように気をつけながら軽く腰でシンを押しただけ。
ふたりの日常が垣間見えるやり取りだった。

(姉と弟のようにも見えるけど。何だか、何年も寄り添った夫婦にも見えるな。でも、ふたりは許婚って言うだけで、婚約すらしてないんじゃなかったっけ?)

ユルにそんな事を思われているとは知らないチェギョンは、はたと気づいた。

「いけない。陛下のおじいちゃんに持って行ってもらうお菓子用意するんだった。えっと、ユル君は時間ある?それとも、陛下のおじいちゃんに会いに行く所だった?」
「チェギョン様。私がここにいるのですから・・・」

キム内官のその言葉に、一瞬だけチェギョンの顔が真顔に戻った。

「陛下のおじいちゃんに会った後って事ね」
「はい」
「だったら、一緒にお茶を飲んで行って」

上皇からの伝言を口にしなくても、チェギョンに伝わった事が分かった。
さり気なく、でも誘導するようにシンとユルを一緒にいさせようとする。
誘うのではなく、どこか決定事項のように。
もともとシンに会いに来ていたとは言え、そのチェギョンの不思議な力に抗えないのか、ユルはチラリとシンの反応を気にしつつも頷いた。

「シン君、着替えて来て」
「わかった。チェギョン姉さん、俺の部屋に・・・」
「うん、用意するね」
「ああ。・・・行こう」

躊躇い、名前を呼ばずにユルを促したシン。
ユルもまた、それも仕方の無い事と案内してくれたキム内官に目でお礼を言うとシンのあとを追って行った。

「陛下のおじいちゃん、何か企んでるの?」

シンとユルがシンの部屋へと向かうと、チェギョンはキム内官を促して出来上がったばかりの菓子を上皇へと持って行ってもらう準備を始めた。
そして、ふたりがいないのを良い事に、ここへ来た目的を探り出す。

(チェギョン様は、本当に鋭くていらっしゃる)

その鋭さに助けられているので文句を言うつもりは無いけれども、毎度感心せずにはいられない。

「企んでなど・・・」
「でも、何も考えないわけじゃないでしょ?あの陛下のおじいちゃんに限って、そんな事あり得ないもん」

上皇に対してここまで言える人は、他にいない。
でも、間違ってもいないから、キム内官も返事に困りつつも事実を伝えた。

「義誠君殿下が、皇太子殿下にお会いしたいと」
「ふ~ん」

納得していないのが分かる声音だけれども、その一方で何かを納得してる気もする。
案の定、手早く用意された上皇へのお土産を受け取ると同時に、伝言を預かった。

「最初はぎこちないだろうから手助けするけど、あくまでもシン君とユル君に任せるわ。だから、結果に責任は持ちませんって伝えて。早々陛下のおじいちゃんの思う通りになんてならないんだから」
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2014年05月12日

会うは別れの始め 11

「ご無沙汰しています、おじい様」

ユルが帰国してきた。
上皇に取っては、シンと同じ可愛い孫ではあるのだけれども。
ユルの後ろにいるファヨンの存在が、表面には見せなくても警戒心を引き出す。

「大きくなったな、ユル」
「そうですね。向こうに行った最初の1年で5センチは伸びましたから」
「ほお、そうか。ユルもか」

同じ頃、シンもそのぐらいの勢いで伸びていた。

「ところで、ユル。敢えて聞こう。帰国した本当の目的はなんじゃ?」

皇帝への帰国の挨拶を終え、孫として上皇の私室を訪れているユル。
そして、誰もいないせいか、上皇は真っ直ぐに切り込んだ。

「高校を卒業したあとを考え、大学を見たいというのは分からなくはない。だが、本当にそれだけか?ワシはこれでも皇帝だったのだ。嘘が通じると思うなよ」

チェギョンの前では決して見せない鋭い眼光で、ユルを見据えた上皇。
その眼差しを真正面から受けたユルは、ふんわりと柔らかい雰囲気を見せていたのを引き締めた。

「おじい様とふたりで、話が出来ますか?」

上皇の傍に控えるキム内官を退室させてほしいと匂わせると、上皇は横に首を振った。

「キム内官は、下げぬ」

暫し祖父を見つめ、固い声で尋ねた。

「それは、将来シンの傍にいる内官だからですか?」
「そうだ」

ユルの状況を読み取る能力と先を見据える能力の高さに、思わず思ってしまった。

(ファヨンさえいなければ・・・)

シンと競わせて、共に高め合って、どちらが皇位に就いても互いに補佐し合えただろう。
でも、ファヨンがいる限り、それは望めない。

「キム内官」
「はい、義誠君殿下」
「内官なら、ここで聞いた話は他言無用って分かってるよね?」
「もちろんでございます」

キム内官の返事を引き出すと、ユルはひとつ深呼吸をしてから上皇を真っ直ぐに見た。

「おじい様、僕と母さんがイギリスに行ったのには、訳があるんでしょう?」
「ユル?」

当時小学生だったユルには、大人の事情とやらは分からなかった。
表向きの理由、父が亡くなったために思い出のある地を離れさせた、という理由しか知らない。
でも、あの時から今まで、時間が止まっていたわけではない。
そして、成長して行くユルにも、見えて来るものがある。

「母の手を、逃れたい」

ユルにとってこの帰国は、賭けだった。
その思いが、ユルの眼差しを真剣なものにする。
それは上皇にも伝わり、何を聞かされても大丈夫と言わんばかりの大きな懐を感じさせた。

「今回の帰国、母が言い出したんです」

そうだろう、というように頷いた上皇。
おそらく何も知らなかったユルなら、帰国してはいけないなどと思うわけが無い。
つまり、例え帰国するにしてもわざわざ言い出すほどの事ではないと思っているはず。

「今、シンの許婚が行儀見習いに来ているそうですね」

ユルは、分かっていて口にしているのだろうか。
ここでそれを口にするという事は、ファヨンが宮中の誰かと繋がっている事を示す事だと。
そう視線だけで問う上皇に、ユルは頷いてみせた。

「わかってます。ここで、それを口にする事がどういう事か。母さんが、誰かと連絡を取っているという事だって」

そして、言葉がよりプライベートなものへと変化した。
ユルの行動は、宮の一員としてよりもファヨンの息子として、という意味なのだろうか。

「ユル・・・」
「でも、僕は母さんが間違った道に行くのならそれを止めたい」
「間違った道とは?」
「母さんは、僕を皇位に就けようとしている」

いきなり、ど真ん中を突いて来たユル。

「つい最近まで、気付きませんでした。でも、シンの許婚が行儀見習いに来てるって言い出して・・・。僕は単純に、『そうなんだ』としか思わなかった。どんな相手なんだろうとか興味はありますけど、だからってそれが特別僕に影響するとは思わなかった。でも、母さんは違った」

この話が伝わって来た時、ファヨンの目がきらりと光った気がした。

「僕に、すぐに韓国に帰るようにって言い出したんです。きっとおじい様は、母さんが帰って来る事は望まないだろうから、大学進学のための帰国と言えば拒否は出来ないからって」

でも、ユルはその理由をそのままは使わなかった。
完全帰国ではなく、一時帰国。
大学進学を視野にというのは変わらないけれども、あくまで下調べのためと言って連絡して来た。

「そして、シンの許婚がどんな相手なのか、家柄やシンとのつながりなど調べられる事全て母さんに知らせろって」
「知ってどうすると?」
「シンとの結婚を辞退させるって言ってました」
「辞退させてどうする?許婚でなくとも、適齢期の女子(おなご)はいくらでもいる」
「そうですね。だから、シンが好みそうな女の子がいたら、それも合わせて知らせろと」
「シンの周りから、排除するという事か」
「はい。そして、シンの弱味を見つけろと言われました」

その理由は、聞かなくても分かる。

「・・・ユルが皇位に就くために、か」
「はい」

シンの弱点を見つけ、そこを執拗に叩いて皇位継承者として相応しくないという烙印を押す。
古典的ではあるけれども確実な方法。

「ユル、お前はどう思っているのだ?」
「僕は、皇位に興味は無いです。おじい様の前で言うのは憚られますが、窮屈で仕来りや責任に雁字搦めになるのは、僕には合わないです。外で自由に暮らしてしまった今は、シンを手伝う事はしても自分がその座に就こうとは思いません」
「では、帰国したいというのは、嘘か?」
「正直な所、迷ってます。向こうで、建築デザインに興味を持ったのでその方面に進もうと思ったのですが、韓屋も捨て難い。だから、こっちで勉強するのも良いなとも思っています」
「どちらにしても、建築を学ぶためか?」
「はい。帝王学なら、断ります」

見事に、キッパリと言い切った。

「それから、今回帰って来たのにはもうひとつ」
「?」
「・・・シンが、僕をどう思っているか知りたかったんです」
「どういう意味だ?」
「小さい頃、僕にとって母は絶対の存在でした。だから、皇太孫である僕とシンは違うのだと教え込まれてて、結構酷い態度だったんですよね。それでもシンは、いつもニコニコと“遊ぼう”って寄って来てくれたのに、呼び捨てにされると“皇太孫殿下だろ”って怒ったんです。あの頃の事を覚えていたら、きっと会っても従兄弟としては接してくれないだろうなと思って」

シン自身だけではなく、ユルを通してもシンに攻撃を仕掛けていたとは。
だが、どうやってか分からないが、ユルはその思い込みを解いたらしい。

「ならば、会ってみるか」
「え?」
「この時間なら、シンと許婚の面白いシーンが見られるかもしれんぞ」
「面白いシーン?」
「おそらく、ユルの知らないシンの姿だ」

そう言うと、傍で控えるキム内官を見た。

「ユルを案内してやってくれ」
「承知致しました」
「おじい様。僕なら、ひとりで行けますよ?」

伊達に、この場所で暮らしていたわけではない。
目を瞑っても・・・は無理でも、歩き出せば思い出すはず。

「いや、こちらにも都合があってな」
「?」
「キム内官。嬢に、ワシが行くように言ったと伝えてくれ。それで嬢は分かるはずだ」
「はい、陛下」

ただ会わせるだけではなく、顔を合わせるからこそ引き出せるものがあるはず。
それを引き出してほしいという、無言の願い。
キム内官も、チェギョンの意識していないのにそれが出来てしまう手腕に何度も感心させられたから、今回も当たり前にその伝言を預かった。

「おじい様?」
「シンの許婚じゃ。お前も、会った事がある」
「そうなんですか?」
「ああ。ま、ファヨンが邪魔をして、余り遊んではいなかったがな」
「じゃあ、僕たちのというよりシンの幼なじみってことですね」
「そうじゃな」

なぜか、小さく笑った上皇。

「おじい様?」
「いや。シンとの話が終わったら、またここに来なさい」
「はい」
「ま、言わなくても来ると思うがな」
「?」

ユルの知っているシンとは別人と言ってもいいシンを見る事になるはずだから。
きっと、報告せずにはいられないだろう。

(さて、ユルの出現でシンがどんな態度を取るか、見ものだな)
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2014年05月06日

会うは別れの始め 10

「嬢や。皇后から聞いたが、シンはそのような事を言っておったか」

皇后に刺繍を習った数日後。
チェギョンはシンがいない時間に上皇に呼ばれ、これまでに気付いた事を報告した。

「陛下のおじいちゃん」
「なんじゃ?嬢」
「ユル君のお母さんが何かしたって事、ないよね?」
「それは、わからんな」

ファヨンがシンに何かしたらしいと知っている上皇の中では、黒決定と言ってもいい。
ただ、証拠はない。

「・・・シン君が明確に言葉にしてそれが本当だとしても、ユル君のお母さんが知らないって言ったら、無かった事になっちゃうんでしょ?証拠が無いもんね」
「無かった事になる事はないが、証拠が無ければそれ以上どうにもならない、ということは起こるだろうな」
「・・・」
「なんじゃ?不満か?」
「不満ていうか・・・。シン君は、嘘つかないもん」

まるで八つ当たりで怒られた子どものように、膨れたように言い返したチェギョン。

「本当に、嬢はシンのことがよく分かっているな。シンが、嬢にだけは心を開くわけだ」
「・・・」

上皇は、チェギョンの表情から何となく察した。
小さい頃からチェギョンを見ているからこそ、チェギョンがシンを放っておけない反面、祖父に似て“宮”に深く関わらないようにしている事を知っているから。
わざと聞いてみた。

「嬢は、シンのそばにいるのはイヤか?」

苦笑と言ってもいい表情をしたチェギョン。
でも、出て来た言葉は意外なものだった。

「シン君が、例え拙くても自分と向き合ってくれる時は、見ていて嬉しくなる」
「ほお・・・」

(気を遣っているのか。遠回しだが、皇太子という肩書きが無ければ、という事か)

自らが務めて来た皇帝という座に誇りを持っているけれども、皇帝でなければと思った事は1度や2度では済まないほどにある。
だから、チェギョンの気持ちも分からなくはない。

「まあ、シンは自分の気持ちを表に出すのが苦手としておるからな」

それが分かっていながら、いや、本当の意味で分かっていなかったから、今こうして関係ない少女に頼らざるを得ない状況になっている。

「陛下のおじいちゃん?」
「嬢は分かっているのだろう?シンは、ひとりになる事が好きなようで本当は嫌いなのだ」
「・・・」
「小さい頃に母を亡くし、それまでも母に育てられているわけではなかったけれども、完全に保母尚宮の手に委ねられた。今の皇后が輿入れして、一時表情が明るくなった事もあったが、自分の周囲に壁を作ってしまった。シンは、愛する事も愛される事も当たり前に出来るはずの小さな頃にそれが出来なかった。だから、苦手なのだ。心理的な面でも物理的な面でも誰かに捨てられる事、大切な人や好きな人に置いてきぼりにされる事を、極端に嫌い、恐れている」

その言葉に、チェギョンはあっと息を飲んだ。

「嬢?」
「シン君に言われたの。“チェギョン姉さんは俺を捨てないよね?”って」

シンがいかにチェギョンに依存しているかを示す言葉。
同時に、上皇にとってはシンが自分の狙い通りに行動しそうな反面、チェギョンが嬉しく無い反応を示しそうな言葉。
案の定。

「捨てられる、だなんて何で言うんだろうって思った。もちろん、それがシン君の中で引っかかってる言葉なんだろうなとも思ったけど。そういうことなのね」
「嬢・・・」
「陛下のおじいちゃん」
「なんじゃ?」
「あたし、シン君の傍にいない方が良い気がする」

やはり、出て来てしまった。

「嬢」
「だって、そうでしょう?あたしがシン君の本当の許婚ならともかく、半年後にはいなくなるって分かってるのに、これ以上シン君の傍にいたら・・・」
「嬢、言ったであろう?嬢がその気なら、本当にしても構わぬと」
「シン君が笑ってくれるのは嬉しいよ。色々話してくれるのも嬉しい。でも、それがあたしだけって言うのは良くないでしょう?あたしにとってシン君は高校生の男の子だけど、皇太子なわけで。色々なお仕事で色々な人と会わなきゃいけないでしょう?それなのに、あたしだけに心を開くのって困るじゃない。それに、シン君はあたしを幼なじみとしてしか見てないでしょ?むしろ、依存してるって言ってもいいぐらい。あたしならシン君を切り捨てない、いらないって言わないって思ってるからに過ぎない」

否定出来ない。
シンの中に恋愛感情が無いとは言い切れないけれども、それよりも依存度が強いのは事実だから。
だが、上皇は年の功で気付いた事もある。

(シンは経験の無さから来る、全くの無自覚。だが嬢は、無意識に避けようとしておる。好きにならないようにしている、という事か)

それが意識的なものであれ、無意識であれ。
幼なじみとして、そして傷ついたものを放っておけない優しさで、今はシンの傍にいる。
でも、それ以上の理由を見つけたくないのか見つけられないのか、離れようとしている。
とは言え、チェギョンがその思いに気付いたら・・・と言う希望は持てる。

「嬢の言うことも尤もだ。だが、嬢」
「なあに?」
「もう少しだけ、待ってくれんか?」
「どういうこと?」
「実は、ユルが帰国したがっておってな」
「ユル君、帰って来るの?」

その表情は、喜んでいるというよりも戸惑っているように見える。

「嬢が心配しているのは、何だ?ユルとシンの仲か?それとも、ファヨンか?」
「・・・シン君がこれ以上悲しい思いやつらい思いをするのはイヤなだけよ」
「とはいえ、シンはもう、守ってもらうだけではいられぬ年齢だからな」
「陛下のおじいちゃん?」

ここまで巻き込んでおきながら、出来る事ならチェギョンを巻き込みたくないと思ってしまう。
だが、そう出来ない事も分かっている。

「嬢が気付いてくれたように、シンがファヨンに何か言われて心を閉ざしたのであれば、ファヨンに会えばその思い出が蘇ってまた心を閉ざすかもしれん。だが、いつまでも子どもではいられぬ。嫌いだからと避けて通るわけにはいかん」
「でも・・・」
「もちろん、いきなりあれもこれもさせる気は無い。それに、ユルに関しては分からんのだ」
「え?」
「シンがユルをどう思っているのか、全く見えて来ないのだ」
「仲良しかもしれないし、もしかしたら嫌ってるかもしれないってこと?」
「そういうことだ」
「・・・」

本当に、分からなかった。
ユルは、おそらく言われるがままファヨンと韓国を離れ、事情は知らないはず。
ファヨンとて、口が裂けても言わないはず。
だから、ユル自身がシンをどう思っているか、そしてそんな決定を下した上皇をどう思っているか全く分からない。
恨んでいるかもしれない。
だが、もしかしたら恨んでいるかもしれない上皇に、ユルが自らコンタクトを取って来たのも事実。
韓国に帰りたい、と。
それは、ユル自身の希望なのか、はたまた上皇達が懸念するようにファヨンが動き出したからなのか。

「もしシンがユルを忘れずにいて、でもユルがシンを嫌っていたら?」
「ユル君がシン君を嫌う?」
「ユルはどうか分からんが、少なくともファヨンはワシが追い出したと思っておるじゃろう。ワシの事を悪く吹き込んでいるかもしれんし、嬢が気にするようにシンに何かを吹き込んでいたのなら、ユルにシンを嫌うように仕向けるかもしれん」
「・・・そっか」

シンが心を閉ざした原因がファヨンだと決まったわけではないけれども、仮にそうだとしたらユルやファヨンが帰って来てシンがどうなるか分からない。
何も変わらないかもしれないし、もしかしたらチェギョンが来る前に逆戻りしてしまうかもしれない。
それに、いきなりファヨンとユルのふたりと会わせるのは危険だと思うから、まずはユルだけを帰国させて様子を見たい。
そう告げる上皇に、

「わかった。もうちょっといる」

シンが心配だから、そう答えずにはいられなかった。

「その代わりと言ったら何だけど」
「なんじゃ?おねだりか?」
「おねだりなのかな。シン君と遊びに行ってもいい?」

突拍子もない事を言いだすのは小さい頃からだけれども、さすがに今回は何を考えているのか分からない。

「嬢?」
「シン君って、良い子過ぎるんだもん。だからね、ちょっと町の中に遊びに行ってみたいなぁ~って」

以前、シンの課題に付き合った時に感じた。
シンは確かに皇太子だけれども、もっと年相応の事を経験しても良いのでは、と。
少なくとも、チェギョンと一緒なら嫌がらないはずだから。

「シンの社会勉強というわけか」
「まあね。もちろん、シン君だって分からないようにして行くけど」
「イギサが驚くだろうな」
「でも、イギサのお兄さん達が表情変えた所って、見た事無いけど?」
「なら、見るチャンスかもしれんな」
「そうだね。・・・って、やっぱり護衛無しはダメだよね?」
「ああ見えても、シンは一応皇太子じゃからな」
「ああ見えてもって・・・」
「ならば、嬢。分からないようにこっそり護衛させるってことにしてはどうじゃ?嬢も気付かなければ、楽しめるじゃろう?」
「いいの?」
「そのぐらいは、容易い事じゃ」

上皇の返事を引き出したチェギョンは、嬉々としてシンとやりたい事を上皇に話して聞かせた。
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2014年04月30日

会うは別れの始め 9

「まだママが生きてる頃」

チェギョンの前だからか、あるいは開き直ってしまったのか、どこか恥ずかしそうにしながらもはっきりと実母を“ママ”と呼んだシン。

「俺が悪い子だからママの病気が治らないんだって、聞いたか思い込んだかしたんだ。今なら、体が弱かったって分かるけど、あの頃はそれが本当だと思っていて」

シンの記憶の中にいる実母はほとんどがベッドに横になっている姿で、良くてベッドか椅子に座っている所。
立っている所、ましてや歩いている所は全くと言って良いほどに記憶がない。
そんな母に少しでも元気になってもらいたくて、シンは小さいなりにいい子でいようとしたのだけれども。

「ママが喜ぶから、いつも笑っているようにした。勉強も乗馬などの稽古も、ママが褒めてくれるから頑張った。でも・・・」

わずかに、繋がっているチェギョンの手を強く握ったシン。
子どもなりに考えて頑張ったけれども、それが報われなかった。
そう言いたいのだろうけれども、そう口にする事に抵抗か恐怖を感じているらしい。
チェギョンが安心させるかのようにもう一方の手をチェギョンの手を握るシンの手に重ねると、シンは言わずとも伝わったと感じたのか繋がれた手から力を抜いた。

「父上が再婚して母上が俺の母上になってくれた時も、母上は優しい人だって思ったけど頭のどこかで嫌われちゃいけないって思ってて、やっぱり手を抜けなくて。そのうち父上が皇太子に、俺が皇太孫になって。今度は、その立場故に手を抜けなくて」

シンが皇后に甘えられなかったのは、シンなりに理由があった。

(そうだよね。シン君が理由も無しに何かをするとは思えないもんね)

「俺が悪い子だと、ママにも母上にも、そして父上やおじい様やおばあ様にも嫌われる、捨てられるって・・・」
「そんなこと」

シンの言葉を否定しながら、チェギョンはある事に気付いた。

(ひとり、名前が出て来なかった)

上皇は、チェギョンに大まかな事情は説明したけれども先入観を与えないために誰がシンの害になっているか見当がついているにもかかわらず、その情報を教えなかった。
だから、チェギョンは今初めて、ファヨンに疑いの目を向けた。

(まさか・・・シン君が変わった原因を作ったのって・・・)

普通に考えれば、ファヨンはシンの伯母。
しかも実母を亡くしたシンにしてみれば、祖母以外では貴重な女性の身内に当たる。
それなのに、シンを守るどころか傷付けるような事をするだろうか。

(でも・・・)

小さい頃に遊んだ記憶では、チェギョンから見てお世辞にも優しい人には見えなかった。
滅多に会わないからそう感じたのか、それとも普段からそういう態度だったのか。
後者だとすれば、シンが内向的になったのも頷ける。

(でもこれって、小さかったシン君の思い違いで片付けられちゃったりしないかなあ)

仮にチェギョンが上皇に報告したとしても、ファヨンが言い逃れてしまえばそれまで。
過去の、それも幼子の記憶などきっと簡単に握りつぶされてしまう。
果たして、上皇に報告して意味があるのだろうか。

(ま、シン君が口に出来ただけでも、収穫だよね)

ただ、収穫が会った反面、チェギョンにしてみれば不安に思える事もあった。

「チェギョン姉さんは、俺が悪い子だって思う?」
「思うわけないじゃない」

どこか幼い物言いに、チェギョンがキッパリと言うと、シンは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、チェギョン姉さんは俺を捨てないよね?」

シンの言う“捨てる”は、どういう意味なのだろうか。

(陛下のおじいちゃんに報告しても進展はないかもしれないけど、早いとこ報告してこのアルバイト終わらせた方が良いかも)

シンに頼られるのがイヤなわけではない。
シンが懐くのはキライではない。
むしろ、子どもっぽいけれども可愛らしいと表現したくなる表情は見ていて楽しい。
でも。
チェギョンにとってシンはシンだけれども、シンは皇太子なわけで。
これ以上踏み込まない方が良いと、チェギョンの中で警告音が鳴る。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「って、シン君が言ってました」

数日後。
お妃教育云々は関係なく、チェギョンがデザイナーを目指している事、チェギョンが刺繍に興味を示した事から、皇后に刺繍を教わる事になった。
一通り説明されるとチェギョンは嬉々として皇后とともに熱心に針を動かしていたけれども、何となく皇后の醸し出す空気に誘われるように、手を動かしながらも先日のシンの様子とシンが口にした言葉を伝えた。

「そう。太子がそのような事を・・・」
「皇后陛下?」
「・・・気を悪くなさらないでね」

そう前置きをした上で、慎重な皇后らしからない心の内を吐露するという行動に出た。

「私が5年以上出来なかった事、チェギョンさんはあっさりやって退けてしまうのね」
「皇后陛下、それって・・・」

思わず手を止めて、礼儀に反すると分かっていながらも皇后の顔をマジマジと見てしまった。
シンに何かをしたらしいファヨンと違って、チェギョンは皇后からシンに対する悪意を感じた事は無い。
ただ、どこか遠巻きにシンを見ている気がしていた。
それは、単に前の妃の子どもだったから関わりたくなかったのか。
近付きたいのに、近付けなかったからなのか。
今の言葉から、後者だと考えて良いのだろうか。

「本音を言うとね、上皇陛下からお話を伺ったとき、あなたを警戒していました」
「え?」
「上皇陛下のお頼みとは言え、“お金”のために、太子のためではなくお金のために来られるのだと」
「・・・申し訳ありません」
「気を悪くなさらないで、と申し上げましたでしょう?」
「でも・・・」
「まだ終わっていないのよ?」
「はい」

確かに、言葉とは裏腹に皇后の醸し出す空気は優しい。

「切っ掛けはお金のためだったかもしれない。でも、こちらに来られてからのあなたは、そんな事忘れていたのでは?」
「・・・」
「私から見て、純粋に、それも“太子”のためではなく“シン”のために一生懸命にやってくれていた」
「それは・・・」
「謙遜する必要は無いわ。太子を見れば、誰でもそう思うでしょうから」

チェギョンが来てからのシンの変化は、上皇以下大人たちの毎日の話題だった。
シンが心を開いているであろう上皇や皇太后でも、シンのあそこまでの表情を引き出せたとは思えない。

「あなたひとりに頼る事になって申し訳ないけれども、これからも太子をよろしくお願いしますね」

ここへ来た頃なら、即座に「はい」と言えた。
でも、自分でもよく分からない漠然とした思いがあるから、返事が出来ない。
代わりに、質問をした。

「こんなことを聞いても良いのか分からないのですが」
「何かしら?」

どう聞こうか躊躇ったチェギョンは、敢えて直球で尋ねた。

「皇后陛下は、シン君がキライですか?」

思いもしなかった質問に、皇后は針を持つ手を止めた。
そして、チェギョンをじっと見たあと、何とも表現し難い笑みを見せた。

「チェギョンさんから見て、私が太子を嫌っているように見える、という事かしら?」
「そういうわけでは・・・」
「構わないわ。思っている事を仰って」

嫌味でもなんでもなくチェギョンが感じている事を聞きたいと言う表情を見せる皇后に、チェギョンはわずかに目を伏せ躊躇いながらも口を開いた。

「嫌っているとは思っていません。ただ・・・」
「ただ?」
「どう接していいのか分からない、あるいは何かに誰かに遠慮している、と感じます」

皇后がどう反応するだろうと伺うように目を上げると、皇后は針を針山に戻し真剣な表情でチェギョンに向き合った。

「続けて」
「・・・あたしは、シン君の本当のお母さんを覚えていません。もしかしたら、会っていないのかもしれません。だから、あたしにとってシン君のお母さんは皇后陛下です。でも、シン君の中に本当のお母さんがいるのは分かります。だけど、それでもシン君にとって皇后陛下もお母さんだと思っている事は知っています」

わずかに、皇后の目が見開かれた。

「さっきお話しした通り、シン君は怖がってます。根本から不安を取り除かなければ意味が無いのかもしれないけど、それでも、皇后陛下がシン君を皇太子としてではなく息子として接してあげれば、何かが変わるのかなって。ただ、シン君が思ってるだけで皇后陛下を“お母さん”と呼べないように、皇后陛下も立場や思う事があってシン君に対して息子として接する事が出来ないのかなって・・・」

チェギョンの言葉に、皇后がほうっと息を吐いた。

「私が陛下のお傍に上がった時、太子は10歳でした。良くも悪くも、以前の事を覚えていて大人の話を理解出来る年齢。そして私は、初めての結婚で当然子どもを持った事も無い。太子に対しどう接していいか戸惑うばかりでした」

いつもシン側からしか物事を見なかったチェギョンが、ハッとしたように顔を上げた。

「子どもは嫌いではないけれども、10歳の男の子となると子どもというよりも年の離れた弟のようで。姉妹ばかりの中で育った私には、どんな話題を持ち出せば良いのか、どんな風に関わって行けば良いのか分からない事ばかりでした。そんな私の戸惑いが、太子との間に線を引かせてしまったのかもしれません」
「分からないなら、聞けば良いじゃないですか」

今度は、皇后がハッとした表情を見せた。

「シン君は、ちゃんと言葉が通じます。人の心が分からない人じゃありません。皇后陛下が戸惑うように、シン君だって戸惑ったんです。シン君は言いませんでしたけど、きっと、困らせたら皇后陛下までいなくなっちゃうって思ったんです。それがイヤだから、息子としてより皇太子としていようとしたんだと思います」

切っ掛けが何であれ、自分に対する一歩引いた態度の理由はチェギョンの言うとおりかもしれない。

「チェギョンさんは、良く見ていらっしゃるのね」
「そんなことは・・・」
「いいえ。だからこそ太子の人には見せない思いも分かるし、チェギョンさんは嘘や言い訳をしないから、太子も心を開くのでしょうね」

チェギョンにとってそれは当たり前の事だから、褒められると何とも身の置き所に困る。
居心地悪そうにするチェギョンに、皇后はクスリと笑った。

「宮にいるのはお嫌かしら?」
「いえ、そんなことは・・・」
「太子の事をよく分かってくれ、そしてこうして刺繍も楽しんでくれている。とても嬉しいです」

そう言って、再び針を手にした皇后。
それに続くようにチェギョンも針を取ろうとしたが、皇后が呟いた言葉に手が止まった。

「今回のための偽の許婚ではなく、本当に太子のそばに上がって頂けたら良いわね」
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2014年04月19日

会うは別れの始め 8

チェギョンの問いに答えず、食べられそうなものを次々と口に放り込むシン。

「急いで食べなくていいわよ。答えたくないなら、答えなくていいし」

こういう所が、他の人と違う。
他の人も、答えなくていいと言うだろうけれども、それはシンの皇太子という立場に遠慮してのこと。
でも、チェギョンは違う。
無理しなくていい、という意味で答えを要求しない。

「・・・頭では分かってるんだ」
「そっか」

そう言ってちょっと乱暴とも言える仕草でグリグリとシンの頭を撫でたけれども、シンが言葉を続けなくても決して急かさない。
むしろ、たった一言答えただけで、嬉しそうにしている。
だからこそ、答えないことが申し訳ない気になるからポツリポツリと答えてしまう。
しかも、どう見ても計算したものではないから“敵わない”とさえ思えてしまう。

「母上が俺の母上になってくれたことが、イヤなわけじゃない」
「うん」
「でも・・・」

そう言って、言葉を切ったシン。
チェギョンは先を促すのではなく、シンと間近で接するようになって分かって来たシンの好みを考慮しながら、シンの前にいくつかの食べ物を置くと、飲み物を注いだ。
そんなチェギョンの行動に、シンは再び口を開いた。

「記憶なのか思い込みなのか、もう分からないけれど。俺がそれに囚われていることは分かってる。でも・・・」

2度出て来た『でも』という言葉に、如何にシンがその何かに囚われているかが感じられた。

「あたしが聞いたのにこんなこと言うのもどうかと思うけど、無理に話そうとしなくても良いよ」
「チェギョン姉さん・・・」
「ただ、時々感じるの。皇后陛下を前にするとどう反応して良いか分からなくて困ってるって。そう感じたから聞いてみただけ。だから、無理に話そうとしなくていいよ」
「・・・よく見てるな」
「そりゃ、コン内官のおじさんやチェ尚宮お姐さん以外で一番近くにいるのはあたしでしょ?」
「・・・確かに」

小さい頃から接して来たチェギョンの発する言葉は、いつだって言葉通りだった。
だから、今の言葉にも深い意味はなく至って言葉通りだと思うのだけれども、それまで年上の幼なじみという感覚でしかなかったチェギョンが今は未来の皇太子妃見習いとしてそばにいるわけで、今までに感じたことのない、イヤな思いはないけれどもどこか居心地が悪いという不思議な感情が芽生える。

「だから、あたしが気付いても不思議じゃないでしょ?尤も、コン内官のおじさんとかに吐き出せているんなら余計なお世話でしょうけど」
「でも、姉さん以外には聞かせられないだろ?」

3度目の“でも”は良い傾向と思えるものだから、チェギョンが否定することは出来なかった。
ましてや、チェギョンはそのためにここにいるのだから。

「じゃあ、話せると思ったら聞かせてね」

その言葉を合図とするかのように、シンは周囲に目をやり、コン内官やチェ尚宮やイギサなどがいないことを確認してから口を開いた。

「さっきも言った通り、母上が俺の母上になってくれたことがイヤなわけじゃない」
「うん」
「俺は産んでくれた母上の記憶って横になっている所ばかりで殆ど一緒に過ごせなかったから、母上が父上と結婚してくれたことは嬉しかった。例えそれが政略的なものであったとしても」

シンの母である皇后は、シンの実の母ではない。
シンの実母であるユン氏は体が丈夫ではなく、シンを出産した後体調を崩し、シンが6歳の頃にこの世を去った。
その後シンの父は何を考えてかなかなか再婚しなかったが、シンが小学校4年生の時に今の皇后であるミン氏を妃に迎えた。

「だけど・・・」

そう言ったきり、どこか遠くを見るような目つきになったシン。
心の奥にある余り触れたくない箱に触れようとしているのだろうと思い、チェギョンは止めようとシンの手に自分の手を重ねた。
でも。

「大丈夫。チェギョン姉さんになら話せる」

と言って、わずかに微笑まれてしまえば止められない。

「でも、こうしてていいかな?」

チェギョンが重ねた手と自分の手を繋いだ。

「うん」

手を重ねた時には何も思わなかったけれども、手を繋がれた瞬間、チェギョンは以前のことを少し思い出した。
それほどシンと頻繁に会っていたわけではないけれども、その中で時折シンがやたら手を繋ぎたがる時があった事を。
シンより年上だから頼られたのだろうけれども、もしかしたら今シンが口にしようとしている何かがあったからこその行動だったのだろうか。

「チェギョン姉さん?」
「小さい頃も手を繋いだけど、シン君ってやっぱり男の子なんだね」
「え?」
「小さい頃って、3つの差がとても大きいじゃない?シン君の手が小さく感じてたんだけど、もうあたしより大きいんだね。それに、色々なお稽古してるからかな。タコが出来てたりあたしの手よりずっとガッシリしてたりとかして、男の子の手だよね」

シンが何を言おうとしているのか分からないから、当たり障りのない気付いた事を口にした。

「・・・チェギョン姉さんの中では、俺は永遠に弟?」
「シン君?」
「いや、何でもない」

そう言いながらも、シンは繋いだチェギョンの手を指先で撫でた。

「チェギョン姉さんの手は、小さい頃から変わらずにい柔らかくて温かいよな」
「そう?」
「ああ。俺さ、母上・・・産んでくれた母上と手を繋ぐのって、母上の体調がそこそこ良い時だけで、それもベッドの上で。さっきみたいに、手を繋いで歩くなんて出来ると想像した事もない。それ以外の時は近寄らせてもらえなかった。で、今の母上とは手を繋いだ事はない。だから、俺にとって手を繋ぐのって、姉さんとの思い出が一番多いんだよな」
「そうなの?」
「ああ。産んでくれた母上は・・・」
「シン君」
「何?」

チェギョンが遮った事に驚きながらも、それを遮るつもりはない。
素直に、何か気になるのだろうと話を向けてみた。

「普段は、そうね、シン君の心の中ではシン君の本当のお母さんの事、何て呼んでるの?」
「・・・」

チェギョンに分かるように伝えていたつもりだったけど、分かりにくかっただろうか。
それとも、単純に興味なのだろうか。
だが。

「姉さんは知ってるから良いか」

理由はどうでも良かった。
他の人の手前なら色々と思ったかもしれないけれども、チェギョン相手に隠そうとも隠せるとも思えない。

「俺が小さい頃、産んでくれた母上の事は“ママ”と呼んでたのって覚えてる?」
「うん」
「だから、今でも心の中では“ママ”だな。この年でおかしいとは思うけど」
「そんな事無いよ。あたしだって、まだママって呼んでるもん」

性別や立場を思えば同列に考えるべきではないのかもしれないけれども、でも何でもない事のように肯定してくれた事が嬉しい。

「今の母上の事は、小さい頃に一度“ママ”って呼ぼうと思った事はあるんだけど、呼べなかった。さすがにこの年で“ママ”とは呼べないから、“お母さん”と呼ぼうとしたけど、結局は“皇后陛下”だな」

確かにチェギョンが知る限り、シンは今の母の事を“皇后陛下”としか呼ばない。
とっても他人行儀に感じられて、なぜ、と聞かずにはいられないほどに。

「今から言えば良いじゃない」
「あっさり言うなよ」
「どうして?それに、何で呼べないの?本当のお母さんじゃないけど、でもシン君のお母さんじゃない」

笑いたくなるぐらい、当たり前の事じゃないとばかりに言い切られてしまった。

「そう・・・そうだな。でも・・・」
「でも?」
「さっきも言った通り思い込みなのか、本当に言われたのかは分からない。そして、俺が勝手に囚われているのも分かってる。でも、小さい頃からワガママを言ったら皇后・・・母上にも捨てられるって感じてて」

それまで“皇后陛下”としか呼ばなかったのに、“母上”と呼んだ。
その事に嬉しそうに微笑みたかったけれども。

「捨てられる?」

聞き捨てならない言葉が含まれていた。

(これなの?シン君を縛っている何かって・・・)
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2014年04月07日

会うは別れの始め 7

「シン君、行くよ~」

春の暖かさに誘われるように、チェギョンが東宮殿を飛び出して声を上げた。

「チェギョン姉さん、そこまで嬉しそうにしなくたって・・・」
「あら、楽しみじゃない。シン君は、楽しみじゃないの?」
「・・・宿題のためだし」

シンが課題に対する協力を求めた数日後の休日。
約束を果たすためという名目のもと、チェギョンが率先して東宮殿を飛び出した。

「もう。ほら、行くよ」

チェギョンは、昔のようにシンの手を引いて走り出した。

「チェギョン姉さん、ダメだって」
「ふふふ。昔と同じ」
「わざとかよ」

小さい頃、法度なるものを知らなかったチェギョンが、今のようにシンと手を繋いで走り出そうとしてシンに教えられた。
宮の人間は、走ってはいけないと。
それを覚えていたチェギョンだけれども、敢えてあの頃のように法度を無視し、諌められるとペロリと舌を出して笑った。

「ったく、韓服着ててそれかよ」
「細かいわね。文句言うなら、手伝わないわよ」
「俺が逆らえないと思って・・・」
「もちろん♪」

屈託なく笑うチェギョンに、思わず目を逸らしてしまった。

(何でだろう)

小さい時から何度も会っている、本当の姉ではないけれどもそれに近い存在のはずなのに。
今まで何とも思わなかったし、学校で女子生徒を見てもそんなふうにしたことはないどころかその存在を意識したことすらないのに。
行儀見習いに来たチェギョンと時間を過ごすうち、勝手が違ってきた。
子どものようなやり取りをしている時はどうということはないのだけれども、学校から帰ったときにニッコリと笑って出迎えられた時や、今みたいに屈託なく笑っている時。
何より、視界に殆ど入れなかった学校の女子生徒達とは全くと言って良いほどに違う、わずか3歳、されど3歳の差を見せつけられる、大人びた眼差しを見た時。
シンは、どうして良いか分からなくなる。
でも。

「シンく~ん」

物思いに耽る間を与えてくれない、そして逆らうことの出来ない明るい声が自分を呼ぶ。

「見て見て。あっちこっちお花が咲いてる」
「ああ。それを専門に管理する職員がいるから、常に何かしら花が咲いている」
「この広い敷地の中、全部?」
「ああ」
「すごいね」

自分で気付いて驚くぐらい、チェギョンを前にすると自然と笑みが出る。

「そう思うのなら、花を見て回れば良い。彼らとは直接会わないけれども、もしかしたらどこかで見ているかもしれないぞ?」
「そうなの?」

例えどんな嘘でも素直に聞き入れてしまいそうな真っ直ぐな瞳。
そして、嬉しそうに輝く笑顔。
宮という特殊な世界ではあり得ないぐらい、感情に素直な様子がシンを惹き付ける。
だから、つい

「この先に小さな川が流れている。川に沿って一見手を入れていないようで、自生しているように見えるよう手を入れている。きれいに整えるより難しいと思う。行ってみるか?」

と、誘ってみたりした。

「もちろん!」

宿題のためというのが本題だったはずなのに、それが二の次になっている気がするけれども構わなかった。
カメラを向けるのも、宿題のためではなく自分にはないその明るさを留めておきたかったから。
花々に目を向けているのはもちろん、降り注ぐ太陽の光を体いっぱいに浴び、むしろ太陽を抱き締めるかのごとく勢いで手を広げているのを見ると、考えるまでもなく勝手に体がカメラを向けていた。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「シン君、ご飯食べよ~。お腹空いた~」

いくら見ても見終わらない花々、いくら歩いても歩き切れない広大な土地。
それらを前に、チェギョンのお腹が悲鳴を上げた。

「じゃあ、さっき通った東屋まで戻ろう」
「え~」
「なんだよ」
「お腹空き過ぎて、歩くのイヤ」
「こどもかよ」

悪態をつきつつも、シンは手を差し出した。

「ほら。引っ張って行ってやるよ」
「え~、おんぶ~」
「冗談だろ」
「うん、冗談」

どちらが年上だか分からないやり取りをしつつも、どちらも楽しそうに笑っている。
チェギョンがいない時のシンしか知らない人が見たら、間違いなく幻を見たと思う光景。

「ほら、行くぞ」

シンに手を引かれ、東屋へと向かった。

「お姉さん、ありがと」

昼食を運んで来たチェ尚宮が見えると、チェギョンはあっさりとシンと繋いだ手を離して駆け寄って行った。
突然手を離されたシンは、離れて行くチェギョンの手を追い掛けるように手を伸ばしたけれども、戸惑ったように手を握りしめるとそれを下ろした。

「すご~い」

チェ尚宮が持って来たバスケットを覗き込んだチェギョンが、嬉しそうに声を上げた。

「シン君、早く食べよ~」

シンが東屋に入ってくると、チェ尚宮は一礼して東屋を後にした。

「座って」

チェギョンの言葉に、シンが大切そうにカメラを置いてから座った。

「シン君、提出出来そうな写真撮れた?」
「ああ」
「見せて」
「ヤダね」
「何でよ」

お手拭きを渡しながら、ニヤリと笑ったチェギョン。

「いいもん。学校に見に行っちゃうから」
「学校って・・・。姉さん大学生だろうが」
「あら、あたしはあの学校の卒業生。シン君の先輩よ?」
「あ・・・」

忘れていたらしい。
そして。

「ごめん」
「え?」
「チェギョン姉さんの夢を奪うんだな」

チェギョンがデザイナー事務所でアルバイトしていることを知っていたはずなのに、ようやく気付いた。
シンにとってチェギョンのアルバイトは、チェギョンと会える時間が減ることを意味するだけのものだったけれども、その事実を違う角度から初めて見た。

(あれ?それって・・・)

でも、チェギョンが気付いたのはそこではなかった。

(ま、いいか。今聞いても、答えないかもしれないもんね)

そう思い、バスケットの中身を次々に並べて行く。
広げられて行くいつもと違う昼食に、シンの表情が一瞬変化を見せた。

「いつもとちょっと違うけど、食べられないものじゃないわよ」
「・・・何も言ってないだろ」
「顔が言ってるの。あたしは宮の常識を知らないから行儀見習いに来たけど、シン君は世間の常識を知らなさ過ぎる。勉強するべきよ」

何か思うことがあるのか、ぶすっとした表情で無言の抵抗を見せるシン。

「分かりました、殿下。出過ぎた真似をしましたこと、お許し下さい」

とチェギョンが謝ると、シンの表情に変化が。

「どうかなさいました?」
「その他人行儀な態度、やめてくれ」
「え?」
「行儀見習いかもしれないけど、その、結婚してからもそういう態度を取られるのかと思うと、イヤだ」

どこか恥ずかしそうに、視線を逸らすシン。

(あれ?まただ。結婚するのイヤだって言ってなかったっけ?)

飼い馴らし過ぎたせいか、単に幼なじみが遊びに来ているぐらいの感覚のだったはずのシン。
そのシンの口から、“結婚”という言葉が出るとは思わなかった。
しかも、チェギョンが行儀見習いに来た当初を思えば、進歩していると言える発言。

(ま、いいか)

チェギョンは、このアルバイトが終わればシンとの縁が切れると思っているからあっさりと割り切ると、ニッコリと笑った。

「うん、分かったわ。シン君」

ホッとしたように、表情が和らぐシン。

(かわいい)

高校生の男の子に向かって言う言葉ではないと分かっていても、そう表現するのがピッタリ来る。

「学校でもお弁当だろうから、こういう冷めたものは食べられるでしょ?」
「ああ」
「味付けはシン君の好みを考慮してもらったけど、あたし達国民がどんなものを食べているか知るのも、悪い事じゃないと思うわよ」
「ああ」

他の人が同じことを言ったら、黙殺した。
でも、小さい頃から他人に心を開くことを苦手として来たシンだけれども、チェギョンにだけは心を開いていた。
シンの皇太子という地位に媚を売らず、容姿を気に入るでもなく、むしろ弟かなにかのように遠慮なくこき使うし、違うことは違うとハッキリ言うし、シンに何も求めない。
だから、素直に頷ける。
そして、他の誰も出来ない質問にも、怒らない。

「ねえ、シン君。聞いても良い?」
「ダメって言っても、聞くんだろう?」

余程法度に触れることでもない限り、チェギョンが自分の考えを曲げることはないから。
それを知っているから諦めているとでも言いたげに問うシンに、チェギョンはクスリと笑った。

「行儀見習いに来てからのシン君を見てて思ったの。今の皇后陛下のこと、まだ“お母さん”って呼べない?」
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2014年03月29日

会うは別れの始め 6

チェギョンが東宮殿で暮らすようになってひと月ほどが過ぎた。
その過ぎた時間はもちろんのこと、チェギョンのあの言葉が、そしてシンを皇太子として扱わない態度が、シンを変え始めた。
今まで、学校から帰って来ても黙って部屋に入って着替え、黙ってコン内官の指示を受けてその通りに動いていたシン。
それが、帰って来るなり開口一番、

「チェギョン姉さんは?」

と尋ねる。
自分が欲しい情報だから口を開く、と言えばそれまでかもしれないけれども、以前のシンを思えばものすごい進歩。
尤も、朝のうちにチェギョンの帰って来る予定時刻を聞いているので、チェギョンが大学の授業やらアルバイトやらで帰りが遅い日は、帰って来ても何も言わないし、確実に機嫌が悪くなるし、チェギョンが帰って来るまで誰とも口をきかない。
時には、学校で何だかんだと時間を潰し、警護をするイギサをヤキモキさせることもある。
もちろん、反対にチェギョンがシンより先に帰ってくると分かっている日は、無言の圧力でイギサを急かして可能な限り早く帰るようにし、

「シン君、おかえり~」

と、チェギョンに迎えられると、お預けを喰らっている犬状態でチェギョンの前にすっ飛んで行く。
どちらにしても、最後はチェギョンに頭を“ヨシヨシ”と撫でられてご機嫌。
傍から見れば、どう見ても許婚とは言い難い雰囲気で、姉弟と言うべきだけれども、それでも確実にチェギョンの存在がある効果が現れている。

(ちょっと餌付けし過ぎたかな?と言っても、餌与えてないしなぁ)

職員達がシンの変わりように驚くのと同じく、その変化を引き出したチェギョンも驚いていた。
なぜここまで懐かれるのかチェギョンにも分からないけれども、嫌われるよりは良いからとそのままにさせている。

(ちっちゃい頃のシン君って言えばそうなんだけど・・・)

チェギョンの中では、シンは小さい頃に遊んだシンであって、今現在の高校生で皇太子であるシンを前にしても、やはりあの頃のシンのイメージで接してしまう。
だから、そういう意味ではシンの態度に違和感はないのだけれども、周囲の反応を見るとそれで良いのだろうかと思わずにはいられない。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「チェギョン姉さん、頼みがあるんだ」

ある日の夕食の席で、当たり前にシンが口を開いた。
でも。

「なあに?」

自宅では食べられないような手の込んだ料理が並ぶこの時間が楽しみなチェギョンは、返事をしても目はお皿の上。
それが面白く無いシンは、おもむろに立ち上がるとチェギョンに近付き、チェギョンの意識を奪うその皿を取り上げた。

「あん!ちょっと、シン君」
「俺が話し掛けてるだろ。聞いてくれよ」
「聞いてるじゃない」
「どこがだよ。どう見たって、食い気が勝ってるだろ」
「だって美味しいんだもん。楽しみじゃない。ま、シン君には分からないんだろうけど」

チェギョンが来た日のやり取りを思い出し不服そうな顔をしながらも、シンは皿を持ったまま自分の席へと戻った。

「ちょっと、返してよ」
「俺の話を聞いてくれたら」
「じゃあ、早く言ってよ。冷めちゃうじゃない」

やはりどう聞いても、シンの頼み事よりも美味しい食事が優先らしい。

「学校の課題に協力してほしいんだ」
「課題?」
「ああ。自分でテーマを決めて、それに沿った人物写真を1枚提出するんだ」
「まさか・・・」
「顔は出ないようにするからさ、姉さん撮らせて」
「冗談でしょ」
「いや、マジ」

シンの真剣な表情に何かを感じたのか、それまでは早く食事をしたいという顔をしていたチェギョンがシンの言葉を聞く姿勢を見せた。

「なんであたし?」
「撮りたいと思ったから。それじゃダメ?」
「ダメって訳じゃないけど・・・」

写真を撮られるのが嫌いなわけではない。
むしろ、友人達とは率先して撮るタイプ。
だから、シンがただの趣味で撮ると言えば、ノリノリで応じたかもしれない。
でも、課題ということは、人の目に触れるということ。
チェギョンの心配が分かったのか、シンは何とも表現し難い表情になった。

「だから、顔を出さないって言っただろ?チェギョン姉さんが余計な騒ぎに巻き込まれることになったら困るし。ただ・・・」
「ただ?」
「こんなこと言ったら、チェギョン姉さん怒るかもしれないけど。俺が被写体にして害のない相手って、チェギョン姉さんぐらいしかいないんだ」
「どういうこと?」
「今、チェギョン姉さんが警戒していたのと同じ理由。根も葉もない噂を立てられるだけならまだしも、被写体になったヤツが好き勝手言いふらしたらどうなる?」
「・・・」
「今、チェギョン姉さんが行儀見習いという形でここに来ていることからも分かるように、ちょっとした噂話でさえ結婚に直結する状況なんだ。そんな時に、迂闊に誰かに頼めないだろう?」

皇太子という立場故の窮屈さが垣間見える。

「今まで、どうしてたの?」
「たまたま、人物を入れろという指定がなかったから、入れずに撮影していた」
「そう。じゃあ、仕方ないね」
「え?」
「シン君が言ったんじゃない。害がないのはあたしだけだって。そう言われたら、引き受けないわけにはいかないでしょ?」

自分で頼んだものの、こうもあっさりと受け入れられると拍子抜けする。

「いいのか?」
「自分で言ったくせに」
「そうだけど・・・」
「シン君の腕前は知らないけど、シン君が言ったことを守ることは知ってるから。シン君がそう言うってことは、あたしに害が無いように配慮する自信があるんでしょ?信じてるから」
「・・・」

その言葉を証明するかのように真っ直ぐに目を見られ、思わず目を逸らしてしまった。

「シン君、テーマは決めたの?」
「チェギョン姉さんを撮るなら、テーマは簡単だ。『春』に決まってる」
「何で決まってるの?まさか、今が春だからとか言う安易な発想じゃないでしょうね?」
「俺をバカにしてる?」
「してない。して勝てるとも思えない」

チェギョンの前では幼い言動を見せるシンだけれども、頭の回転は速いから、小さい頃から何度もチェギョンがやり込められて来ている。
年が離れているのに・・・と思ったのは最初の頃だけで、なぜかチェギョンはその状況を当たり前に受け入れていた。

「ま、いいわ。いつにする?提出期限があるだろうから、のんびりもしてられないでしょ?」
「チェギョン姉さんの予定は?俺は週末なら空いてるけど、アルバイトがあったりしない?」
「来週から忙しくなるって聞いてるから、今週なら休ませてもらえると思う。明日お願いしてくるね」

そう言うと、手を差し出したチェギョン。
頼みを引き受けたのだから取り上げられた皿を返せという意思表示に、シンは苦笑しながらも立ち上がるとチェギョンの前に皿を置いた。

「ねえ、シン君。どこで撮るの?東宮殿の中?」

大切な食事さえ戻ってくれば、チェギョンは興味津々と言った体で尋ねてくる。

「春って言うぐらいだから、建物の中じゃ表現出来ないよ」
「素直じゃないんだから。外で撮るって言えば良いじゃない」
「素直じゃないのは、昔からだ」
「自覚してるんだ」

遠慮のないチェギョンの言葉に軽く睨んだけれども、チェギョンに動じた様子はない。

「服装は、どうしたら良い?」
「そうだな・・・。チェギョン姉さんの部屋に、韓服は用意されてるだろう?」
「うん。皇太后陛下と皇后陛下が用意して下さったんだって」
「・・・それなら、韓服にしよう。色は、チェギョン姉さんに任せる」

わずかに言葉に詰まったシンを、一瞬注意深く見守ったチェギョンだったけれども、シンがそれに気付く前に頷いた。

「わかった。それじゃあ、写真撮らせてあげる代わりに、あたしのお願いを1つ聞いて」
「・・・」
「そんなに警戒しないでよ」
「だって、チェギョン姉さんのお願いって、いつも俺には想像出来ないことばかりだから」

どこか違う国の言葉を聞いている気がするぐらい、シンの常識では計り切れないことを言い出す。

「そんなにおかしなこと言ってるつもりはないんだけどな」
「それで?」
「写真撮るついでに、お昼ご飯を外で食べましょ」
「外で?」
「そう。忘れちゃった?小さい頃、おやつ食べたでしょ?」

全く記憶にないのか、首を傾げるシン。

「覚えてないか。“今度遊ぶ時には、お外でご飯食べようね”って約束したじゃない」
「そうだっけ?」
「覚えていないなら、それでも良いわ。でも、ダメ?」
「わかったよ」

小さい頃から、チェギョンが無意識に首を傾げて上目遣いでお強請りしてくると、勝てなかった。
それは、今も変わらないらしい。
それどころかあの頃と違い、その可愛らしい仕草、逆らえない眼差しに、なぜか頬が熱くなる気がした。
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2014年03月15日

会うは別れの始め 5

夕食が済んでしばらくした頃、チェギョンは好奇心から東宮殿の中を散歩することにした。
もちろん、ざっと東宮殿内の案内は受けているのだけれども、気の向くまま足を向けてみたい。
そう思って部屋を出ると、この遅い時間にも関わらず放たれているパビリオンからテラスへと向かう扉の向こうに人影を感じたので、足音を立てないように静かに近付いて行くと。

「殿下。本日の会では全くご発言がございませんでした」
「だから?」

テラスのベンチにやる気が無さそうに座るシンと、それを見守る困り顔のコン内官がいた。
この東宮殿に案内された際にチェ尚宮から聞かされた、いわゆる親族の中でも若者の集まりに出ていたシンが、全く口を開かなかったらしい。

(なんでだろう?)

大人ばかりの中に入ったのなら話しづらいだろうけれども、若手の集まりならそれほど年齢差は無いはず。
自分ならばきっと、色々な話をするだろう。

「あいつら、バカばっかりだし」

軽蔑したように吐き捨てるシン。
それきり黙ってしまったシンにお手上げなのか、コン内官は一礼するとシンを残してその場を後にした。
だが、パビリオンへと足を踏み入れた瞬間、チェギョンの姿を見つけて足を止め一礼した。

「チェギョン様」
「シン君は、このあと何か用があるんですか?」
「いえ、本日はございません」
「じゃあ、シン君とお話しして来ても大丈夫ですか?」
「はい」

おそらく自分とシンのやり取りを聞いていて、シンを諌めてくれるのだろう。
そう思ったから、コン内官は頼もし気にチェギョンを見送った。
でも。

「シ~ン君」
「・・・」

シンがぶすっとした表情で、チラリとチェギョンを見てから視線を逸らした。
そんなシンに、チェギョンは思いもしない方法に出た。

「!」

顔を背けたシンの頬を、両の手で挟むと自分の方へと向けたのだ。
今まで、誰もこんなことをしたことなどない。
その上。

「チェギョン姉さん」
「良い男なのに、そんな仏頂面してたら勿体ないじゃない」

と、何とも気の抜ける言葉が返って来た。
さらに、コン内官の予想を裏切る言葉を続けた。

「怒るのも泣くのも、ひとりでしないで」
「・・・」
「何も言わないでほしいのなら、黙って聞いてる。慰めてほしければ、求めてる言葉じゃないかもしれないけど慰める。泣きたければ、いくらだって泣きわめけば良い。そんなことで、シン君に幻滅したり嫌いになったりしないから安心して」

シンにとっても、意外な言葉だったらしい。

「チェギョン姉さん」
「何?」
「説教しに来たんじゃないのか?」
「どうして?」
「どうしてって・・・聞いてたんだろ?きっと、コン内官にでも説教して来いって言われたんじゃないのか?」
「言われてないよ」

事実だから、即答したチェギョン。

「だって、あたしはシン君の教育係として来たんじゃないんだもん」
「・・・」

夕食の席でシンが言った言葉が。返って来た。

「だから」

そういうと、ストンとシンの隣に腰を降ろした。

「愚痴なら聞いてあげるから。そうやってひとりにならないで」
「・・・」
「コン内官のおじさんに言えないことでも、あたしになら言えることってあると思うの。まあ、あたしには分からないこともあるかもしれないけど、ただ聞くだけなら出来るから。ただ思ってるより、口に出した方が楽なこともあるから。聞いてほしかったら、いつでも言ってね」
「・・・」

シンが何も言えずに、でもどこか縋るようにチェギョンを見ていると、呆気ないほどにあっさりとチェギョンは立ち上がって部屋へと向かって行った。

「チェギョン様・・・」

先ほどとは違う意味で困惑した表情のコン内官が、待っていた。
きっと、今のやり取りを聞いていたのだろう。

「期待してた結果じゃなくてごめんなさい。でも・・・」
「いえ、宜しいのです」
「え?」

困惑していたのが嘘のように、笑みを浮かべている。
コン内官が考えていることが分からない。

「先ほどのチェギョン様のお言葉は、他の誰も言えません。チェギョン様だからこそ、殿下に掛けられるお言葉と存じます」
「う~ん、そんな事無いと思いますけど」
「チェギョン様はご覧ではないのかもしれませんが、先ほど殿下はチェギョン様のお言葉に、普段の殿下なら決して見せることのない弱々しい表情をなさいました。殿下のお心に、チェギョン様のお言葉の何かが届いたのかもしれません」
「そうだといいですね」

コン内官が思うほどには自分がしたことのすごさに気付かないらしいチェギョンは、チェ尚宮を見つけてその後を追うように部屋に入って行った。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョンが、シンの許婚として東宮殿で暮らすようになって10日ほどが過ぎた。
一見すると、チェギョンは何も行動を起こしていない。
事情を知っているキム内官など、進展が無いように感じるから焦りたくなってしまうけれども、そうコン内官に訴えた途端笑われた。

「私だけが知っているのは勿体ないから、教えよう」
「なんでしょう?」
「その前に、君に質問だ。もし君がチェギョン様の立場だったら、どうする?」

チェギョンが東宮殿へと来た日のことを、かいつまんで話して聞かせると、そう問うたコン内官。

「多分、率直に伺います。なぜ、発言しなかったのかと」
「そうだろう。だが、チェギョン様は違った。殿下はひとりではないと伝えられた」

その時の様子を聞き、驚いたように目を見開くキム内官。

「そして、殿下のお側を離れてから、こう仰られた。『シン君は、バカじゃないわ。その行動に、必ず意味がある。その意味も知らずに、シン君を責めるようなことは言いたくないの』と」

シンを責めるつもりなど毛頭なかったけれども、そのチェギョンの言葉に自分を恥じずにはいられなかった。

「チェギョン様が、そのようなことを・・・」
「ああ。チェギョン様はそれ以降、ごく自然にこの宮での生活で分からないことなどを質問されるなど、殿下と話をする機会を増やしていらっしゃる。殿下もチェギョン様が相手だからか、ぶっきらぼうと優しさとの中間のどう対応して良いか分からないと言ったご様子を見せられる。そのような殿下を引き出せるのは、チェギョン様以外にいらっしゃらない。そしてチェギョン様なら、いずれ殿下から殿下のご本心を聞いて下さる」

チェギョンが来てからというもの、あからさまな変化とは言い難くとも変化は確実に現れていた。
チェギョンと一緒に食卓を囲む朝食と夕食の際、シンは洗練されたマナーできちんと食べ切る。
その反対に、チェギョンが一緒ではない昼食では、気分が乗らなければ全く手をつけない。
今まで誰がどう見てもいい加減に受けていた帝王学の講義も、その後にチェギョンと話せる時間が出来るからなのか、予習も復習もするし講義中も真面目に聞いている。
真面目に聞くから講義も早く終わり、本人はいつも通りのつもりかもしれないけれども、傍から見ると飛ぶようにして戻って行く。
チェギョンが、皇太后や皇后に呼ばれたと聞くと、一見無表情に“行って来いよ”というくせに、チェギョンが出て行くと途端にソワソワと留守番させられている犬のように落ち着かなくなる。
たった1週間で、これだけの変化を引き出せたのだ。
いずれ、本心だって引き出してくれるはず。

「上皇陛下は、半年の猶予を見ておいでだ。今はそのうちのたった1週間が経過したに過ぎない。まだ焦るには早いのではないか?」
「そうですね」

チェギョンの行動が、自分とは正反対と言ってもいい態度が、焦りを和らげてくれる。

「チェギョン様が、本当に妃殿下となって下さると良いなと思います」

それには同意出来るのか、コン内官の顔にも笑みが浮かんだ。
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2014年03月06日

会うは別れの始め 4

「お待たせ、チェギョン姉さん」

チェギョンがダイニングルームに案内されてしばらくしてから、着替えを済ませたシンが姿を見せた。

「ふたりで話したいから、下がってくれ」

シンの言葉に、当たり前にコン内官は頭を下げた。
でも。

「チェギョン姉さん?」

チェギョンの手が、チェ尚宮の腕を掴んでいる。
チェ尚宮が下がるのを、許さないと言っている。

「シン君が恐いわけじゃないのよ?でも、初めて来たところだから不安で。いてもらっちゃダメかな?あたしについてくれるんだから、こういう時にいてもらっても良いんでしょう?」

不安であることを強調しているけれども、もしシンが人前で見せない本音を見せた時に自分以外の目が欲しいから、チェ尚宮にもいてほしい。
チェギョンの願いが分かるチェ尚宮は、シンに目をやったけれどもシンは良いとも悪いとも言わない。
ただ、反対しないからとやんわりとチェギョンの手を外すと静かに部屋の隅に下がった。
それを見たシンは、チェギョンに手で座るように促した。

「チェギョン姉さん」
「何?」
「まず聞きたい。なぜ、チェギョン姉さんがここにいる?」
「聞いてないの?」
「許婚が・・・って言う話なら聞いた。いつの間に勝手に決めたんだ、時代錯誤だ、とは思うけど。上皇陛下のお言葉なら逆らえない」

この話を聞かされた時、上皇に余りに楽しそうに言われてしまい、反論するのを忘れた。
結果、押し切られるように受け入れるしかなかった。

「でも、なぜチェギョン姉さん?」
「あたしじゃ不満?」
「そういう意味じゃないさ。突っかかるなよ」
「だって、そうとしか聞こえないもん。じゃあ、分かるように説明してよ」

シンの立場からいえば、将来に直結する話をしているというにもかかわらず、そのやり取りにどこか軽さというか遊びが感じられる。
チェギョンもからかっているようで、でもシンの本音を聞き出す言葉を紡いでいく。
チェ尚宮の知らないシンを引き出しつつ、シンに気付かれないように本音を探って行くチェギョンの手腕に驚かされる。

「何で、こんな無茶な話を受け入れた?何も好き好んで、こんな面倒な世界に来ることはないだろう?チェギョン姉さんなら、良い人が見つかるだろうし」
「ありがと、そう言ってくれて」

そう答えながらも、チェギョンには引っかかるものがあった。

「シン君」
「何?」
「シン君は、この宮を面倒な世界だと思ってるの?」
「・・・」
「それに、まだ結婚する気がないのに陛下のおじいちゃんに命令されちゃったって思ってるでしょ?」

その問いにシンはチラリとチェ尚宮に目をやり、さらにたっぷりと間を置いてから、頷くでも首を振るでも無く、首を傾げた。

「まだ結婚する気がないっていうのは、合ってるけど合ってない」
「どういうこと?」
「宮の人間、ましてや皇太子としては当然のことだ。もともと宮の人間の結婚は一般に比べて早い。高校に進学してから、そういう話が出て来るだろうと思っていたさ。だから、こういう日が来るのは分かってた。でも・・・」
「でも?」
「・・・俺は皇太子でいなければいけないから」
「え?」
「俺個人の考えは、持たない方が良いんだ。例え個人的にはまだ結婚したくないと思っていたとしても、優先されるのは皇太子としての俺だから。しなきゃいけないのなら、したくないという気持ちは意味がない。そう思うだけ無駄だ」
「・・・」

もっと色々聞きたいけれども、シンの顔がそれ以上聞くなと言っている。
そう感じたチェギョンはそれ以上踏み込むことをせずに、食事に手をつけた。

「美味しい~!」

その言葉を示すように、表情、そして目が輝いている。
嬉しそうにぱくついているチェギョンに反し、シンは淡々と口に運んでいる。
それに気付いたチェギョンが、手を止めた。

「どうかした?チェギョン姉さん」
「こっちのセリフ」
「え?」
「何でそんな無表情で食べてるの?」
「・・・」
「こ~んなに美味しいのに、そんな仏頂面で食べたら美味しいものも美味しくなくなっちゃうじゃない」

シンの食事の場面に立ち会ったものなら、誰もが思うこと。
そして、職員であるために誰も口に出来なかったこと。
それを、チェギョンはいともあっさりと、ストレートに口にした。
その気持ちが良いほどの直球勝負にチェ尚宮が心の中で拍手を送っていると、シンが仏頂面でフォークを口に運びながら言い返した。

「チェギョン姉さんは、俺の教育係になるためじゃなくて、行儀見習いに来たんだろう?」
「そうね。でも、その先にあるものは何?そんな顔を見ながら食事をするなんてイヤだもの」
「なら、食事は別にすればいいだろ」

そう言ってニヤリと笑ったシンは、むしろチェギョンを挑発するかのように淡々と食事を続けた。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「キー!!なんなの、あのふてぶてしい態度!!」

食事が済み、チェギョンに割り当てられた部屋へと下がった途端、チェギョンは叫んだ。
地団駄を踏むように悔しがるチェギョンを、チェ尚宮は宮ではあるまじき言動だと窘めない。
これまでの、尚宮としてお手本のようなチェ尚宮しか知らない人がそんなチェ尚宮を見たら、驚くだけでは足りないだろう。

「ですが、チェギョン様」

人目がない時、チェ尚宮はチェギョンを名前で呼ぶ。
これも、チェ尚宮としては異例。
でも、そこには対等な職員に対してではない、仕える相手だからこそ見せる優しさが含まれている。
偽の許婚を演じるチェギョンを、わずかな時間でもその苦労から解放するために。
ただ、チェ尚宮個人としては、このままチェギョンを本当に妃宮と呼んでみたい気もするのだけれども。

「なあに、お姉さん」
「殿下が残さずお食事を召し上がったのは、初めてと言ってもいいぐらいです」
「そうなの?」

意外だった。
上皇と接する中で、宮の人々が無駄というものに気を使っていると知っていたから。
上皇の口からでさえも“勿体ない”という言葉が聞かれるほどに。
もともとチェギョンは、美味しいものは美味しいときれいに最後まで食べてしまう性格。
だから、上皇と会う際に出されるお菓子はきれいに平らげるし、上皇が手をつけなかったお菓子を遠慮なく持ち帰っていたりもした。
もちろんそんなチェギョンだって、昔ながらの少し食事を残すことで充分なもてなしを受けた、という意味があって残すこともある。
でも、時と場合によるわけで、今みたいにプライベートでの食事ならばむしろきれいに食べ切った方が無駄がなくていいと思う。
それなのに、シンはこれまで完食したことがないというのは、意外と表現する以外の何者でもない。

「私はこれまで殿下にお仕えしたことがありませんが、今回チェギョン様にお仕えするにあたってコン内官や本来殿下にお仕えするキム内官に色々と話を聞きました。その中で、殿下はこの東宮殿で一度たりとも楽しそうにお食事をなさったことも、完食なさったことも無いとのことでした」
「・・・」
「例え黙々とお食事をされたことがチェギョン様を困らせるためであったとしても、殿下が初めて完食された。それは、チェギョン様だからこそなせることだと私は思います」
「ありがと、お姉さん」

チェ尚宮のテキパキとしていながら穏やかな口調が、シンの態度に憤っていたはずのチェギョンを宥めてくれる。

「ねえ、お姉さん。完食出来るってことは、少なくともご飯を食べることは嫌いじゃないってことよね?」
「私のようなものが殿下のお心の内は分かりかねますが、殿下はお嫌いなものは明確に意思表示なさいます」
「ということは、嫌いじゃないわけね。まあ、例え嫌いだとしても食べなきゃ死んじゃうもんね」

チェギョンは当たり前のように言葉にしたけれども、チェ尚宮はその言葉を違う意味に捉えた。
もし、シンがチェギョンと出会っていなかったら。
もしかしたら、シンは自分の存在を消すために食事を拒否するという考えを持ったのだろうか。
例えここ数年殆ど会っていなかったとしても、小さい頃に出会った今でも素顔を見せることが出来る相手がいるからこそ、その何かがシンのブレーキをかけてくれているのかもしれない。

「ちっちゃい頃は素直で可愛かったのに。どこでどう間違っちゃったのかしらね」

質問していながら答えを求めていないのか、チェギョンは何やら考え込んでいる。

「待ってなさいよ、シン君。美味しいって言わせてみせるんだから」
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2014年02月26日

会うは別れの始め 3

「まあ、チェギョンちゃん。待っていたわよ」

公にはしないという上皇の言葉通り、平日のとある日、チェギョンはアルバイトが終わると帰宅するように景福宮へと迎えられた。
入宮のための特別な支度も何もない、普段上皇に呼ばれた時と変わらぬ様子で車に乗せられて敷地内へと足を踏み入れた。
だが、そこからは違った。
何度も来ている離宮で韓服へと着替えるようにと促された。

「わぁ、きれい・・・」

引き寄せられるように用意されている韓服へと近付くチェギョンから零れた、お世辞でもなんでもなくその韓服に目を奪われていることが伝わって来る声に、控えていた女性が優しく微笑んだ。

「この刺繍。すごく優しい温かさを感じる」

いくつか施された刺繍の中でも、チェギョンはある一つの刺繍が気になったらしくそっとそこに触れた。

「そちらの刺繍は、皇后陛下がチェギョン様のためにひと針ひと針刺されたものです」
「皇后陛下が?」
「はい」
「皇后陛下のあたたかな優しさが伝わってくる意匠ですね」

いつまでも見ていたそうにしていたチェギョンを、その女性が促してテキパキと着替えさせて行く。

「う~ん、自分じゃないみたい」

そう呟くチェギョンを、正殿へと案内して行く。
チェギョンは、初めて目の当たりにした正殿に足がすくみそうになったけれども、何とか室内へと足を踏み入れた。
だが、その足も今度ばかりは止まった。
そこには、何度も会っている上皇、上皇と一緒に数回会った皇太后、そして小さい頃に会った事があるシンの両親である皇帝と皇后が待っていたから。

「あ・・・」

上皇をタヌキ親父と言えるチェギョンでも、この状況には足がすくむ。
一見穏やかに座っている4人だけれども、その纏うオーラが並ではない。
その圧倒的な存在感に、足が前に進んで行かない。

「何だ、嬢。緊張しておるのか?何度も会った事があろう」
「陛下のおじいちゃん・・・あっ」

つい、いつものクセで呼んでしまった。
でも、さすがにこの場で相応しい呼び方ではないと気付き、どうしたものかと上皇に助けを求めるように視線を送った。

「嬢がワシと何度も会っていることはここにいる皆が知っているし、今回嬢にアルバイトを持ちかけたことも知っておる。気にせんでいい」

そう言われても、頷けるわけではない。
チェギョンの緊張を解くのは無理と判断したのか、上皇はチェギョンをひとりの尚宮に引き合わせた。

「嬢。嬢の身の回りの世話と嬢の教育を担当する、チェ尚宮だ。チェ尚宮は、今回の事情を知っている唯一の尚宮だ」

上皇の言葉に、チェギョンに向かって頭を下げたのは、今しがた身支度を手伝ってくれた人だった。

「唯一?」
「ああ。誰がシンにとっての敵か分からぬからな。皇太后や皇后の尚宮はもちろん、ヒョンの内官も知らん。だから、この場にはチェ尚宮とコン内官とキム内官以外職員はいないであろう?キム内官は、ワシについている内官だが、いずれシンにつくことになるから知っていてもらわねばならぬしな」

良く言えば、多くの職員に余計なことに巻き込まないためと言えるけれども、反対に言えばそれだけの人を疑わずにはいられない環境ということになる。

「それゆえ、東宮殿にいるものはもちろん、この場にいないものにも、未来の皇太子妃が行儀見習いにくるとしか伝えておらん」
「・・・」
「仕方なかろう。シンに本当の目的を知られるわけにはいかんからな」

だから、上皇が信頼している選ばれた職員以外、今回の事実を知るものはいない。
その選ばれたひとりであるチェ尚宮が、チェギョンに向かって丁寧に頭を下げた。

「お待ちしておりました、妃宮様。ご挨拶申し上げます」

初めて呼ばれた呼び方に、一瞬戸惑ったチェギョン。

(妃宮・・・。そうか。そうだよね)

実際は名目だけとはいえ、この場にいない人から見れば紛れもなく自分は近い未来に皇太子妃、妃宮と呼ばれる存在。
チェ尚宮は当たり前に呼んだのかもしれないけれども、チェギョンにはそう聞こえなかった。
まるで、シンを含めたここにいない人を騙す覚悟があるのかと問われた気がした。
だから、ひとつゆっくりと深呼吸をするとしっかりと背筋を伸ばして、チェ尚宮を見た。

「シン・チェギョンです。よろしくお願いしますね、チェ尚宮」

何度か見てきた皇太后や皇后のゆったりとした、でも威厳を感じさせる所作が、いつの間にか身に付いていたらしい。
思いもしなかった威厳を目の当たりにしたせいか、わずかにチェ尚宮が目を見開いた。
でも、次の瞬間、それまで無表情とすらいえたチェ尚宮とは思えぬ優しい笑みを浮かべた。

「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。精一杯お仕えいたしますので、何でもお話し下さい」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェ尚宮に案内されて、東宮殿へと足を踏み入れたチェギョン。

「殿下は、まだお戻りではないようです」
「え?」
「本日は、王室の流れを汲む方々の中でも殿下と同じ年頃の方が集まられる会合に出席されています。お話が弾んでいるのかもしれません」
「シン君って、高校生よね?あ・・・」

小さい頃からのクセで、つい、“シン君”と呼んでしまった。

「そんな呼び方したら、怒られるかな」
「殿下がお許しになれば、問題はございません」
「そこが問題なのよね~」

チェギョンがシンに良く会っていたのは、シンが小学生の頃。
つまり、皇太孫になる前の頃。
その後、シンの立場が変わったこともあるし、何よりチェギョン自身が高校受験や大学受験があったりして、それほど会う機会がなかった。
だから、あの頃のように呼んでどう反応するかは分からない。

「ところで、シン君って高校生なのに、そういう会合に出席するの?」
「高校に進学されてからは。特に、殿下は高校から王立ではない学校に通われておりますので、会う機会の減った彼らと顔を合わせる貴重な機会です」
「ふ~ん」

そう返事をしたチェギョンが目にしたのは、これから半年ほどチェギョンに宛てがわれる部屋。

「ぜいたくだわ・・・」

そう呟きたくなるぐらい、わずか半年しか使わないのに、まるで一生この部屋で暮らすのかというぐらいキッチリ揃っている。
それなのに。

「何か不足するものがございましたら、遠慮なくお申し付け下さい」

チェ尚宮は、当然とばかりにそう付け加えた。

「充分過ぎるわよ」

呆れたように呟いたチェギョンは、それでも室内へと足を踏み入れた。
小さい頃から親しんでいる世界だけあって、この部屋に対してはそれほど気後れした様子はない。
むしろ、先ほど刺繍に目を奪われたように、伝統的な家具などに目を奪われている。
勉強机やベッドなど自分が直接使うものよりも先に、書架に飾られたものに近付いて言ったチェギョンに、チェ尚宮は意外なものを見るように見守っていた。
チェ尚宮にとって宮は、守るべきものであり敬うべきものだから、チェギョンのようにいくら上皇の頼みとは言えお金目当てに何かをするべき場所ではない。
だから、お金絡みで来たはずのチェギョンが、一目で皇后自ら刺した刺繍に何かを感じたり、代々受け継がれるものに目を奪われたりしていることが不思議であり、同時にだからこそ上皇がこのようなことを頼む相手として選んだのだと納得せずにはいられない。

「チェギョン姉さん?」

チェ尚宮にしては珍しく、背後から近付いてくるシンの気配に気付かなかった。
驚いたように声を掛けながら室内に入って来るシンに頭を下げながら、チェギョンがこの状況をどうするのかと目を向けると。

「久しぶりね、シン君。おっきくなったね~」

あり得ないぐらい、あっけらかんとシンを子ども扱いし、そしてその辺の男の子に対するのと変わらない接し方をする。
それどころか。

「あのさ、チェギョン姉さん」

シンも、今まで見たことがないぐらい砕けている。

「何?」
「こう言っちゃなんだけど、俺、皇太子なんだけど?」
「だから?」
「・・・」
「あたしにとってシン君は、いつまでたってもシン君なの。それとも、何?シン君は、シン君って呼ばれるのはイヤ?」
「そういうわけじゃ・・・」
「それとも、あたしにとってシン君ってシン君だけど、他の人の手前、皇太子としての威厳が必要とか?」
「はぁ・・・。チェギョン姉さんには敵わないな」

至極真面目に聞いたチェギョンに、シンは苦笑した。

「いいよ、今までと同じで。チェギョン姉さんに“皇太子殿下”とか呼ばれたら、落ち着かない」
「それってどういう意味よ」
「深い意味はないさ」

チェ尚宮が驚くぐらい、ポンポンと言葉を交わして行くふたり。
チェ尚宮の知っているシンは寡黙で、殆ど声を聞いたことがないと言ってもいいほど。
それなのに、目の前のシンはどうだろう。
このわずかな時間で、何ヶ月分、もしかしたら何年分ものシンの声を聞いた気がする。

「チェギョン姉さん、夕食まだだろ?続きは食べながらにしよう。着替えてくるから、チェ尚宮」
「はい」
「先に、チェギョン姉さんを案内しておいてくれ」
「承知致しました」

チェギョンのことをチェ尚宮に託すと、シンは自分の部屋へと向かった。

「シン君、話さないわけじゃないのね」

上皇やシンの両親である皇帝や皇后から聞かされていた。
シンは、殆ど誰とも話さない、と。

「チェギョン様限定です」

それは事実なのかもしれない。
でも、チェギョンにはとても重い言葉として聞こえた。
シンの本音を聞き出すという役目を負うチェギョンには、それが自分にしか出来ないことなのだと突きつけられた気がした。

「それなら、いきなり全部は無理でも頑張りますか」

自分に気合いを入れるようにそう呟くと、チェ尚宮を見てニッコリと笑った。

「案内してもらえますか?」

その笑みに、チェ尚宮は上皇の頼みという事実とは関係なしに、この少女なら遣って退けるのではないかという根拠のない、でもどこか確信にも似た思いがした。
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2014年02月13日

会うは別れの始め 2

これより半月ほど前。
同じ場所に、違う面々が密かに集まっていた。
集まったのは、王族会と呼ばれる皇族の傍系で組織されるものの中でも、上皇はもとより王族会のメンバーからも厚い信頼を得ている重臣数名。

「皇帝陛下が即位され、5年。国民からの信頼の厚い上皇陛下の後を受けてご苦労されているようだが、着実に国民の中に陛下の勤勉さが浸透して来ていて、上皇陛下とは違う尊敬を集めている」
「ああ。だが・・・」
「そうだな。当時はこんなことになるとは思いもしなかったがな」
「このままでは、いつ、その座を狙うものが現れんとも限らん」
「ああ。あの方がおられる以上・・・」

重臣達が心配そうに、小声で言葉を交わしていると。
上皇の訪れが知らされ、上皇、その妃である皇太后、そしてコン内官が姿を見せた。

「集まってもらい、すまないな」

たった今、小声で憂えた様子で言葉を交わしていたとは思えないほどに、起立して恭しく上皇を迎える面々。
それを当然のように受け止めながら座り、となりの席に皇太后を、そして重臣達にはもともと座っていた席に座るように促した。

「今日集まってもらったのは他でもない。そなた達が心配しているであろう事柄についてだ」
「と、おっしゃいますと」
「シンのことじゃよ」

まるで聞かれていたかのような言葉に、重臣達は顔を見合わせずにはいられなかった。

「皇帝の座を退いたとはいえ、情報収集は抜かりないぞ」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



ことの始まりは、5年前。
当時皇帝だった上皇には、スとヒョンというふたりの息子がいたが、皇太子だったスが事故で急死。
スには妃も息子もいたが、皇帝はスの弟であるヒョンを新たに皇太子の座に就けた。
それは、スの妃であるファヨンには、皇太子妃としては目に余る行動が多く見られていたから。
いくら注意しても、聞き入れようとしなかったから。
シンと同じく上皇にとっての孫であるユルは、母に似ず素直な良い子ではあったけれども、その母の存在がいつ害になるか分からない。
そう思い、断腸の思いでヒョンを皇太子とした。
その結果、当時小学校6年生だったヒョンの息子であるシンは自動的に皇太孫として、将来の皇太子、皇帝になるものとして相応の教育を受けるようになった。
当初はシンの素直に吸収して行く様子、そしてその優秀さに将来の明るさを感じ、上皇は2年後にヒョンに譲位するつもりだった。
だが、その頃から、シンの様子がおかしくなった。
国民から、特に圧倒的に女性からは、物語に出て来るプリンスのようだと人気を博していたのだけれども、その笑顔が翳りを帯び、表情がなくなって行った。
当時、シンについていたキム内官からの報告で、どうやらファヨンが何やらシンに吹き込んだらしいというところまでは分かったのだが、それ以上は敵も尻尾を出さないし、シンも口にしない。
そこで、皇帝として最後の命令を出し、亡きスの思い出のある景福宮での暮らしは堪え難いだろうという理由を付けてファヨンとユルをイギリスへと追いやった。
同時に、表向きはファヨンと同じくスの死が堪えたからという理由でヒョンに譲位し、一見悠々自適な隠居生活を送りながら、シンの周辺を探るため、自分付だったコン内官をシンの側に置き、代わりに将来皇帝となるシンの傍にいるであろうキム内官を引き受けて、自然と皇帝とはどういう座であるか、どうサポートすれば良いかを教え込むことにした。
だが、それでもシンが表情を暗くする理由が分からない。
そして、国民からのシンに対する評価が下がって行くのを止められない。
同時に、王族会からも不穏な空気が感じられ、先手を打つためにごく一部のメンバーをこの場に呼んだのだった。

「ファヨンは、スと親交のあった国会議員とまだ連絡を取っておるようじゃな」
「ご存知でいらっしゃいましたか」
「そなたらが情報を集めているように、ファヨンがどのような行動を起こしてもワシの耳に入るようにしてある」

ファヨンを一見思いやりがあるように見せながら実は国外追放にとした際も、この部屋で密談がされていた。
集まったのも、同じメンバー。
それぞれの立場から、密かにファヨンを監視していた。

「ファヨンがシンの評判に付け入るような真似をしないとも限らん」

全く持ってファヨンを信頼していないと言わんばかりの上皇の言葉に、誰もが頷かずにはいられない。

「また、シンの、皇太子妃の座を狙った輩が動き出しておる」

いつの時代でも皇位継承者の妃の座は余程魅力的なのか、影で色々と動きが見えている。

「その両方の動きを制し、かつ問題の根本を解決してしまおうと思ってな」

やろうとしていることはとてつもないことのはずなのに、右のものを左に移すかのごとく飄々と口にする上皇。

「陛下。そのようなことが、可能なのでしょうか?」

快活だったシンが感情を隠すようになって行くことに胸を痛めていた皇太后が、半信半疑とばかりに上皇の方を向いた。

「ワシは、可能だと思っておる」
「それは一体・・・」
「シンが心開く数少ない相手がおってな。その少女を将来の皇太子妃として、行儀見習いとして半年ほど宮で預かろうかと思うておる」
「皇太子妃、見習い、ということでしょうか?」

思いもしない提案に、単語で切るように聞き返さずにはいられない。
にもかかわらず、上皇の答えは何ともあっさりとしたもの。

「まあ、そう言うことじゃな」
「しかし・・・」
「国民には公表しない。あくまで内々での話だ。そうすることで、ファヨンが何か動きを見せるかもしれんし、皇太子妃の座を狙うものを一掃出来なくても半減させることは可能かもしれん。何より、シンが口を割るかもしれん」

一石二鳥どころか一石三鳥を狙っているらしい。

「そのお相手は、どちらの・・・」
「いわゆる令嬢、ではない。だが、とても優しい心を持った良い子じゃ。シンも、姉のように慕っておる」
「まあまあ。陛下、もしかしてあのチェギョンですか?」

上皇の話を聞いた皇太后は、少女のように目を輝かせて手を叩いて喜んだ。

「陛下の良い案とは、このことでしたのね」
「賛成してくれるか?」
「もちろんではございませんか。チェギョンなら、この難題に明るく立ち向かってくれます」
「そなたが賛成してくれると、心強いの」

上皇の言葉に、少女のようにはにかんだ皇太后。

「上皇陛下。もしや、陛下のご友人でいらっしゃる、シン氏のご令孫ですか?」

皇太后の言葉から、相手を悟ったらしい。

「そうじゃ。アイツはもうこの世にはおらんが、時々チェギョンをここに呼んで茶を楽しんでいるのは知っておろう。チェギョンを見ているからこその提案だ」
「シン氏のことは存じ上げておりますが・・・」

いくら極秘に会おうとしても、隠しきれるものではない。
王族会の中でも年長のものになればなるほど、知っていたりする。
尤も、上皇が口にしないものを彼らが暴き立てることもなく、今まで黙認されていたのだけれども。

「コン内官」

ちらりと上皇がコン内官に視線を送ると、コン内官は小さく頷いて手元の手帳を開いた。
そして、いつの間に調べ上げたのか、チェギョンの身辺調査に関する事項が読み上げられて行く。
ただ、身辺調査をしたにしては、それが書類として作られる事無く、ただ読み上げられるだけ。
その違いが、上皇の中でこの提案はこの限られた期間に関してしか考えていないなのだと感じられた。
だが。

「息子はアイツではなく奥方に似たのか優しい性格でな。優しい性格が災いして生活はたいそう苦しいらしい。だから、家族思いのあの娘が頷きやすい。それに、家柄だ何だというのはもう古いではないか。もちろん、王族会の大切さは分かっておる。だが、そこに固執するあまり、国民との間に広い溝を作っては意味が無いとは思わんか?」

王族会の面々は、例え傍流であろうとも遡ればかつての王達と繋がるということが自慢でありプライドでもある。
それが悪いとは言わないけれども、良い面ばかりだけではない。
そう言いたい上皇の考えが分かるのか、重臣達も頷かないわけにはいかなかった。
だが、期間限定の話かと思えば、そうではないらしいと感じるから警戒せずにはいられない。
案の定。

「シンが望めば、そのまま本当に皇太子妃にしても良いと思うておる」

可能性の話をしているはずなのに、上皇も皇太后もその娘を望んでいるのが伝わってくる。
そして最後に、上皇はとっておきの爆弾を投下した。

「ま、小さい頃からユルかシンの妃としたくて、アイツにはチェギョンをくれと何度も打診しておったのだが、アイツめ、一度も首を縦に振らないままあの世に行ってしまったわい」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



この密談を経て呼ばれたチェギョンは。
細かいいきさつを聞かされないまま、偽の許婚を演じてほしいとアルバイトを持ちかけられたのだ。

「嬢や。頼まれてはくれんか?」
「でも、さすがにそれは・・・」
「嬢が覚えているシンは、どんなシンだ?そして、それはいつ頃のシンだ?」
「・・・」
「半年経って、嬢がそれを本物にしたいと思ったら本物にしても一向に構わんぞ」
「あのね、陛下のおじいちゃん。あたしはシン君より3つも年上なんだけど?」
「今は、年上が流行りだそうではないか」
「だけど、シン君は皇太子な訳だし」
「だからこその許婚だ。許婚なら、相手が年上だろうが年下だろうが誰も文句は言わん」
「偽の、でしょ?」

渋るチェギョンを追い込むように、帰宅したチェギョンの元に宮からの使者としてキム内官が出向いて来た。
そして、半年の間にチェギョンにしてほしいこと、本来のアルバイトを含め日常生活を可能な限り今と変わらずに送れるようにするという約束を提示し、最後に報酬を提示した。
この依頼を引き受けてくれた場合の手付金、そして依頼が遂行された場合の報酬。
さらには、結果次第でボーナスが出るとも付け加えられた。
尤も、チェギョンは気付いていないけれども、それは皇太子妃として入宮すれば自動的について来るものなのだけれども。

「う~、陛下のおじいちゃん、さすがタヌキ親父だわ」

他の誰にも言えない言葉を呟いたチェギョンは、頷いたのだった。
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2014年02月12日

会うは別れの始め 1

「お疲れさまでした」
「チェギョンちゃん、また明日お願いね」
「は~い」

デザイナーを目指すシン・チェギョン、大学2年生。
とあるデザイナー事務所に授業の一環で訪れたのが切っ掛けで、授業に影響のない程度に週に数回雑用係としてアルバイトをしている。

「チェギョン様」
「うわっ」

アルバイトを終えて帰宅しようとしたチェギョンを待っていたかのように掛けられた声に驚きつつも、そちらに目を向けると、見知った顔を見つけホッとしたように肩の力を抜いた。

「コン内官のおじさん。お久しぶりです」

知る人ぞ知る、皇太子の秘書的役割を担っているコン内官。
一庶民が接することなどないはずの相手に、チェギョンは警戒した様子もなく近付いて行く。

「ご無沙汰いたしております。お変わりなく、お健やかにお過ごしでいらっしゃいましたか?」
「はい。元気だけが取り柄ですから」

チェギョンらしい返事と思っているのか、コン内官はにこやかな笑みを浮かべでいる。

「コン内官のおじさんも?」
「お気遣いありがとうございます」

一見ありふれたスーツ姿だけれども、その辺のサラリーマンとは明らかに醸し出す空気が違う。
そして、腰が低いという表現では足りないぐらいの丁寧さでチェギョンに接している。

「上皇陛下が、久方ぶりにチェギョン様のお元気なお顔を拝見したいと」
「はぁ。陛下のおじいちゃん、自分の立場分かってるのかな・・・」

思わず出てしまった呟きが聞こえているにも関わらず、コン内官はそれを聞かなかったものとした。
とはいえ、職務上決して口には出来ないし、思うことすらいけないと思っているけれども、出来るものならチェギョンの言葉に頷きたい。

「ご都合は、いかがでしょうか?」
「陛下のおじいちゃんのことだもん、抜かりなく調査済でしょ?」

遠慮のないチェギョンの言葉に、何とも解釈し難い複雑でいて穏やかな笑みを見せたコン内官。

「ごめんなさい、コン内官のおじさんのせいじゃないのに。この後は予定無いから、大丈夫ですよ」
「では、お手数ですがご一緒願えますか?」
「はい。・・・あれ?」
「いかがなさいました?」
「今さらだけど、何でコン内官のおじさんが?シン君の用なら分かるけど、陛下のおじいちゃんが呼んだのよね?」

宮の人間には、男性なら内官が、女性なら尚宮がそれぞれ付いている。
チェギョンの言うとおり、コン内官は皇太子であるシン付の内官であり、こうして上皇の用で出向いて来るはずがない。
彼らとごく当たり前に接しているからこそ、チェギョンにはそれが分かる。

「上皇陛下がお知りになりたいことがあるからと、殿下のお許しを頂いて本日は上皇陛下のお傍におります」
「納得です」

現在上皇には、若手の内官が付いていて、彼では分からないことを年長のコン内官なら知っているであろうということで借りたのだろう。
コン内官の言葉に納得したチェギョンは、コン内官の案内で少し離れた場所に停まっている車へと向かった。
黒塗りの重厚感を感じさせる車に、臆した様子も無く近付いて行く。
そして、待ち受ける護衛の者達も、当たり前のようにチェギョンを迎えた。

「お兄さん達、お久しぶりです。よろしくお願いしますね」

頻繁ではないにせよ、何度もこういうことがあるのだと分かる会話。
滅多なことでは表情を崩さない厳めしいイギサでさえ、チェギョンを前にするとわずかに表情を緩めることからも、それがわかるというもの。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョンが連れて来られたのは、皇帝が住まう景福宮の中にある離宮。
個人的な客をもてなす際などに使われる、こぢんまりとした建物。

「来たか、来たか。嬢や」

数年前までこの国の皇帝として君臨していた片鱗は見当たらぬほど、好々爺然としたひとりの男性。
チェギョンの祖父と言っても、誰も疑わないかもしれない。

「こんにちは。陛下のおじいちゃん」
「嬢、言っておるだろう。ワシはもう皇帝ではないぞ」
「でも、コン内官のおじさんとかは“上皇陛下”って言うもん」
「嬢には敵わんな。ほれ、嬢の好きな菓子を用意しておいたぞ。食べなさい」
「わぁ、ありがとうございます。いただきます」

給仕をする女官達も驚いた様子も見せず、チェギョンの前にお菓子とお茶を出した。
こういうことが、特別なことではない表れ。
そして、事前に言い含められていたのか、視線だけでチェギョンに後を頼み下がって行った。

「嬢や。何か困っておることはないか?」
「いつもありがとう。でも、パパやママや弟と仲良く暮らしてる。大丈夫よ」
「あいつがいなくなっても、嬢はワシの孫と変わらん。困ったことがあれば、すぐに言いなさい」

上皇とチェギョンの祖父は、チェギョンが生まれるよりも遙か前からの知り合い。
時の皇帝とこれと言った肩書きを持たないただの国民との間に何があって、こうも繋がりを持つのかはチェギョンは知らない。
それでも、いや、それだからこそ、チェギョンは上皇のことを宮の人間という特別な目で見る事無く、近所のおじいちゃん相手と変わらない態度で接する。
そして上皇もまた、チェギョンの祖父が存命の頃はもちろん、鬼籍の人となってからも何かと言ってはチェギョン一家を気にして、こうしてチェギョンを呼んだりいている。

「ところで、お前さんはいくつになったかな?」
「21よ」
「そうか。大学を卒業したら、どうするつもりだ?」
「う~ん、今アルバイトしているところが卒業したら来なさいって言ってくれてるから、候補にはなってる」
「デザイナーになるとか言っておらなかったか?」
「大学出たからってなれるわけじゃないし、そこで勉強させてもらうつもり」

ごく当たり前の意見のように見えるその言葉に、上皇は何かを探るようにチェギョンを見た。

「それだけか?」
「どういう意味?」
「もちろん、嬢の言うとおり大学を卒業したからとなれるものではなかろう。だがな、本当にそれだけが理由か?」
「え?」
「嬢相手に隠し事をしても仕方がないから言うが、夢を追いたいけれども安定した収入も望んでいるのだろう?」

答えながらお菓子にぱくついていたチェギョンだけれども、手を止めた。

「陛下のおじいちゃん・・・」

図星であることが分かる反応。

「という事で、嬢。アルバイトせんか?」
「は?」

いくら特別な存在と意識していないとは言え、相手は紛れもなく特別な存在である上皇。
その口から、アルバイトなどという言葉が出てくると、誰が思うだろう。

「大したことではない。嬢なら簡単なことだ。報酬は弾むぞ」

この言葉だけ聞けば、魅力的な提案に聞こえる。
だが。

「何か、とんでもないこと考えてない?」

伊達に付き合いがあるわけではない。
警戒せずにはいられない。

「いや、嬢なら大丈夫だ」
「その自信はどこから来るの?」
「嬢のことは、小さい頃から見ておる」
「・・・」

この調子では、何を言っても勝てない気がする。

「陛下のおじいちゃん。引き受けるかどうかは別として、あたしに何をさせようって言うの?」
「おお、そうだった。まだ言ってなかったな」

わざとではないかと思うぐらい、飄々と言って退ける上皇。
その口から出て来た言葉に、チェギョンは耳を疑った。

「陛下のおじいちゃん!!」
「嬢や。そんなに大きな声を出さんでも、聞こえとるぞ。そこまで年寄り扱いせんでおくれ」
「はぐらかさないで!いくら陛下のおじいちゃんでも、言って良いことと悪い事があるでしょ」
「ワシは本気だぞ」
「例えそうでも、さすがにそれはマズいでしょ」
「いや、問題ないぞ」
「だけど・・・」
「ワシの中ではずっと決めておった。そなたの頑固ジジイが反対しなければ、本決まりにしたかった」
「・・・おじいちゃん、知ってたの?」
「速攻で反対された。ま、何度呼んでも、ここには来ても正殿には来なかったあいつらしいがな」

上皇のただひとりの友人と言っても良かったチェギョンの祖父。
面と向かってしまえば、悪友と表現するに相応しいイタズラだってしていた。
だけど、それでもどうしても許さない一線があった。
それが、決して上皇が当時皇帝として座していた正殿には近付こうとしなかったこと。
上皇の周囲に、自分の存在を感じさせることをよしとしなかった。
その流れで、今でもチェギョンが呼ばれるのはこの離宮なのだ。
尤も、チェギョンも祖父にくどいほど言い含められているから、正殿に近付こうとはしないのだけれども。

「嬢、礼は弾む。半年だけで構わんから、頼まれてはくれんか?」
「はぁ・・・。背に腹は代えられないって、こういうことを言うのかな」

上皇には強気に返事をしたけれども、家計が楽ではないことは事実。
そのためにアルバイトをしているわけだし、この話はチェギョンにとって美味しい話であることは間違いない。
内容には、少々引っかかるところはあるけれども。

「引き受けてくれるか?」
「・・・パパやママに相談してみる」
「いい返事を期待しておるぞ」

もう決まったとばかりに嬉しそうな上皇に、何も言えなかった。
ラベル:練習用
posted by 美佳 at 00:40| Comment(0) | ∟ 会うは別れの始め | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はじめに

なんとも物騒なタイトルではありますが。
もちろん、ちゃんとシンチェのお話です。
ユル君も、我が家のユル君らしく白ユルだし、手を貸してくれるはず。
その辺りはいつものとおりなので、ご安心下さいな。


ただし。
パラレル色の強い我が家でも、さらにパラレルです。
舞台はいつも通り宮でシン君は皇太子なのですが、シンチェの間に年齢差があります。
チェギョンが、少しお姉さんです。
なので、いつも以上にシン君が子どもかも。
さらに、色々な都合からシン君のおじいちゃん、聖祖皇帝が生きてます。
それ以外は、今のところ特に大きな変更はないかな。
書いているうちに・・・というのは否定出来ませんが。
あ、強いて言えばシン君のお母さんが、チェギョンに好意的・・・かも。


今回のお話は、以前放送されていたアニメ(美佳は原作の小説を主に読んでいますが)を見ていて思いついたので、書いてみました。
といっても、か~な~り~アレンジしているので、お分かりになる方がいらっしゃるかどうか。
もし分かった方がいらっしゃったら・・・コメで呟いてみて下さい。
合っていたとしても何も用意してませんが、リクエストは受け付けま~す。
(合っていなくても、いつでもリクは受け付けますけどね)
今回のチェギョンが年上という設定も、とあるお方の呟きから出来上がったものだったりしますので、ある日突然お話が出来上がるかもしれません。


今回も、人間になって自分に正直になったシン君が意外な行動をしてくれる予定です♪
ラベル:練習用
posted by 美佳 at 00:40| Comment(0) | ∟ 会うは別れの始め | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月03日

更新ではないけれども・・・

シン君イジメを書こうと思ったのですが。
何だか、方向性が変わってます。
むしろ、シン君より某プリマイジメになっている気がする。
いや、なってます。
初っ端らか、いじめてます。
明らかな、ストレス発散です。
シン君イジメもストレス発散になるけれども、プリマイジメもストレス発散になるようです。

で、書いているにもかかわらず更新に辿り着かない理由は、「タイトルが決まらない」から。
もともとタイトルつけるの苦手なんですよね。
加えて、今回のお話は勢いで書いてるから、実は結末を決めていない。
珍しく、目標にするシーンもなく書き始めているので、タイトルを決められないだけでなくエンディングも決められない。
ある日突然、結末もタイトルも決まるかもしれませんが、まだしばらく無理かも。
PCの前で、どうしよう~って唸ってます。



唸りついでに。
「そのひとことが・・・」の仕上げに入りつつあります。
が、シンチェの記者会見のシーンで躓いてます。
呆れちゃうほど、チェギョン大好きオーラ全開のシン君に、何を聞いたらいいのか分かりません。
聞いてみたいことあります?
ちなみに、少々時間をすっ飛ばしていて、この前の会見から2年、例の期限直前の会見になります。
んで、まだプロポーズも結婚式もしてませんor知りません状態です。
マスコミ視線でも国民視線でも構いません。
聞いてみたいことあったら、コメントで呟いて頂けると嬉しいです。
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posted by 美佳 at 23:45| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月01日

今度こそ復活?

お正月に書いたきり、雲隠れしてましてすみません。
年末に吐き出すようにして書いた父の入院が、思わぬ余波をまき散らしてまして。
(当の本人の父は至って元気で、ムカつくぐらいです)
はっきりした原因は分からないとは言え、おそらくあの時の疲れが原因でしょう。
お正月あけから、今度は弟が入院しました。
暢気に箱根駅伝を見ていた頃から、やたらと咳をするなとは思っていたのですが、夜中に戻すんじゃないかって言うぐらいの勢いで咳き込んでいたんです。
もともと、呼吸器に疾患を持っている子なので、気になるから病院行って来いと、主治医の先生の外来の日に行かせたら。

「即入院するか、一旦帰って荷物をまとめてから来るか決めろって言われた」

と、電話して来たんです。
診断結果は、いくつか病名が書かれていたけど、簡単に言えば肺炎。
弟が自分で見て分るぐらい、レントゲンで肺が白かったそうです。

「その状態で寝られるわけないんだから、入院しろ。夜でよければ荷物は持って行ってやるから」

と、美佳のひと言で入院決定。
父の入院は、弟が運転手をしていたとは言え基本的に母が全部やっていたので、今回は私がやるからと(これ以上母にやらせたら、母が倒れると思ったので)全面的に美佳が受け持つことに。
面会時間ギリギリに荷物を持って行き、そこから毎日夜になると弟から電話がかかってきて。
他にかける相手いないのか!と突っ込みたかったけれども、下手に入院を知らせると心配して来ちゃうからイヤだと言われたら、仕方ないから付き合うか・・・となり。
(片道1時間半はかかる、都道府県境をまたいでの入院だったので・・・。さすがに来てもらうのは気が引けたらしい)
簡単なことなら電話しながらでも出来るけれども、さすがに電話しながらお話は書けず。
自分でも、余り頭が正常に機能していない気がしたので何と書いたらいいかも分からず、結局無言で雲隠れという選択になりました。
いや、選択したというよりも、あっという間に時間が経っていた、が正しいかな。

完治には長時間かかるということで、とりあえず今は退院してきていて(またしばらくしたら検査に行くそうですが)見た感じなんでもないです。普通です。
いない方が、静かで良かったと思うぐらいです。
(まぁ、背が高い子なので、いないと高いところのものを取ってもらえない不便さはありましたけどね)
なので、今はとってもありふれた日常です。
暮れから生活リズム乱れまくりだから、正直どうしたら元へ戻れるのか分からないって感じでしたけど、昨日辺りから急に楽になったので、ちょっくら出て参りました。

が。
えらくストレス溜まってます。
仕事とかのストレスとは違うので、食べて発散とか買い物して発散とかでは発散出来ないみたいです。
発散方法がよく分からないのですが、多分、今更新しているお話や止まっているお話を置いといて、違うお話を書きそうな気がする。
この週末辺り、上手く時間が取れたら一気に書き上げたいけれどもどうなりますやら。
美佳の場合、一気に書くにしても量が多過ぎて書き上がらないからなぁ。
実は、今年はシン君をいじめないようにということを目標にしようかと思っていたのですが、年明け1ヶ月で破ります。
ストレス発散には、シン君イジメに限ります。
とは言え、勢いで書く時ってシン君イジメにならないんですよね。
どちらかというとラブラブシンチェになっちゃうので。

という事で、ある日突然新しいお話が始まるかもしれませんが、更新が止まっているよりはいいやと温かい目で見てやって下さいませ。
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posted by 美佳 at 00:20| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月01日

02-01 秘密基地

「ただいま、チェギョン」
「おかえりなさい、シン君。お疲れさま」

夕食の時間に合わせて、一旦執務を切り上げて戻って来たシン。

「あいつら、いないのか?どこに行ったんだ?」

お邪魔虫がいないのをこれ幸いと、しっかりとチェギョンを抱き締めつつ尋ねた。
シンが皇帝に即位してから生まれた、シンとチェギョンの子ども達。
シンにとって子ども達は、チェギョンの次に大切にしている存在だけれども、成長するに従ってチェギョンを間に挟んでのライバルになって来ている。
出来るだけ家族の時間を作ろうと、子ども達の食事の時間に合わせて執務の予定を組むようにしており、効率が悪かろうがこうして戻ってくる。
そして、その度にチェギョンを抱き締めようとするシンと、それを阻止しようとする子ども達の間で終わりの無いバトルを繰り返す。

「いつものところか?声はしなかった気がするが・・・」
「そっちじゃなくて、あっち」
「秘密基地か」
「ええ」
「何を話してるんだか」

クスリと笑うチェギョンにキスをしようとしたその時。

「チッ、帰って来た」
「シン君ったら・・・」

パタパタと可愛らしい足音が複数聞こえて来た。

「あ~!」
「だから早く帰ろうって言ったのに~」
「お兄ちゃんのせいだよ」

シンが帰って来る前に戻って来るつもりだったのだろう。
自分たちよりも先にシンの姿があること、何よりシンがチェギョンを抱き締めていることに不満の声を次々に漏らす。
とはいえ、シンのことは大好きだから、

「パパ、抱っこ~」
「ずるい!今日はあたしだよ」

と、直ぐさまシンの周りを飛び跳ねる。
シンが望んでいた、ごく当たり前の家族の光景がそこにはあった。

「お父様はまだお仕事が残っているのだから、余り無理は言わないのよ」

シンが楽しんでいることが分かるから、強くは窘めない。
それでも、皇帝という仕事には、暮れも正月も無いから。
むしろ、正月だからこそ忙しいから。
まだやるべきことがそれこそ分刻みで残っているシンを思えば、言わずにはいられない。

「大丈夫だよ、チェギョン」

自分のワガママを通せばそれだけ過密スケジュールになると分かっていたけれども、それでもシンはいつものように子ども達と夕食を共にするべく帰って来たのだ。

「ただいま。今日は、何をしていたんだ?」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



新年最初の日のスケジュールを全てこなし、シンが我が家と呼ぶかつて東宮殿と呼ばれた場所へと戻って来たのは、日付が変わる頃。

「お帰りなさい」

シンがどれほど遅い時間に戻って来ようが、必ず起きて待っているチェギョン。

「ただいま」

いつもならここで、チェギョンを労るように『先に寝ていていいって言っただろう?』と続く。
シンは、自分のスケジュールが押したりしたときは、出来るだけチェギョンに負担をかけないために連絡を入れて早く休ませるようにしている。
でも、今日はその連絡が無かった。
そして、いつもの言葉も無かった。

「みんな寝たのか?」
「もちろん。ぐっすりと」

まだまだ小さな子ども達は、とっくに夢の中。

「じゃあ・・・」

チェギョンの手を掴むと、スタスタと歩き出した。

「シン君?」
「秘密基地」

単語で返って来た答えに、チェギョンはクスリと笑うとシンと共にある場所へと向かった。
それは、書筵堂。
シンが皇帝となる際、本当であればそれまで両親が生活していた場に居を移すべきなのだろうけれども、両親だけでなく祖母も健在であるため、シンは生活の拠点を変えず、正殿には皇帝として通勤することにしたのだ。
だから、以前ほどではないにしても今でも使っている書筵堂にシンがいても不思議は無い。
とはいえ、用があるのは勉強するための部屋ではなく、屋根裏部屋。

「ずいぶんおもちゃが増えたな」
「そうね」

かつてシンが、ひとりになりたい時に使っていた隠れ家的場所。
チェギョンと気持ちを通わせてからは、ひとりになるためではなくふたりきりになりたい時に使っていた。
そして今は、いつ見つけたのか子ども達も使っている。
普段は、両親や祖母の部屋に入り浸るのだけれども、子ども同士の内緒話をしたい時には秘密基地と称しているここに籠ることがあるのだ。
ちなみに、夕食前に子ども達がいたのはここ。

「いつの間にか。あいつらに取られたな」
「シン君の隠れ場所だったって、知らないもの」

床から1段高くなったところに、色々とおもちゃが並べられている。
日頃のチェギョンのしつけの賜物か、例え親に見つかっていないと思っている場所でもきちんと片付けられている。

「月が良く見えるな」

大きな窓の傍に腰を降ろすと、チェギョンの手を引いて自分の膝の上に抱き上げた。

「今年も、1年宜しくお願いします、奥様」
「こちらこそ、宜しくお願いします、旦那様」

普段は皇帝と皇后として、そして子ども達の親として、なかなかふたりだけの時間を持つことは難しい。
それでも、シンはこうやってチェギョンを誘い出しては時間を作る。

「今年もまた色々と忙しくなりそうだ」
「そう。でも、体調にだけは気を付けてね」
「わかってる」

チェギョンと気持ちを通わせてからは、精神的に落ち着くせいか殆ど風邪らしい風邪をひいていない。
どれほど疲れて帰って来ても、チェギョンと子ども達の笑顔が疲れを吹き飛ばしてくれるから。

「チェギョン。今年の目標は何かあるのか?」

しばらく、ただチェギョンを抱き締めているだけだったシンが、ふいに口を開いた。

「まだハッキリとは決めていないんだけど、古典を読めるように漢字の勉強をしようかなと思ってる」
「何で古典?」

ハッキリ言えば、チェギョンの苦手とする分野のはず。

「う・・・ん。お義父様みたいにスラスラ古典が読めるようになりたい、とは言わないけど。お義母様やおばあ様から色々教わる時に、ハングルじゃなくて漢字の書を見せられることがあるのね。いつも、お義母様たちが訳して下さるか、ハングルで対訳を見ながら説明を受けるんだけど、そのまま読めたら良いなって思って」

太皇太后の祖母も、皇太后の母も、これと言って体調が悪いわけではない。
それでも、教えを乞うことが出来る時間は限られている。
今教われること、吸収出来ることは、一つでも多く吸収したい。
そう思うからこその言葉。

「そうか」
「シン君は?これ以上忙しくなっちゃうのはどうかと思うけど、何かあるの?」
「そうだな・・・。まだまだ足を運んだことの無い地域があるから、一つずつそう言うところを減らして行きたい」

どうしても、公務で行くのはある程度限られた土地になってしまう。
でも、まだ行ったことの無い地にも当然国民の暮らしはあるわけで、そこに暮らす人々も自分たち宮の大切な家族であることを示して行きたい。

「そうだね」

シンの考えが分かるから、チェギョンはしっかりと頷いた。

「それと・・・」
「まだあるの?」
「ああ」
「なあに?」

一点の曇りも無い瞳で見上げてくるチェギョンの、月明かりに照らされた喉元に唇を這わせた。

「シン君!?」
「もうひとり、欲しいんだ」

まるっきり考えていませんでした、とばかりに驚きの目で見て来るチェギョン。

「あいつらの世話は、出来るだけそれぞれの尚宮達にさせて。俺とチェギョンの予定をしっかり管理して、ふたりの時間を作るから」

チェギョンが是とも否とも言わないうちに、決定事項になっている。

「今日は満月じゃないけど、月の光を浴びたから狼男になっても良い?」
「・・・ダメって言ってもなるんでしょ?」
「よく分かってる」

直ぐさま屋根裏部屋から降りると、チェギョンを抱き上げて寝室へと向かうシン。

「今日、寝かせてあげられないけど、良い?」
「!」
「覚悟しろよ」
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posted by 美佳 at 23:59| Comment(0) | ∟ 四つの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

今年もよろしくお願いします

明けまして おめでとうございます
今年もどうぞよろしくお願いいたします

今年は午年。
F1好きの美佳にとっては、跳ね馬ちゃんに活躍してほしいところです。
しかも、今年から跳ね馬ちゃんに復活したドライバーもいることだし♡
尤も、かつて跳ね馬ちゃんチームにいた皇帝が、スキー事故で生死の境を彷徨っているのは心配ですが。

さて、新年最初の更新は、去年余り更新出来なかったお詫びも込めて2つ行きましょうかね。
しかし、新年早々こういう展開考えてる美佳って、何なんでしょ。
今年を象徴している?

何はともあれ、今年1年、皆様にとって良い年となりますように☆



さ、明日は箱根駅伝だ。
今年はどんなレース展開になるんだろう。楽しみだな。
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posted by 美佳 at 23:58| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月31日

今年もお世話になりました

あと数分で今年も終わりですね。
今年も、皆様には足をお運び頂き(って表現で良いのか?)、ありがとうございました。

今年は、後半余り更新が出来ず、12月に至っては1回だけだになるなんて思いませんでした。
実は、父が入院してバタバタしていて、余裕がありませんでした。
といっても、命の危険は全くと言って良いほどに無い入院だったのですが、1度入院して1週間ほどで出戻っちゃったんですよね。
その時は、ちょっとビックリのことが色々あって美佳は徹夜で様子を見ていたので、こちらまで手が回らなくて・・・。
しかも、その翌日には講習会が控えていて、なおかつ美佳が担当する学科があったので、無理矢理テンション上げて体を動かして眠らないようにしていたのです。
座ったら、速攻で眠れそうだったんだもん。
で、無事退院したは良いのですが、その時の疲れがその後ドッと出て来て、今度は母がダウンして。
運転手をしていた弟(入院先がちょっと遠かったので)も、その後やはり体調を崩し。
みんながようやく復活して来たのを確認して、気が抜けたのか今度は美佳が・・・。
体力の衰えをもろに感じました。
今までだったら、どんなに徹夜しようが疲れようが一日寝れば(ホントに24時間寝る勢いで)復活出来たのに、長時間眠ることすら出来ずぐずぐずと疲れが残っていました。

とはいえ、今はようやく落ち着き、ひと月前の状況を取り戻した、って感じです。

なので、書き貯めることも出来なかったし、暗いお話しになりそうでPCの前に座れなかったので、いつものように書きながらの更新になりますが、明日からまた更新して行こうと思います。


楽しい話題じゃないので、こういうことは今年のうちに吐き出して。
来年は、あっちのお話こっちのお話と飛びまくるかもしれませんが、出来るだけ楽しいお話を書ければ良いなと思っていますので、懲りずにお付き合い頂ければと思います。

それでは皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。
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posted by 美佳 at 23:59| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月02日

ちょっと遅れたけど・・・5年目突入!

いつもいらして頂きありがとうございます。

数日遅れちゃいましたけど、無事(?)5年目突入でございます。
あの頃は、こんなに続けるとは思いもしませんでした。

といっても、最近はか~な~り~おサボり気味で申し訳ないです。
忙しいと言えば忙しい(12月は週末全滅です。平日も既に何日か帰り遅くなるって分かってます)のですが、一番の理由は納得出来るセリフが落ちて来ないこと、ですかね。
ブログを始めた頃ほど、勢いで書けなくなってるんですね。
あ、誤解しないで下さいね。
ネタが無いとか、書く気がなくなったとかではないですから。
ネタはあります。プロットってほどではありませんが4つほどPCの中に眠ってます。
書く気が無いわけではありません。お風呂に入っているときとか、たまに夢でお話が動いてたりします。
中だるみというか、慣れというか、そう言うものでしょうかね。
余談ですが、今年3つ目の指導員養成の話があったのですが、納得出来るレベルまで理解出来ていなかったので断りました。
あれに行ってたら、数ヶ月完全に消えて、そのままフェードアウトしてたかも・・・。
ということは、美佳の中ではあれよりこっちの方が比重が大きい?
それはそれでどうなんでしょ。ま、良いか。
なので(?)、ある日突然またペースアップして書くかもしれません。

相変わらず、記念のお話を書かない人なのですが、何か希望があったら呟いてみて下さい。
いつか、忘れた頃にそれを元にお話が出来ている・・・かもしれません。

5年目も、どうぞ宜しくお願いします♪
ラベル:練習用
posted by 美佳 at 21:50| Comment(0) | ∟ つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月08日

10-04 首筋

婚礼から数日経った朝。

「シン君、おはよ~」

シンの願いむなしく、別々の寝室で休んでいるシンとチェギョン。
シンが身支度を整えてパビリオンで待っていると、シンが感じた思いなどかけらも無かったかのような元気な声が響いた。

「おはよう、チェギョン」

例え自分が何を思おうとも、この笑顔には勝てない。

「ちゃんと眠れたみたいだな」
「うん!だって、すっごく大きくてふかふかなベッドなんだもん。ぐっすり眠れちゃうよ」

実家のベッドとは違い、初めて体験する寝心地にチェギョンのテンションが上がっている。

「婚礼の時も、シン君と結婚したんだなぁ~って実感したけど、こういう今までと違うことでも実感するね」

正殿に挨拶に向かいながら、シンの顔を覗き込むようにして感じたことを報告するチェギョン。

「ねえ」
「ん?」
「お姉さんが、今日は洋服で良いって言ってたけど、いいの?」

昨日までの挨拶の際は、韓服だった。
でも、今のチェギョンは洋服。

「ああ。朝から韓服着て、戻って来て着替えてそれから大学・・・なんて大変だろ?」
「多分」
「だから、チェギョンがもう少しここの生活に慣れるまでは、大学に行く日は無理に韓服を着なくていいってさ」
「ふふふ。優しいよね、お父様達」

その心遣いが嬉しいのか、チェギョンの足取りがさらに軽くなる。
まるで、羽でも生えて飛んで行ってしまいそうなほどに。

「シン君?」
「そんなふうにしてると、転ぶぞ」
「転ばないもんね~」

と言いながらも、シンが重ねて来た手をしっかりと握り返した。

「何か嬉しいね」
「え?」
「こうやって、シン君と手を繋いでいられるのって」

何気ないひと言に、思わず笑みがこぼれそうになる。
というよりも、ひと言ひと言が意外過ぎて、そして嬉し過ぎて、身が持たない気がする。

「はぁ・・・」
「なあに?」
「チェギョンがすっごく可愛いからキスしたいのに、出来ない」
「ごめんね。早く治すように努力するから」
「ばぁ~か」

軽く繋いだ手を引き、引き寄せたチェギョンの頭にコツンと自分の頭をぶつけた。

「焦るな。無理はさせたくない」
「うん、ありがと」

朝からゲンナリしたくなるような甘い空気をまき散らすふたりを、すれ違う誰もが微笑みを持って見守っている。
シンがチェギョンと再会するまでの間に漂っていた、冷え冷えとまでは行かないにしてもどこか他人行儀だった空気が、一掃されたのだから。
例えその反面、目のやり場に困るほどの甘い空気を振りまかれようとも、どちらが良いかと問われれば答えは自ずと決まる。

「先は長いんだ。今から無理はするなよ」
「うん!・・・って、先ってどのぐらいあるんだろう?」
「70歳まで生きたとして50年。80歳なら60年だし、100歳まで生きれば80年だ」
「うぎゃっ」
「何だよ、その声」
「50年だとしても、先は長いねぇ」

まだ20年ほどしか生きていない身としては、その2倍以上もの時間は想像もつかない。

「心配するな。退屈している暇なんて無いぞ」
「え?」
「お前がいれば、退屈している暇なんてあるわけないだろ」
「何よ!人をおもちゃみたいに言わないでよ」
「ばぁか。何を勘違いしている。チェギョンがいれば、毎日が楽しくて幸せで退屈している暇がないって言ってるんだろうが」
「絶対違うもん」

じゃれているとしか言いようの無い声が、ふたりを待ち構える皇太后達の耳にも届いて来た。

「朝から元気じゃの」
「朝からその元気があるようなら、今日から大学だけれども大丈夫そうね」

シンとチェギョンが入室すると、皇太后と皇后が楽しそうに笑いながら声を掛けて来た。

「おはようございますおばあ様、お父様、お母様」
「おはようございます」

ふたりの挨拶に、誰もがニコニコと頷いている。
シンにとってはいかめしい印象が強い皇帝も、にこやかにチェギョンに声を掛けている。

「今日からまた、大学だな」
「はい」
「しっかりと勉学に励みなさい。シンはともかく、チェギョンは色々と周囲の見る目が変わってしまって戸惑うかもしれないが、無理はしないように」
「はい、お父様」

(俺は、ともかく、で終わり?)

思わず突っ込みを入れたくなるけれども、どう考えても周囲の変化が如実に表れるのはチェギョンの方だから仕方が無い。

「チェギョン、これを」
「はい?」

皇后が差し出したものを、チェギョンは不思議そうに首を傾げながら受け取った。

「開けてごらんなさい」

細長い箱をチェギョンがゆっくりと開けると、ダイヤをあしらったネックレスが出て来た。

「お母様?」
「それを見てもあなたを馬鹿にするような輩は、相手にする必要はありません。そして、それを見て擦り寄って来る輩には気をつけなさい。本音とは違うことを躊躇わず口にすることが出来るものだからです」
「・・・」

言葉は理解出来ても、意味が分からない。

「意味は分からなくても良いわ。自分の身を守るためのお守りと思っていれば良い事よ」

皇帝とシンは皇后の言葉の意味が分かるのか、頷いている。

「シン君?」
「お守りだから、ちゃんとして行かないとな。向こうを向いて。俺が付けてあげる」

説明する気が無いのか、ネックレスを手に取ってチェギョンの首に手を回した。

「シン君?」

一瞬、シンの手が止まった気がする。

「いや、何でもない」

両親や祖母の目が笑っている気がする。
それを見なかったことにするが如く、小さく咳払いをするとネックレスを着け、チェギョンの手を取って立ち上がった。

「行ってきます」

クスクスと笑う皇太后や皇后の声を背に、足早に部屋を出て行く。

「ちょっと、シン君!」

手を引っ張られるようにして歩くチェギョンが声をあげると、シンは歩く速度を緩めたけれども足を止めようとはしなかった。

「ごめん。痛かったよな」
「それは大丈夫だけど・・・。どうしたの?」
「・・・あとで話すよ」

ほんのりと耳を赤らめているシンを不思議に思いながらも、チェギョンは手を引かれるまま足を進めるしかなかった。

(照れてる?でも、何で?)

チェギョンには、全く分からなかった。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「ねえ、シン君。さっきの・・・」

後で話すと言われたものの、大学へ行く支度が終わっても、そして車に乗り込んでもシンからは何の話も無かった。
気になって仕方の無いチェギョンが話を向けると、シンの目は落ち着きなく彷徨う。

「シン君?」
「・・・そのネックレスの説明、しとく」
「あ、うん」
「それ、母上の実家の紋をあしらったものなんだ」
「え?」
「見る人が見れば、っていうか王立の人間ならすぐに気付くはずだ。だから、それに気付いてもお前をバカにするのなら母上の実家すら知らない成り上がり。反対にそれに気付いてチェギョンに媚を売ろうとするヤツはろくなヤツがいない。だから、どちらも相手にする必要は無いって母上は言ったんだ」
「・・・」
「チェギョンが悪い人はいないって思いたいのは知ってる。だけど、それでは済まない世界であるのも事実なんだ。だから、全く相手にしないのは無理かもしれないけど、それでも気をつけるようにはしてほしい。何を企むかわからないような連中だからね」

きっと、チェギョンの知らないイヤな思いをしたのだろうと思うから、逆らうことは出来なかった。

「分かった。どう気をつければ良いのか分からないけど、気をつける」
「ああ、そうしてくれ」
「・・・」

チェギョンの、何かを探るような目にシンは早々に降参した。

「さっきのは・・・」
「うん」

チラリと運転するイギサと助手席に乗るイギサを見ると、声を落としチェギョンの耳元で囁くように答えた。

「チェギョンのうなじを見たら、何かすごくグッと来た」

そう言って、そのうなじにキスを落としたシン。
スッと体を離しシートにもたれ掛かると、恥ずかしいのか一つ大きな息を吐き出した。

「でも、婚礼の時は一日中韓服だったし、それ以外だって半分ぐらい韓服だったよ?」

韓服を着ていると髪を上げざるを得ないから、自然とうなじは見えているはず。
そう問うチェギョンに、シンは苦笑した。

「韓服だと、見えるのが当然だろう?でも、今みたいに見えるか見えないかって言うのが良いんだよ」
「良くわかんないけど・・・何かシン君エッチ」
「ばぁ~か。男なんてみんなそんなもんだ」

今度こそ本気で照れたのか、シンは窓の外に目を向けた。
チェギョンの中ではまだ“男の子”の域を抜け出せないシンの言葉に、チェギョンは戸惑いつつも頬が赤らむのを感じていた。
そして、運転しつつも聞こえていたイギサ達は。

(仲が宜しいのは良いことだけれども、聞かなかったフリの訓練、相当必要だなぁ)
(独り身には、つらい会話を聞かされるようになるかもな)

と、お互いに思っていることが伝わったのか、無言で頷き合っていた。
ラベル:練習用
posted by 美佳 at 23:59| Comment(0) | ∟ 二人の為のお題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月31日

13-02 名前を呼ぶ

「シンく~ん」

皇太后に振り回されていたシンは、その声に嬉しそうに顔を上げた。
同時に、何かに気付いたようなハッとした顔になった。

「シン君、どうかした?」

シンの表情の変化にすかさず気付いたチェギョンが首を傾げると、シンは安心させるかのように、チェギョンの頭をポンポンと叩いた。

「陛下。お願いがあるのですが」

シンが、何の躊躇いも無く声を掛けて来た。
以前だったら、間違いなくこの状況に驚いた。
でも、シンがチェギョンを心配させることや不安を感じさせることを言うはずが無いと分かっているから。
そして、チェギョンが絡むと恐ろしく別人になれることを知っているから、自分自身の存在の大きさを知りもせずシンを心配そうに見ているチェギョンに目を向け、そしてシンを見てドンと受け止めるかのように頷いた。

「どうした?」
「チェギョンを、チェギョンと呼んでも良いですか?」
「どう言うことだ?」
「これから先、チェギョンと共にであろうと自分一人であろうと公務に出れば、自然とマスコミと接する機会が増えます。その時、チェギョンのことを他人行儀に“妃宮が”とか“妃が”って言いたくないんです」

その言葉に、皇帝はフッと笑った。
シンらしいと思う一方で、これまで自分はそんなことにすら疑問に思わなかったのだと。
マスコミの前で、シンのことを皇太子としか呼ばなかったように、妻のことも皇后としか呼ばなかった。
それが、当たり前だと思っていたから。
でも、シンは違う。

「マスコミの前であっても、肩書きではなくチェギョンをチェギョンとして、ひとりの人として話したいということか」
「はい。もちろん、全てとは言いません。時と場合によって使い分けるつもりではいますが、出来るだけ名前で呼びたいんです。そうすれば、国民はもっと親しみを持ってくれると思います」

今まで、国民がどう思うかなんて興味が無かったはずなのに。
決して小さな変化だとは思わないけれども、守るべきものを得ただけでこうも成長するのだろうか。
皇帝の中にあるシンのイメージを覆す成長を見せつけられる。
どれほど良い伴侶を得たとしても、受け取る側にそのつもりが無ければ宝の持ち腐れとなる。
チェギョンの良いところをそのまま受け取ろうとするシンと、自分の違いを思うと、この先もしかしたら皇帝としての評価に大きな差が出るのだろうかとさえ思ってしまう。

「分かった。お前が良いと思うなら、そうしなさい」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョンが口唇ヘルペスを発症したことを受けて、少しずつチェギョンを公務に慣らして行こうと計画されていたものが変更された。
チェギョンが公務に出るとなれば、その注目度は今までのシンに対するものの比ではないはず。
それほどに注目される場に、今の状態のチェギョンが出れば何を言われるか分からない。
シンだけではなく、皇帝や皇后もチェギョンが悪く言われることを避けられるならばと、あっさりと予定を変えた。
それでも、国外の要人との予定は変更が難しいものも有り、先方に事情を説明して、出来るだけマスコミの目が届かない状況で会う段取りが組まれた。

「痛くはありませんか?」
「痛くはありません。ただ、ムズムズしてつい触ってしまいそうになっちゃうんです」

既婚者は、自分ないしパートナーがチェギョンと同じように苦労したせいか、むしろそこから会話の切り口を広げてチェギョンを緊張させる事無くその場に引き込んでくれた。
また未婚者も、近い将来自分が迎えるであろうその瞬間をチェギョンに重ね、質問をすることでやはり会話の切り口を広げて行く。
不幸中の幸いというわけでは無いだろうけれども、チェギョンが口唇ヘルペスを発症したことで、それが初対面でも上手く潤滑油の役目を果たして思ったより順調に皇太子妃としてのデビューを果たした。
ただ。

「自己管理がなってませんね」

国内の、自分の息のかかったものを皇太子妃にしようと思っていたもの、あるいは自分がなれると思っていたものは、ここぞとばかりにチェギョンを責めにかかった。
とは言え、シンや皇帝達がそれを予想しなかったわけがない。
だから、先手を打って、シンとチェギョンの婚礼3日後に皇帝と皇后が公務に赴いた際、シンとチェギョンの様子を聞きたがるマスコミに漏らしたのだ。

「ふたりは、何が楽しいのかいつも笑っている」
「どんな時でも、シンがチェギョンの傍を離れたくないと言わんばかりに、一緒にいるのだ」

ふたりの素顔と言える姿を、あっさりと暴露して行く。
そして。

「チェギョンが、口唇ヘルペスになってしまったのだ」
「体は元気なのだが、慣れない儀式に相当疲れてしまっていたようで」
「シンが心配で仕方が無いとばかりに、チェギョンの挙動全てに目を光らせていてな。あれでは却ってチェギョンにストレスを与えてしまいそうな気がする」

シンを悪者にしながら、チェギョンの様子を楽しそうに漏らした。
ちなみに、ここにはもうひとつ意味が隠されていた。
あの散歩の際、シンが自分から願い出たこと。
皇帝は、シンのことはシンと、チェギョンのことはチェギョンと、皇太子や皇太子妃と言う肩書きを抜きにして名前を呼んだ。
取り繕った理想の家族としての上辺だけの姿ではなく、本当の意味で息子として、嫁としてではなく娘として温かく見守り、心配しているという姿勢を打ち出した。
もちろんそれは皇帝の本心だし、偽るつもりはサラサラない。
そして、だめ押しとばかりに皇后へと目を向ければ、皇后もまた同意するように頷いている。

「シンがあんなに小さなことにも敏感に反応するとは思いませんでした。あれでは、うっかり針で指先を刺しただけでも大騒ぎしそうです」
「でも、それほどにもチェギョンを大切に思っているのだと伝わって来て、そしてその鬱陶しいと言いたくなるぐらいの心配をするシンにイヤな顔一つせず、心配してくれたとばかりに笑顔を見せるチェギョンを見ていると、こちらまで嬉しくなり胸が温かくなるのです」

皇后もまた、皇帝の意図するところを正確に読み取り、シンをシン、チェギョンをチェギョンと呼ぶ。
そんな皇帝と皇后揃っての先制攻撃に、声高にチェギョンを貶める言葉を口に出来るものなどいるはずが無い。
いるとすれば、魑魅魍魎が跋扈する宮という世を渡れない、つまり空気を読み取れない未熟者。
王族会の派閥の中で浮き、居場所を無くして行った。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



ただ、王族会の中で居場所を堅持出来たものは、それだけ悪知恵が働くとも言えるわけで。
使えるものは何でも使って、チェギョンを攻撃しようとするはず。

「だから、イヤな思いをするかもしれない」

明日からシンもチェギョンも大学に通うようになるからと、シンがチェギョンに予想される事態を聞かせていた。

「人を見下す態度を取ることは、入学してから接した中で分かっていると思うけど」

こればかりは、気をつけてもどう出てくるか分からない部分がある。
それに、奇特と言える存在のガンヒョンを以てしても、全てを防げるわけでもない。
チェギョン自身が気を付けてくれなければならない。

「シン君」
「何だ?」
「シン君が心配してくれることは嬉しいし、シン君を悲しませたくないから気をつけるけど」
「けど?」

こういう時は、チェギョンがシンの思いもよらない言葉を口にする時。
時には、シンが頷き難いことを口にする。
案の定。

「あたしが警戒したら、相手も警戒しないかな?」
「チェギョン?」
「大学に入るときも、シン君は心配だからって色々言ってくれたよね?」
「ああ」
「だけど、あたしは約束を破る気はなかったけれども、自分で感じることを信じようと思って最初から壁を作るようなことはしなかったつもり」
「え?」

チェギョンがそんなことを考えているなんて、知らなかった。
自分と違って、人間の汚い面を知らないからこその態度なのだと思っていた。

「相手が勝手に壁を作って来るのならそれに合わせて近付かないようにしたけれども、相手が壁を作らないのならあたしも壁を作らずに接しようと思ったんだ。だって、最初から壁を作っている人に、自分から話し掛けようと思う?」
「・・・」
「だから、ガンヒョンとお友達になれた」

チェギョンの画に惹かれた、というのが理由であれ、ガンヒョンが声を掛けて来た。
加えて、王族会と繋がりがあるくせに宮を嫌っていると公言し、チェギョンがシンの許婚と知っても態度を変えようとしなかった。
それどころか、チェギョンの存在が彼女を少しでも変えたのか、最初の頃よりもシンに対する眼差しが幾分和らいだ気がする。

「きれいごとかもしれないけど、悪い人ばかりじゃないと思うの。最初から疑ったら、善い人だって悪い人になっちゃうよ?」
「チェギョン・・・」
「例え悪い人に見えても、何か誤解があるからかもしれないじゃない。シン君は、ずっと宮の人として生きて来たから見たくないものも見えちゃってそう思うのかもしれないけど、あたしはどちらの世界も知っているから、そう言う誤解を解くのにはうってつけだと思うんだ」
「お前って・・・」

素直に降参したくなる。

「シン君が言うように、何か悪い事を考えている人だっているかもしれないけど、それを疑ったらキリが無いし、何よりそう思っていることが態度に出ちゃうと思うんだ。そんなことしたら、信頼って得られるかな?」
「え?」
「これから、あたしだってシン君と一緒に公務に出るでしょう?その時に、第一印象が悪かったとして、それが態度に出ていいと思う?」
「・・・」
「普段からすぐに態度に出ちゃってると、そう言う時にも出ちゃうと思うんだ。あたしなんて、シン君と違って猫どころか虎をかぶってよそ行きの顔をすることなんて出来ないから、最初から疑わないように訓練しておいた方が早いと思うんだけど」
「お前な・・・」

サラッととんでもないことを言われた気もするが、チェギョンに言われる分には腹が立たない。

「分かった。チェギョンが良いと思うようにやってみな」

自分にとっての良い選択が、必ずしもチェギョンに良い結果をもたらすとは限らない。
何より、自分とは違うものが見えているチェギョンだから、違う方法を見つけるかもしれない。
最悪の事態を想定して、チェギョンの後ろで守れるように控えていれば良い。
例え籠の鳥でも、出来る限りその限られた中で自由にいてほしいから。
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2013年10月26日

09-01 額

チェギョンの説明を信じないわけではないけれども。
シンは、その後こっそりと太医院に足を運び、チェギョンの状態を自分の耳で確かめた。
チェギョンの言葉を疑ったわけではないし、コン内官を太医院に差し向けることだって出来た。
だけど。

(過保護って言われちゃいそうだけど。チェギョンのことは、何でも知っていたんだよなぁ)

皇太子自ら足を運んで来たことに、大いに驚かれた。
シンが体調を崩した時は、太医院の職員が東宮殿へ診察に出向くのだ。
例え体調を崩した、と言えるほど酷くなくても、シンが太医院に足を運ぶことは無い。
それなのに、シン自身のことではないのにも関わらず、シンが自ら太医院に姿を見せたのだから、驚かれるのも当然と言えば当然。

(あんなに驚く事無いだろうが)

自分のこれまでと今の違いを棚に上げ、そんなことを思うシン。

「あ、シン君だ」
「いい子にしてたか?」
「むぅ~。子どもじゃないもん」

太医院から戻ったシンを、チェギョンが出迎えた。
というよりも、東宮殿に慣れるためかあちらこちらを散策していて、偶然シンが帰って来るところに居合わせたらしい。

「まあな」

そう言って、顔を近づけてきたシン。
チェギョンがハッとしたように身体を引こうとすると、それよりも早く、シンが自分から身体を離した。

「チェギョンが子どもだと、キス出来なくて困る」
「・・・」
「はぁ・・・。子どもじゃなくても、今はキス出来ないけどな」

とっても残念そうなその口ぶりに、呆れるよりも申し訳なくなる。
ただ。

「毎日キスしてたわけじゃないのに・・・」

と、ちょっと言ってみたくもなるけれども。

「でも、今は毎日していても問題ないだろ?」

あっさりと返って来てしまうから困る。

「もう・・・」

とはいえ、チェギョンはシンを相手に普通の反応をするとは限らない。
案の定。

「イテッ」

シンの額に、チェギョンのデコピンが炸裂した。

「痛いだろ」
「当たり前じゃない」

相手がチェギョンでなければ、シンが怒り出すようなやり取り。
でも、小さい時からふたりを見ていたコン内官はもちろん、チェギョンの入宮後のふたりを見ていたチェ尚宮や女官達は、シンが絶対に怒り出さないと知っている。
それどころか、シンにとっては愛情表現だと知っていたりもする。
だから、驚いた様子も見せず静かに離れて行く気の遣いよう。

「恥ずかしいじゃない。お姉さんたちの前で・・・」
「言っただろ?隠す必要がないから、隠す気はないって」
「・・・」
「ここ、俺とチェギョンの家だぞ?何で気を遣わなきゃいけないんだよ」
「だけど・・・」
「俺たちが望むことを先回りして用意したり、見て見ぬ振りをしたりすることも仕事だ」
「そうかもしれないけど・・・」

人を使う経験なんて無かったチェギョンに、シンの言葉が本当に理解出来るわけではない。
ただ、どんな時でもチェギョンを第一に思っていたシンが、それに反するように自分の意見を主張する時は、今すぐは無理でもチェギョンにそれを理解させたい時。
それは、シンとの結婚が決まってから、シンと接するうちに気付いたこと。
言い争うでも無く、チェギョンの言いなりになるでもなく淡々と言い切る時は、チェギョンの知らなかった世界を教えてくれている時。
それが分かるからこそ、納得出来ないと言わんばかりの上目遣いを見せるけれども、それ以上言葉を返すことはしない。

「すぐに理解しろとは言わないさ。少しずつ慣れて行けば良い」

どこにもバカにした様子は無く、むしろ優しい見守りの眼差しを向けてくるから、上目遣いすら威力を失う。
さらには。

「慌てるな」

たった一言なのに、知らず知らずのうちに肩に入った力を呆気なく抜いてくれる。
そして。
チュッと音を立てて額に触れた唇に、チェギョンは恥ずかしそうに俯いた。

「そうだ。さっき、陛下からチェギョンに伝言を預かった」
「え?」

意外だった。
チェギョンの中では、シンとは違って皇帝との間に垣根が存在しない。
だから、ひょっこりとこの東宮殿に姿を見せるなり携帯電話で連絡してくるなりすると思ったのだけれども。

「夕方、時間が取れそうだから散歩しようってさ」
「わあ!」

自分の提案が早速実現されると分かり、チェギョンは嬉しそうに顔をほころばせた。

「あれ?シン君、嬉しくないの?」
「・・・嬉しいわけないだろ」
「何で?」

からかっているのではなく、本気でそう聞いて来るのだから困ってしまう。

「何でって・・・」
「だって、お父様にお散歩しましょって言った時、シン君反対しなかったじゃない」

チェギョンの中では、反対しない=賛成になるらしい。

「反対はしなかったけど・・・」
「けど?」
「何も今日から早速実行する必要は無いだろうが」
「何で?」
「・・・」

子どものような純真な目で見上げられたら、ただでさえチェギョンの一挙手一投足に感情が振り回されるというのに、シンがアタフタしないわけが無い。

「シン君?」
「・・・やっとチェギョンと結婚出来たんだぞ。親よりチェギョンと一緒にいたいに決まってるだろうが」

とっても不満そうに呟かれてしまった。

「だけど・・・」
「だけど?」
「シン君にとっては、お父様やお母様は当たり前に親かもしれないけど、あたしにとっては親になってもらったばかりっていうか・・・」

確かに。
チェギョンがシンと結婚したからこそ、シンの両親がチェギョンの義理とは言え親になったわけで。
シンとチェギョンが夫婦としてスタートしたばかりであるように、チェギョンとシンの両親も親子としてスタートしたばかり。
と、理屈では分かるのだけれども。

「・・・」

独占欲と言い切っても良い感情が、素直に受け入れさせてくれない。
だが。

「だからね。お父様達とお散歩した後、シン君とふたりっきりでお散歩って言うのじゃダメ?」

巧く操られている気がする。
だが、イヤな気がしないのは惚れた弱味だろうか。

「わかったよ」

返って来た天使の微笑みには、絶対に勝てない。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョン達の散歩に同行した職員達は、誰もが微笑まずにはいられなかった。
シンが、皇帝達との散歩には渋々同意したものの、チェギョンは渡さないとばかりにずっと腕を組んでいることも。
そんな息子夫婦に触発されたのか、皇帝が何ともぎこちなく皇后を誘って腕を組んだことも。
先帝に先立たれてしまったから腕を組む相手がいないとばかりに皇太后がむくれたことも。
そんな皇太后に、シンと皇帝のふたりと腕を組んではとチェギョンが提案したことも。
そしてそれを楽しそうに受け入れている皇太后や、何とも戸惑っているシンや皇帝の様子も。
チェギョン以外の人が当たり前に思っていることを、チェギョンが一つ一つ感心しながら覚えようとしている様も。
小さな行動も含めて、今までには無いことばかりで、そして無かったけれどもあってほしかったことばかりで、それが叶って微笑まずにはいられなかった。

「チェギョン」
「はい、お母様」
「落ち着いたら、以前約束した刺繍を教えましょうね」
「はい!是非お願いします」

お妃教育の最中に知った、皇后が自ら刺した刺繍。
それを教わる約束をしていたのだけれども、お妃教育期間中にそんな時間があるはずも無く、まだ約束は果たされていなかった。

「意気込みは嬉しいけれども」

そっとチェギョンの頬に手を触れて、チェギョンの唇に出来た水ぶくれに目をやった。

「無理はしないのよ。時間はこれからいくらでもあるわ」
「はい。でも・・・」

お世辞でもなんでもなく、チェギョンは刺繍を習うことを楽しみにしていた。
だから、時間がたくさんあるのは分かっていても、楽しみを奪われるのは不満らしい。

「チェギョン」
「はい、お母様」
「あなたが体調を崩すと、あなたがツライだけではなく、自分以上に苦しむ人がいるのよ?」
「あ・・・」

チェギョンには、どんな苦しみも痛みも与えたくないと言い切るシンに目を向けた。

「もうひとり」
「え?」
「ふふふ」

意味ありげに笑った皇后の視線を辿ると、皇太后に振り回されているシンと皇帝の姿があった。

「・・・お父様ですか?」
「ええ。あなたが体調を崩したと聞いて、すぐにでも飛んで行きそうになるのを抑えるのが大変だったわ」
「え?」
「陛下が行ったりしたら、却ってチェギョンに要らぬ心痛を与えますよって申し上げたら、思いとどまって下さったけれどもね。だから、こうして散歩にかこつけて会わずにはいられなかったようよ」
「お父様・・・」

20年もの時間を共に過ごして来たけれども、あんな皇帝を見たのは初めてだった。
自分に対して見せてほしかったと不満を言うよりも、実の娘ではなく義理の娘にそこまでしてしまうことに呆れることしか出来ないぐらいに。

「シンがあなたのことで一喜一憂するように、陛下もそのようよ。いくら親子だからって、そこまで似ることは無いと思わない?」
「・・・」
「ふふふ。そんなことを聞かされても、チェギョンは困ってしまうわね。でもね。チェギョンが来てくれたおかげで、色々なことが良い方向へと変わって行くわ。あなたがいるだけで」
「・・・」
「だから、焦る事無いのよ。無理にああしよう、こうしようと思わなくていいわ。出来ないことは恥ずかしいことではないもの。出来ないことをそのままにする弱さは恥ずかしいことかもしれないけれども、知らないことがあることは恥ずかしいことではないし、急いで覚える必要は無いわ。必要があれば、きちんと段取りを組むから」
「はい、お母様」
「さあ、そろそろシンの所へ行きなさい。シンの機嫌が悪くなったら、あなたにしか直せないのだから」

クスリと笑ったチェギョンは、軽々とシンに向かって駆け出した。
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2013年10月18日

25-04 身を捩る

「おかえり~」

シンが接見を終え東宮殿に戻ると、連絡でも入っていたのかチェギョンが飛ぶようにして出迎えに出て来た。
チェギョンらしい行動だからと言うのもあるけれども、シンにとって嬉しい言葉と行動だから自然と笑みが浮かぶ。

「ただいま」

コン内官以下東宮殿の職員が見たことが無いぐらい蕩けた顔で、飛び込んで来たチェギョンを抱き締め、当たり前にキスをしようとした。
だが。

「おい」

シンにとっては当たり前の、でもチェギョンにとっては恥ずかしいとしか言いようの無い人前という状況になのか、チェギョンが身を捩ってシンのキスを避けようとした。
しかも。

「チェギョン」

シンとチェギョンの唇の間に手を差し込んでまで、キスを阻止しようとする。

「あのね・・・」
「何だよ」

キス出来なかったことが不満なのだと誰もが分かるぐらい、声に不満が表れている。
そんなシンが恐いのか、それともそれ以外の感情か、シンが絶対に従わずにはいられない無意識の上目遣いで見上げたチェギョン。
そして、チラリとチェ尚宮に目を向けた。
すると、チェ尚宮は心得たとばかりに一礼し、女官達を促してその場を離れて行った。

「チェギョン?」

チェギョンがわざわざチェ尚宮を下げた理由が分からない。
だから、問うような声音になってしまう。

「あのね、怒らないで聞いて」
「・・・聞いてから考える」
「もう・・・」

絶対に怒ると思うから、予防線を張ったのに。
チェギョンは、仕方なくさらに身を捩ってシンの腕から逃れようとしながら、シンとチェギョンの顔の間にある手を下げた。

「触らないでね。見える?」

そう言って、自分の唇を指した。

「何か、水ぶくれみたいなのが出来てるな」
「うん。さっきね、チェ尚宮お姉さんと太医院に行って来たの」
「何だって?」

そう言いながら、シンはチェギョンの唇に触れようとした。

「触っちゃダメって言ったでしょ」

強くはないけれども、チェギョンに手を払いのけられた。

「口唇ヘルペスって診断されたの」
「何だそれ?原因は?」
「難しいことはよく分からないけど、ヘルペスウイルスによる感染症で、抵抗力が低下すると発症するみたい。多分、環境の変化とか普段しない勉強をたくさんしたからじゃないかな」
「・・・」

要は、シンにとって今までで最も幸福な瞬間だったチェギョンとの婚礼のために、チェギョンの体に異変が起きた、ということらしい。

「1週間ぐらいでかさぶたになって、自然に治るみたい。だけど、この水ぶくれとかかさぶたになったところを触ったり、同じ食器を使ったりタオルを共有したりすると移るんだって。それから、キスもね」
「・・・だから、キスしちゃダメってことか?」
「うん」

見るからに、意気消沈して行くシン。

「シ、シン君?」
「はぁ・・・。こんなことなら、行く前にキスしとけば良かった」
「移るじゃない」
「だけど、いきなりダメって言われたら、へこむぞ」
「・・・」

何と反応して良いか分からない。
ただ、予想以上のへこみ具合に、何だか申し訳なくなる。

「ごめんね」
「謝るのは、俺だろ」
「何で?」
「気を付けていたつもりだけど、チェギョンがそこまで大変な思いをしていたって気付けなかったわけだし」

周囲が呆れるのを通り越して感心してしまうぐらい、事細かにチェギョンを気遣っていたシンだからこその言葉。

「でもね、お医者さんが言ってたよ」
「何て?」
「あたしが、シン君がたくさん心配してくれて気をつけていてくれたんですけどって言ったら、シン君が気を付けていてくれたから、このぐらいで済んだんでしょうねって」
「・・・」
「だから、ありがと」

もしシンがチェギョンを気遣わなかったら、どのぐらいチェギョンに負担をかけていたかは想像するしかない。
それでも、太医院にさえ聞こえるぐらい、シンがチェギョンを思って気遣っていたから。
だから、医師達もその場限りの慰めでもなんでもなく、本心からチェギョンにそう伝えたのだ。

「お礼何か言われたら、俺が駄々をこねてるみたいじゃないか」
「え?だって、そうじゃ無いの?」

あっさりと言われてしまい、二の句が継げない。

「チェッ。じゃあ、キス出来ない代わりに一緒に寝よ」
「ダメ」
「何で」
「寝てる間に、あたしがどんな寝相になるか分からないじゃない。だから、ダメよ」
「だけど」

昼間キス出来ないのに、夜も一緒にいられないのは不満らしい。

「ダメったらダメ。シン君に移るなんて、ヤダもん」
「移っても良い」

呆れるような言葉が出て来たけれども、チェギョンにも譲れない一線はある。

「絶対にダメ!」
「チェギョ~ン」

駄々こねまくりのシンに、どうしたものかと思っていると。

「じゃあ、約束して」
「何を?」
「治ったら、たくさんキスするから。それから、出来たらチェギョンを抱かせてくれると嬉しいんだけど」
「!!!」

恥ずかしさと驚きに、チェギョンが口をぱくぱくさせそうになっているのに、シンは至って真面目。

「そのぐらい約束してくれないと、イヤだ」

(これって、犬の“待て”とか“お預け”っていうのと同じじゃない?)

思わず、そんなことを思ってしまった。

「・・・3週間ぐらい、待っててね」
「何で」

さっき、チェギョンは1週間ぐらいと言ったはず。

「水ぶくれがかさぶたになるまで1週間ぐらい。その後そのかさぶたが自然に治るまでも含めて、ざっと2週間」
「あと1週間は?」

すかさず突っ込みを入れて来たシンに、チェギョンの視線が泳いだ。

「チェギョン?」
「えっと・・・多分、その頃・・・だから」
「え?」
「あ、あのね。その、女の子の日っていうか・・・」

同性なら何と言うことの無い会話なのかもしれないけれども、いくら結婚した相手とは言え、さすがにそれを口にするのは躊躇われた。

「あ・・・うん」

シンも意味が分かったのか、挙動不審になっている。
知識では知っていた。
ただ、シンの周りで異性と言っても限られた存在しかいなかったから、それを感じさせる状況に接したことが無かった。
だから、いつものシンらしくない、どこか恥ずかしそうな表情になってしまう。
ただ、ことチェギョンのこととなれば、話は別。
挙動不審だったはずなのに、一つ深呼吸をすると、チェギョンを恥ずかしがらせ過ぎないように気をつけながら尋ねた。

「知識としては知ってるんだけど、よく分からないんだ。お腹が痛かったりとかするんだろう?」
「うん。始まって2日ぐらいはね」
「チェギョンに痛い思いはさせたくないな」
「ふふふ、ありがと。でも、ちゃんと毎月来てないと、いつか赤ちゃんが欲しいと思った時に出来ないかもしれないよ?」
「それはイヤだけど、チェギョンが痛い思いするのもイヤだ」

シンが思いやってくれるから、なぜか恥ずかしいと思わずに答えられる。
相手がシンだからというのもあるし、友達や彼氏ではなく結婚したから、なのだろうか。

「えっと、だから、3週間ぐらい時間があるから、その間に心の準備しておくね?」
「!」
「だから、お医者さんがいいよって言うまで、キスも一緒に寝るのも我慢してくれる?」

うまく言質を取られた気がする。
でも。

「すっごく拷問の3週間な気がするけど、待つよ」

先の約束があるから、待てる。

「でも、チェギョン」
「なあに?」
「無理に、心の準備をする必要は無い。無理だと思ったら、正直に言って。チェギョンを怖がらせてまで抱きたいとは思わないから」
「ありがと」

嬉しさを示すように、抱きつこうとしたチェギョン。

「あはっ。自分でダメって言ったのにね」

そう言って笑ったチェギョンが、可愛らしかった。

(う~、やっぱり拷問だ~!!)
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2013年10月16日

22-03 しがみつく

挨拶を終えて、東宮殿へと戻ったシンとチェギョン。

「チェギョン、どうする?着替えるか?」

着慣れない韓服でいたら疲れてしまうだろうからと、シンが気遣って声を掛けたけれども。

「・・・」
「チェギョン?」

いつもと違い全く答えを返して来ないチェギョンに、心配そうに顔を覗き込もうとすると、突然チェギョンがシンの背後から抱きついて来た。

「どうした?」
「・・・」
「おいで」

何も言わないチェギョンを背中に張り付かせたまま、シンは自分の部屋へと足を向けた。
そして、チェギョンをソファーに座らせると、自分もその隣に腰を降ろしてそっとチェギョンの手を取った。

「さっき正殿で言っていたように、一晩経って何か思うことがあったのか?そうだとしたら、それをちゃんと俺にも聞かせてくれ」
「・・・シン君?」
「俺は、小さい時からここにいてチェギョンが来てくれたこと以外これと言って変化は無いけれども、チェギョンは色々と変化が起こったから思うことはたくさんあるだろう?きっと、そのどれかが今チェギョンの心を占めている。違うか?」
「・・・」
「話しにくいことはあるかもしれない。でも、俺はちゃんとチェギョンのことを分かりたい。以前みたいに、ただ幼なじみでいるだけなら無理に聞こうとは思わない。でも、俺たちは結婚したんだ」
「シン君・・・」
「全部分かってあげられるとは思っていない。俺の知らない、チェギョンの常識があるだろうし。でも、分かる努力はしたい。気付かなかった振りをして、後で取り返しのつかないことになりたくない。だから、話して」

シンの言葉に驚いたような表情を見せたものの、目を伏せたチェギョン。
ただ、その口元が、わずかに嬉しそうに緩んでいるのは気のせいだろうか。

「・・・怒らないでね」
「聞いてから考える」
「むぅ~」

シンの答えが不満だと言わんばかりに、何とも表現し難い声を出したチェギョン。
そんなチェギョンも、シンにとっては可愛いとしか思えないから、思わず笑みが浮かんでしまう。

「良いから、言ってみろよ」

とても心地良く響く優しい声に、チェギョンは小さく頷いた。

「昨日の親迎の礼の時にね、久しぶりにパパやママ、チェジュンと会えたけど」

お妃教育のために入宮してからというもの、毎日色々なことが目まぐるしく起こっていたし先ばかり見ていたから、実家から離れたことに対する感傷に浸っている暇もなかった。
それだけに。

「頭では分かっていたつもりなんだけど、あたしとパパやママ達の間に線が引かれちゃったっていうか・・・」

決定的に身分が違ってしまったことを、言葉を交わす事無く過ぎてしまった儀式がチェギョンに教えた。

「チェギョン」
「・・・」
「チェギョン。確かに、距離の上では今までと違って明らかに離れてしまった。でも、忘れろと誰も言ったことは無いはずだぞ?」
「うん・・・」

頭で分かっていても、心がそれについて行かれるわけでもない。
うっすらと溜まった涙にそれを読み取ったシンは、チェギョンを引き寄せて抱き締めた。

「泣けよ」
「!」

言われると思わなかった言葉に、そして何の飾りも無いストレートな言葉に、チェギョンがわずかに体を震わせた。

「泣いてスッキリするなら泣けば良い。文句があるならば言えば良い。何しても良いけど、言わずに溜め込むことだけはするな」
「でも・・・」

シンは少し体を起こしてチェギョンとの間に距離を取ると、優しく微笑むとコツンと額を合わせた。

「シ、シン君?」

チェギョンが慌てたように、でも恥ずかしそうにほんのり顔を赤らめると、シンはしてやったりとばかりに額を離し、笑みを浮かべた。

「俺は、チェギョンの笑っている顔が好きだ。だから、笑えないなら怒っても何もしても良いからちゃんと話して。チェギョンが笑っていられるように、俺に出来ることは何でもするから」
「シン君・・・」

泣きそうになりながらも笑みを浮かべたチェギョンは、そのままシンの胸に顔を隠した。

「チェギョン?」
「泣いても良い?」
「その後笑ってくれるなら」
「約束はできない」
「良いよ。少しでもチェギョンの気が晴れるなら」

そう言うと、泣きやすいようにとばかりにチェギョンの頭を抱えた。

「泣けよ。我慢するな」

その手の優しさに、声音に溢れる優しさに、チェギョンはシンの背に手を回すとしがみつくようにして抱きつき、肩を震わせた。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



泣き疲れたのか、いつの間にかシンにしがみついたまま眠ってしまったチェギョン。
起こすのは忍びなく、かと言ってどこに寝かせるか暫し悩んだシン。

(チェギョンの部屋に連れて行くべきだろうけれども、連れて行っちゃうと顔見られないし。かと言って俺のベッドに寝かせてもなぁ・・・)

まだ合房を済ませていないから、なんて仕来りに従った答えを言うつもりは無い。
今のシンが言える言葉は、ただ一つ。
我慢出来なくなるかもしれないから。

(でも、そんなこと言ったら、怖がらせるかもしれないしなぁ)

かと言って、今いるソファーに寝かせておいたら、うっかり落ちてしまうかもしれない。
自分がずっと傍に付いていられるのならその選択肢を迷うこと無く選ぶのだけれども、もう少ししたら公務の時間になる。
婚礼を機にいくつかの案件が皇帝からシンへと移管されており、加えてその案件に関わる人物がシンとチェギョンの婚礼のために韓国を訪れているため、婚礼直後だからという温情が許されない事情があることは、シンもチェギョンも納得していた。

(行きたくないって言いたいけど・・・。言ったら、チェギョンを怒らせるか困らせるかしそうだよな)

そうなると、結果的に選べる道は一つしか残らなくなる。
仕方ないとばかりに、シンはチェギョンを抱き上げるとチェギョンの部屋へと運んで行った。
そして、チェギョンを気にしながらも身支度を整え、会談が予定されている部屋へと向かうべく部屋を出た。
すると。

「シン君!」

寝ていたはずのチェギョンが、部屋から飛び出して来た。
そして、シンの背後から手を回してしがみついて来た。

「どうした」
「・・・」
「ごめんな。一緒にいてやりたいけど、知ってるだろう?公務なんだ」
「・・・うん」

チェギョンらしくない弱々しい声に、思わず考えるよりも先に言葉が出た。

「一緒に行くか?」
「!」
「化粧直しして来いよ。一緒に行こう」

まるでその言葉が魔法か何かのように、チェギョンの手がシンから離れた。
そして。

「ううん、待ってる」

チェギョンらしい、と言える言葉が返って来た。
それを合図に、シンは振り返ると真っ直ぐにチェギョンを見た。

「そうか。じゃあ、その代わりにチェギョンに頼みたいことがある」
「なあに?」
「ここで待ってて」
「え?どういう意味?」

意味が分からないとばかりに首を傾げるチェギョンに、シンは泣きそうな困ったような、何とも表現し難い表情を向けた。

「チェギョンはバカにするかもしれないけど・・・。俺、チェギョンが来てくれるとき以外、ここを自分の家だと思ったことが無いんだ」
「・・・」
「でも、チェギョンと結婚出来るって決まってから、それが変わった。何の思い入れも無かったこの場所が、特別で、でも当たり前で、幸せな場所になった」
「シン君・・・」
「だから、チェギョンがいてくれるここから“行ってきます”って出て行って、“ただいま”って帰って来たいんだ。ダメかな?」

今度は、しがみつくのではなくフワリと抱きついて来た。

「ダメなわけないじゃない」
「良かった。じゃあ、行ってくる」
「うん」

シンから離れると、ニッコリと笑ってみせたチェギョン。

「いってらっしゃい」

思い描いていたシチュエーションに、シンの顔にも笑みが浮かんだ。

「行ってきます」
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2013年10月11日

24-02 透明な雫

皇帝たちの待つ部屋へ着いたシンとチェギョン。
手を繋いで現れたふたりに、皇帝達はそれに気付きながらも気付かない振りをしてふたりを迎えた。

「さあ、ふたりとも座りなさい」

本来であれば、昨日の婚礼を無事に終えたこと、そして婚礼を上げさせてもらったお礼を伝えることになっていたのだけれども、皇太后や皇帝、皇后はそれこそ“そんなものより”と言わんばかりに、チェギョンが好きそうなお菓子を用意して待っていた。

(良いのかよ、これで)

もちろん、口には出さない。
これで良いと言われるに決まっているから。

「チェギョン、疲れが残っていたりしませんか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、お義母さ・・・皇后陛下」
「良いのよ、今まで通り呼んでちょうだい」
「はい、お母様」

チェギョンが嬉しそうにニッコリ笑うと、つられたように微笑んで手を差し出した。

「こちらにいらっしゃい、チェギョン」

皇帝との間に座らせるのかと思いきや、皇帝との間の反対側に座らせ独占状態。
皇帝は一瞬驚いた様子を見せたものの、仕方が無いとばかりに溜め息をついている。
午前中に、偶然とは言えチェギョンと会ったことを話したら、ズルいとばかりに機嫌を損ねてしまったのだ。

「皇太后陛下から、先帝陛下との思い出の指輪を譲られたと聞きました」
「はい。午前中は洋服を着ていたので、はめていました。おばあ様、ありがとうございました」
「そなた達にもらってもらえて、指輪も、聖祖陛下もお喜びであろう」

嬉しそうな皇太后に、チェギョンも嬉しそうに微笑んだ。

「今は韓服なのでしていません。だけど、お義母様がおばあ様から教わった刺繍を施して下さった、お義母様お手製の韓服ですから、指輪は無いけれどもおばあ様のお気持ちも、お義母様のお気持ちもちゃんと繋がっていると思っています」
「ふふふ、嬉しいことを言ってくれるわ」

(分かってたけど、チェギョンって最強だよな)

計算していないところが、そしてそれを相手に信じさせてしまうところが何とも恐い。
チェギョンの本音だから、きっと自分と同じく言葉の裏を勘繰ることなど当たり前に出来てしまう皇帝や皇后でさえも、何も疑わずに嬉しそうにしているのだから。
もちろん、良いことなのだけれども、チェギョンのひと言がどれだけ力を持つかが今から見えるようだ。
案の定。

「そうだ。お母様」
「何かしら?」
「朝、シン君とお散歩している時にお父様にお会いしたんです」
「そのようね」

皇帝やシンには、その声に氷のような冷ややかさを感じたけれども、チェギョンはそんな些細なこともきちんと伝わるほどにふたりが言葉を交わしていると思ったのか、にこやかに頷いている。

「シン君」

そう言いながら、手招きしたチェギョン。
その意味が分かったシンは、わずかに顔を背けた。

「良いよ。お前から言えよ」
「でも・・・」
「いいから」

皇帝と同じく、何と言って誘えば良いか分からない、なんて言えない。
シンがそんなことを思っているなんて露程にも思わないチェギョンは、ただ単に恥ずかしいだけだろうと思い、頷いて皇后に向き直った。

「あたしはこの宮の広大な敷地のどこに何があるか分からないし、お父様もひとりでお散歩するよりみんなとお散歩した方が楽しいと思ったので、ご一緒させてもらえるようにお願いしたんです。だから、お母様も一緒にお散歩しませんか?」
「私も、ですか?」
「はい!もちろん、おばあ様もご一緒にお散歩しましょ」

屈託の無い笑みに、断るという選択肢など存在させられる人がいるのだろうか。
その上に。

「ホホホ、楽しそうだの」

楽しいことが大好きな皇太后が同意したら、断れる人がいる訳がない。

「お父様の予定に合わせて、その日にお散歩する時間を決めて、時間の合う人がご一緒するようにすれば無理しなくて済むでしょうし」

誰の負担にもならないように、という配慮までされてしまったら反対する言葉は浮かんで来ない。

「あなたときたら・・・」
「え・・・ダメでしたか?」

皇后の、降参とばかりの表情を違って捉えたチェギョンが悲しそうな表情になると、皇后はチェギョンの手をとった。

「そうではありません。むしろ、褒めたのです」
「え?」
「太子。いえ、シン」
「は、はい」

滅多に呼ばれない名前で呼ばれたことに、シンは驚いたように皇后を見た。

「良く、諦めずにチェギョンを待ち続けましたね」
「え?」
「チェギョン以外の娘を妃に迎えていたら、私はチェギョンを諦められずにその娘に冷たく当たったことでしょう。きっと、ずっと嫁姑問題に悩まされたことでしょう」
「・・・」

もう決してあり得ない未来とは言え、想像すると冷や汗が流れる気がする。

「こんな可愛い妃を迎えて」

そう言って、皇后はチェギョンを抱き締めた。

「お、お母様」

突然抱き締められたことに驚いたチェギョンだったけれども。

「おい、チェギョン」

シンが慌てて駆け寄るぐらい、突然ポロポロと泣き出した。

「チェギョン、どうしたのです?」

皇后も驚いたようにチェギョンの顔を上げさせ、そっと頬に手を添えた。

「何か、気に触るようなことを言ってしまいましたか?」
「ち、違います!」

慌てたように、フルフルと首を振るチェギョンに、皇后はホッとしたように息をついた。

「では、どうしたのです?差し支えなければ、話して下さい」
「あの・・・」

言い淀んだチェギョンは、チラリとシンを見てから皇太后、皇帝、そして皇后を見た。

「ちゃんと分かってたつもりだったんですけど。今のお母様の言葉で、あたしは大好きなシン君と結婚したんだなって」

何の心の準備もなく言われた言葉に、シンは頬を染め、大人たちは優しく微笑んだ。
だが、その微笑みも止まった。

「そして、おばあ様の孫に、お父様とお母様の娘にして頂けたんだなって思ったら、嬉しくて」

本音と建前の騙し合いがありふれる世界に身を置くせいか、チェギョンの何の思惑も柵もないきれいな心そのままを表すような透明な雫に、誰もが胸を打たれた。

「チェギョン」

誰よりも先に復活したのは、皇后だった。

「それは、私達が言うべき言葉です」
「お母様・・・」
「私たちの娘になってくれて、本当にありがとう」

皇后の心からの言葉に、チェギョンは再び泣き出した。
それを見守るシンは、さすがに嫉妬することが出来ず。
皇太后や皇帝、そしてチェ尚宮を始めとする尚宮や女官や内官達でさえ、その光景に頬を緩めずにはいられなかった。
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2013年10月03日

12-02 指の付け根

朝食を済ませたふたりは、散歩することにした。

「どうしたの?」

当たり前に手を繋いだ瞬間、シンが小さく笑った。
チェギョンが気にしないはずが無い。

「いや・・・」
「気になるじゃない」
「・・・笑うなよ?」
「聞いてから考える」
「お前な・・・」

だが、シンがチェギョンに勝てるはずも無く、シンははにかみながら繋いだ手の指先を動かした。

「ここ」

シンの右手と繋がっているチェギョンの左手にある指輪。

「指輪?」

シンの指先が、それに触れているから。
そう尋ねると、シンは嬉しそうに頷いた。

「昨日の婚礼も、今朝起きてすぐにチェギョンの顔を見られたのも、一緒に朝食を取っていたのも、こうして一緒に歩いているのも、全部俺たちが結婚したからだけど。チェギョンは笑うかもしれないけど、俺たちが結婚したことを国中の誰もが知ってるって分かっているけど、それでもこうやってチェギョンが俺と結婚したんだって印があるのが、すごく嬉しい」

それを聞いたチェギョンが、突然手を離した。

「チェギョン?」

イタズラっぽく笑ったチェギョンが、シンの右側から左側へと移り、手を繋いだ。

「ふふふ」

今度は、チェギョンがシンの指輪を触って笑っている。
その見上げて来る笑みが眩しくて、ずっと見ていたいけど眩し過ぎて目を逸らしたくもなる。

(どちらにしても、俺はチェギョンに翻弄されてるんだよな)

全くイヤな気持ちがしないのが、自分でもすごいと思う。

「あ」

チェギョンの上げた声に、その視線を追って行ったシンの顔から笑みが消えた。
チェギョンの為なら、自分から会いに行くことは何でも無いけれども、用もないのに会っても困ってしまう人がいたから。
しかも、チェギョンが跳ねるように、そしてシンの手を解いて行ってしまった。

「お義父様、おはようございます」

シンは小さく溜め息をつくと、チェギョンの後を追って皇帝へと近付いて行った。

「おはようございます、陛下」

だが、皇帝から返事がある前に、すぐ隣から可愛らしく怒った声が聞こえて来た。

「ちょっと、シン君!」
「何だよ」
「今の何よ」
「え?」
「お義父様のこと、なんて呼んだ?」
「・・・失礼しました。お早うございます、父上」

シンがいかにチェギョンに弱いかを示すそのやり取り。
でも、シンはそれを隠そうとしないし、何よりシンのこんな幸せそうな顔を見ることなんて無いからそれを消すこともしたくない。

「おはよう、ゆっくり休めたかな?ふたりとも」
「はい、お義父様。お散歩ですか?」
「ああ。ついつい書類や本を根を詰めて読んでしまうから、こうして少しでも体を動かすようにしているのだよ」
「ふふふ。シン君、シン君もお義父様とお約束してご一緒したら?」
「え・・・」

シンの中では皇帝と一緒に何かをするという考えが無いせいか、チェギョンの提案に驚かずにはいられなかった。

「大学の授業がある時は朝は忙しいだろうから、お義父様の予定とシン君の予定を合わせて、夕方とかに一緒にお散歩したら?もちろん、あたしもご一緒させてもらえたら嬉しいけど」
「それは楽しみだ」

皇帝は、すぐにチェギョンの提案に乗って来た。

「お義母様も、お誘いしましょ」

この提案には、皇帝も驚きを見せた。

「?」

チェギョンにはその意味が分からないのか、首を傾げている。
だが。

「そうだな。誘ってみるとしようか」

これまで殆ど皇后とそういう時間を持たなかったことを知られたくないのか、皇帝はチェギョンの提案に同意した。
その返事にチェギョンは嬉しそうに頷いたけれども、シンは再び驚いたような表情を見せた。

「シン、お前が誘ってみるといい」
「え・・・。父上が誘われるべきでは?」
「私より、息子夫婦に誘われた方が嬉しいだろう。後で誘ってみなさい」

今さら、何と言って誘えば良いか分からないなんて、皇帝のメンツにかけて口が裂けても言えないから。
シンと、そしてこれ幸いとチェギョンに押し付けた。

「・・・はい」
「はい!」

シンは皇帝の真意などお見通しとばかりに、ちょっと不貞腐れたように返事したけれども、チェギョンが嬉しそうに返事をするからそれ以上何も言えなかった。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



執務のある皇帝と別れてからも、広大過ぎる土地を散歩したふたり。
その後、東宮殿に戻り東宮殿を散策したりシンの部屋でとりとめも無い話をしたりしてから、今度はダイニングルームで昼食を摂ることになった。

「シン君」
「ん?」
「離れて食べなきゃダメ?」

何度かダイニングルームで食事をした時は、チェギョンはお客様扱いだったし、小さい頃から当たり前のことだったから、長方形の大きなダイニングテーブルの長辺に座り、向かい合って楽しく食事をしていた。
でも、今目の前に用意されている食事は、同じダイニングテーブルの短辺に座るようにセッティングされている。
つまり、長辺の分だけ、ふたりの距離が離れる。

「コン内官」
「ですが・・・」
「知ってるだろう?小さい時どう座っていたか」
「すぐに整えます」

チェギョンにはよく分からない会話をしたと思ったら、女官たちがセッティングし直している。

「シン君?」
「この部屋では俺がこの席になる。そうすると、チェギョンは反対側になってしまう。テーブルの向きが反対に出来れば良いけれども、部屋の形からすればそれは無理なんだ。それはわかる?」
「うん」
「だから、当たり前にさっきみたいに用意されていたんだろうけれども、俺たちは小さい時、向かい合ったり朝食のときのように角を挟んで座ったりすることが多かったよな?」
「うん」
「晩餐会みたいな席だと、席次はマナーで決まっているから変えたくても変えられない。だから、いずれそういう場面に出ることを考えて、普段から慣らしておくのが良いと思う」
「あ・・・」

ただそれがマナーだから、というだけではなく、正式な場に出た時に戸惑わないための練習も含んでいると知れば、文句は言えない。
でも、チェギョンにそれを負担に思わせたくないせいか、それとも本心か。

「でも、初日からチェギョンにあれもこれも押し付けるつもりは無いし、何より俺だってチェギョンと離れて座るのはいやだから。しばらくは、今までみたいに座ろう」
「ありがと」

ホッとしたようなチェギョンの顔、何より食事中のシンの顔を見れば、マナーよりも何よりも、ふたりが気持ち良く過ごせるようにするべきだとその場にいる誰もが思った。
何しろ。

「シン君、好き嫌いはダメ」

シンがチェギョンと再会してすぐにも聞いたやり取りが、繰り返されている。
その上。

「ほら、口開けて」

マナーなんてものは聞いたことも見たことも無いと言わんばかりに、シンが苦手とするものをチェギョンが食べさせている。
しかも、シンは恥ずかしがる様子も無く、そして嫌がる様子も見せずに口を開けている。
止められる人がいるはずも無かった。

「チェギョン、着替えておいで」
「うん」

食事を済ませると、挨拶に行くために着替えをしてから正殿へと向かった。

「チェギョン」
「なあに?」

当たり前に繋がれている手。
そのシンの手が、朝の散歩の際と同じように動いた。
ただ、今チェギョンは韓服を着ているため、朝とは違いその手に指輪が無い。
指輪の無い指の付け根の部分を触りながら、なぜか真剣な目で見て来るシン。

「シン君?」
「朝も言ったとおり、宮には結婚指輪という習慣は無い。指輪が無いわけじゃないけど、今みたいに韓服を着ていたら、あの指輪は合わないだろう?」
「うん」

だから、今は何も指輪をしていない。

「俺は殆どスーツだから滅多に外すことはないけど、チェギョンは今みたいに外さなきゃいけなくなる。でも、気持ちの上ではここにあると思っていい?」
「当たり前じゃない」

当然とばかりにキッパリと言い切るチェギョン。
その言葉に、シンがホッとしたように息を吐いた。
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2013年09月26日

27-02 ずるい

「シン君、お待たせ」

洋服に着替えたチェギョンが、恥ずかしそうに、でもどこか跳ねるように姿を見せた。

「春らしい、きれいな色だな」
「でしょう?」
「良く似合ってるよ」

どうして、こう一言一言が恥ずかしいのだろう。
褒められるのは嬉しいはずなのに、嬉しいよりも先に気恥ずかしくなる。

「チェギョン」

恥ずかしくなったチェギョンが、既に何度も行って知っているダイニングルームへと足を向けると、シンに手を取られた。

「こっち」
「え?」

なぜか、ダイニングルームに背を向けて東宮殿の外へと連れ出された。

「シン君?」

何が起こっているのか分からないとばかりにチェギョンが声を掛けたのに、シンは笑みを浮かべたまま先へと進んで行く。
連れて行かれたのは、東宮殿と目と鼻の先にある池に浮かぶ東屋。

「シン君?」

東屋の中に朝食と思われる食事がセッティングしてあるのを見て、チェギョンがシンを見ると、小さく頷き返された。

「ズルい」
「何がだ」
「あたしを喜ばせてばかり」

それが、なぜズルいと言われるのか、シンには分からない。
でも、チェギョンが喜んでくれるのは分かるから、笑みがこぼれる。

「まだあるぞ、楽しみにしてろ」

シンにエスコートされて腰を降ろすと、シンも角を挟んだ隣に腰を降ろした。

「ダイニングで食べても良かったんだけど。何度か来てるから知ってるだろうけど、食事の間も女官たちは常にいるしコン内官は俺の食べたものを記録するだろう?そう言う場所で、チェギョンと結婚して最初の食事をするってイヤだったんだ」

それは事実なのかもしれないけれども、それだけでは無い気がした。
むしろ、その状況で自分が堅苦しい思いをしないようにという気遣いがメインのような気がするのは自意識過剰だろうか。

「それに、ここだと東宮殿だけじゃなくて庭が見えるだろう?チェギョンもここに住むようになったんだって実感してもらえるかなって」

そう言われて周囲を見渡せば、確かにダイニングルームから見える景色とは違いここからは東宮殿だけではなく色々な建物や景色が見える。

「ありがとう。今日はお天気もいいし、朝からすっごく贅沢している気分。まだこの景色の中に自分がいるって実感出来ないけど、いつかそれが当たり前になるんだよね」
「そうだな」
「早いところ、迷子になら無いように覚えないとね」
「迷子になるような出歩き方をしなければ良いんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど、色んな場所を知りたいじゃない」
「少しずつ案内するよ」
「うん、お願いね」
「じゃあ、食べようか」

シンに促され、朝食に手をつけた。
今までに何度か昼食や夕食をごちそうになる機会があったが、その時は温かいものは温かく、冷たい物は冷たく配膳された。
でも今は、前菜からデザートまでの全てが用意されている。
つまり、誰の手も煩わせずふたりだけ。

「誰もいないところで食事するなんて、シン君初めてじゃない?」
「そうかもな」

学校は別として、宮の中でこうして誰もいないところで食事をした経験は無い。

「ふふふ。シン君の初体験ね」
「コホッ」

チェギョンは何の悪気も無くその言葉を発したのだろうけれども、昨夜かなりの我慢を強いられたシンには、キツイひと言だった。

「大丈夫?」
「・・・」
「シン君?」

視線を泳がせる挙動不振なシンを、チェギョンは純真な心配する目で覗き込んだ。
その純真な瞳に、シンは自分の考えが相応しくない気がして目を逸らしてしまった。

「シン君、あたし何か気に触ること言っちゃった?」
「いや」
「でも・・・」
「むしろ、その反対っていうか・・・」
「?」

全く分からないと言いたげな表情に、シンはお手上げとばかりにカトラリーを置いて手を上げた。

「言っただろ?チェギョンを前にすると、仮面も理性も飛ぶって」
「あう・・・」
「なんて言う声出してるんだよ」
「だって・・・」

昨夜聞かされた時だって十分恥ずかしかったけれども、こんな朝の清々しい空気の中で聞かされるのもまた、恥ずかしい。

「あのな、チェギョン。軽蔑されたくはないが、所詮俺もそれなりのお年頃って言われる年齢だ。しかも、初恋の相手をずっと待って待ってようやく結婚出来たんだぞ。うっかりすると、頭の中はそういうことでいっぱいになってしまう」
「そういうこと?」

この天然ぶりを、どうしてくれようか。

「理性を飛ばす寸前ってこと」
「・・・」
「何気ないひと言だって、着火材になるんだ」
「え?・・・あ」
「わかった?」
「うぅ・・・」
「言っただろ?チェギョンの気持ちが固まるまでは待ってるって。だから、頼むから俺を煽らないでってコト」
「煽ってないもん」
「無意識だから、困るんだよな。チェギョンの場合」

深刻になりすぎないように、からかい口調でそう言うと。

「ほら、早く食べろ」

チェギョンのご飯の上におかずを置いてやった。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「シン君、鳥が来たよ。あれ、なんて言う鳥だろう?」

良くも悪くも、目の前のことに集中しやすいチェギョン。
シンとの会話など無かったのかのように、朝食を楽しんでいる。

「自然が多いせいか、色んなのが来るんだよな」
「ご飯なのが残念。パンだったら、あげられたのに」
「でも、それって鳥たちの生態系を壊すだろ?」
「?」
「俺たちには分からないところで、小さな虫が悪さをする前にそれより大きな虫が食べて阻止する。それと同じように、鳥たちもその大きな虫が悪さをする前に食べて、それを阻止している。チェギョンが何か餌を与えることによって満腹になって、鳥たちが本来食べるべき虫を食べなかったら、荒らされなくていい植物が荒らされてしまうことになるだろう?」
「なるほどね」

感心したように頷きながら、体の向きを変えて再び食事をしようとしたチェギョンの動きが止まった。

「どうした?」

シンの問いに答える前に、チェギョンがテーブルに飾られた花に手を伸ばした。

「シン君、これ・・・」
「気付いたか」
「え?」
「食事が終わるまでにチェギョンが気付かなかったら、俺から渡そうと思ってたんだ」

そう言って手を差し出して、シンはチェギョンが手にしたものを受け取った。
シンの手に乗せられたのは、金色に輝く2つの指輪。

「おばあ様が、今は亡きおじい様に贈られたおふたりの指輪だ」
「それが、何でここに?」

何度も接して来ているうちに、皇太后に取って先帝は亡くなって尚大切な存在であることを知っているから。
そんな大切なものがここにあることが、理解出来ない。

「10日ぐらい前かな。おばあ様が下さったんだ」
「大切なものなのに?」
「大切だからさ」
「どういうこと?」
「宮には、結婚指輪という習慣は無い。わざわざ示さなくても誰もが知っているからって言うのもあるだろうけれども、西洋の文化が入るまで、我が国にはそんな習慣は無かったからな。だから、こういう西洋の文化はここ最近のこと。おじい様とおばあ様の時代だと、もっとあり得ないって言われることだったと思う。だから、殆どはめたことがないんだって。でも、おじい様のおばあ様を思う心がこもっているから、それを俺たちにって」

その言葉に、チェギョンは指輪のひとつを手に取って眺めた。

「嬉しいけど、良いのかな。こんな大切なものを・・・」
「おじい様とおばあ様は周囲が決めた政略結婚だったけど、その結婚を後悔したことが無いどころか、その縁に感謝してるって良く仰ってた。それは、俺も同じ。政略結婚ではないけれども、おじい様とチェギョンのおじい様の友情が無ければ結ばれない縁だったかもしれないだろう?」
「そうだね」
「だから、おじい様たちみたいにずっとこの縁に感謝していられるように、チェギョンを大切にしたい。そのためにも、おじい様たちの幸せに続けるように、これを俺とチェギョンで受け継ぎたいと思ったんだ」

指輪から顔を上げ、シンを見ると可愛らしく首を傾げたチェギョン。

「シン君、やっぱりズルいよ」
「どうしてだ?」
「結婚するって決めてから、いつも優しくて。サプライズで何かしてくれることもたくさんあって。ビックリさせられてばかりなんだもん」
「仕方ないだろ。チェギョンが好きで好きで、その気持ちをどうにかして表したいんだから」

臆面も無く言われた言葉に、チェギョンは真っ赤になって俯いた。

「カッコイイ顔で、そういうことをサラッと言わないでよ。心臓が持たないわ」
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2013年09月24日

13-03 髪を梳(くしけず)る

「疲れは取れたか?」

手を繋いだまま東宮殿への道を歩き出したふたり。
シンは、昨日の続きと言わんばかりにチェギョンを気遣う。

「うん。多分」
「多分?」
「だって、宮には何度も遊びに来てたけど、同じ景色でさえ違うものに見えるぐらい緊張してたんだもん。今だって、シン君がいてくれるから歩けるけど、自分がどこ向いているか分からないぐらいで、自分のすることひとつひとつにドキドキしちゃう」
「それは、俺も同じだよ」
「どうして?」
「チェギョンから見れば、俺は住み慣れたところにいるだろうって思うだろうけど」
「うん」
「でも、そこにチェギョンがいてくれるって言うのは何度か経験してるけど、それは幼なじみであり婚約者としてであり。今みたいに、チェギョンが俺の奥さんでいてくれる時間は初めてだから。俺だってドキドキするさ」

シンの言葉にはにかむチェギョン。
そんな表情を見たことが無いわけではないはずなのに、シンはその可愛らしさに目を奪われずにはいられなかった。

「なあに?」
「いや。チェギョンが可愛いなと思って」
「・・・そんなこと言われたって、何も出ないわよ?」
「いいよ」

そう言うと、身を乗り出してキスをした。

「これで十分」
「もう!誰かに見られたら・・・」

そう言ってキョロキョロとするチェギョンに、シンの顔には笑みが浮かぶ。

「いいだろ、見られたって。俺たちが結婚したことは、国中の誰もが知ってる。宮の人間なら尚のことだ。今さら驚かないだろ」
「そういう問題じゃないでしょ」
「そういう問題にしとけ」
「もう、俺様なんだから」
「それこそ、今さらだろ」

今までだったらチェギョンが押し切って終わりになるのだけれども、何か心境の変化があったのかなぜかチェギョンが噛み付かなかった。

「チェギョン?」
「何?」
「いつもだったら開き直るなとかって噛み付くのに、何も言わないから」
「シン君がこうやってポンポン会話するのって、あたしぐらいでしょ?」
「ああ。それが、何だ?」
「前だったら、それで喧嘩しても顔を合わせなければ済んだけど、そうはいかないでしょ?毎日一緒にいるのに、喧嘩したくないし」
「クスッ。そうだな。チェギョンに嫌われるようなことにはなりたくないから、喧嘩はしなくて済むならそれに越したことは無い。でも」
「でも?」
「喧嘩してわかることもあるだろう?相手を傷付ける喧嘩はしたくないけど、喧嘩したくないからって言いたいことを飲み込むようにはなってほしくない。チェギョンが言いたいことはちゃんと聞くから、話してくれよ?」
「じゃあ、シン君もね」
「約束する。例えどんなに忙しくても、ちゃんとその日思ったことを話せる時間を取るようにしよう」
「うん」

チェギョンが頷くと同時に、東宮殿のパビリオンへと着いた。
今まで空室だった、そしてこのひと月ほどで見違えるほどに模様替された部屋へとエスコートした。

「慌てなくていいから、シャワーを浴びて着替えておいで」
「うん」

再びシンは、チェギョンの唇を奪った。

「シン君・・・」
「ちょっとでも離れているのが、淋しいんだ。だから」

シンらしくない、でもシンの素直な言葉に、チェギョンは笑みを浮かべるとお返しに頬にキスをした。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョンがシャワーを浴び終える頃には、女官たちがなぜか韓服と洋服、そしてどちらを着ても良いようにたくさんの髪飾りやらを用意して待っていた。

「お姉さんたち。改めて、今日から宜しくお願いします」
「媽媽、なりません。私たちのようなものに頭をお下げになられては」
「だって、あたしのお世話をしてくれるんでしょ?やっぱり、ちゃんとお願いしないと」

こういう、全く偉ぶらないところも彼女たちがチェギョンを気に入った理由だった。
もちろん、皇太后や皇后が偉ぶって命令ばかりするわけではない。
むしろ、一定のラインさえきちんと守っていれば優しい上司と言える。
でも、チェギョンとの間にはそのラインさえ存在しない。
一線を引かれて当然と思いつつも、やはり人間である以上そういうものが存在しない方が嬉しい。

「「媽媽。私たちはまだ正式な女官に昇格して間もないので色々不手際があるかと思いますが、精一杯お仕えさせて頂きます。宜しくお願いいたします」」

改めて挨拶をしたところで、チェギョンをドレッサーの前へと誘った。
そして、髪を乾かしつつ丁寧に髪の手入れをして行く。

「お姉さん、これは?」

いくつも並ぶ装飾品の中で、なぜか1つだけ箱に入ったものが置かれている。
それも、箱にリボンが掛けられた状態で。

「どうぞ、お開け下さい」
「え?」

チェギョンが不思議そうにしても、それ以上何も言わない女官たち。
むしろ、どこか楽しそうにチェギョンの手元を覗いている。
訝りながらもその箱に手を伸ばした瞬間、女官たちが静かに離れて行く気配がして顔を上げると、ドレッサーの鏡にさっきまでとは違うスーツ姿のシンが映った。

「シン君?」

シンは視線だけで女官たちを下げると、チェギョンの背後からその手元を覗き込んだ。

「開けてごらん」
「?」

後からやって来たシンが、当たり前に開けるように促す。
つまり。

「シン君のプレゼント?」
「緊張の連続で忘れちゃった?」
「え?」
「誕生日おめでとう」
「あ・・・」

ようやく納得したらしいチェギョンが振り返る間もなく、シンはチェギョンを抱き締めて頬にキスをした。

「開けて」

促されるまま箱を開けてみると、髪留めが入っていた。

「きれ~い♡ありがとう。シン君が選んでくれたの?」
「当然」
「これって、洋服でも韓服でも使えそうだね。あ、ねえ、シン君」
「ん?」
「韓服ってここでは当たり前に馴染むけど、みんながみんなそういう生活をしているわけじゃないでしょ?」
「ああ」
「こういう装飾品が使えるような、アレンジした韓服って作れないかな?」
「え?」

少し体の向きを変え、トルソーに掛けられた韓服と洋服を指差した。

「韓服ほどカッチリしたものではないけれども、洋服ほど西洋のものではない。そんなアレンジ韓服って言うのかな、そういうの作ったら怒られるかな?」
「作って、どうするんだ?」
「韓服に馴染みの無い若い人とかに、韓服に興味を持ってもらう切っ掛けになるかなって」
「後で母上に相談してみたらどうだ?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、前向いて。俺が髪を結ってあげる」

シンが髪を結ってくれるという状況はもちろんのこと、シンの優しい手つきに思わず顔が緩んでしまう。

「何だよ」
「え?」
「ジッと見られてるのが、鏡から伝わってくる。それに」
「それに?」
「もっと締まりのある顔をしろよ。だらしない」
「むぅ~。だって、シン君が優しいからいけないんじゃない」
「何だよ、それ」

チェギョンの髪をきれいに結おうとしているからか、真剣な眼差しをしているシン。
その眼差しに見蕩れない人がいるのなら、会ってみたい。
妻の贔屓目ではなく、カッコイイ。
そう思った瞬間、自分で心の中で呟いた“妻”という単語に、照れたように頬を染めた。

「チェギョン?」
「何でも無い」
「そうは見えないけどな」

そう言いながらも、優しくチェギョンの髪に櫛を通し、きれいにまとめて行く。

「出来た」
「・・・」
「何だ?」
「ねえ、この髪型だと洋服だよね?」

鏡越しの上目遣いに、シンは戸惑いを読み取ってクスリと笑った。

「チェギョン、韓服に拘る必要は無いよ」
「でも・・・」
「おばあ様も母上も普段は殆ど韓服だけど、洋服を全く着ないわけじゃない。チェギョンも、その時々でチョイスすれば良い」
「いいの?」
「もちろん。今のことで言えば、午後から正殿に挨拶に行くからその時は韓服に着替えてもらうけど。何もそれまでの時間、着慣れない韓服で緊張する必要は無いだろ?昨日一日、ずっと緊張の連続で疲れたんだから、自由な時間は気楽に着られるもので過ごせば良い」
「うん。ありがとう」
「パビリオンで待ってるから、着替えたら出ておいで」

そう言って部屋を出て行くシンの目が、何となくイタズラっぽい目をしている気がした。
自分でもすっかり忘れていた誕生日プレゼントを用意してくれただけでも十分驚かされたけれども、この数日今までに知らなかった顔をたくさん見せられているせいか、それともそれ以上に気を使うことに囲まれているせいか、何をされても驚かないのではと思いつつもシンが何を考えているのか楽しみに思えるから、チェギョンはクスリと笑うと急いで着替え始めた。
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2013年09月20日

14-03 喘ぎ声

無意識に誘う視線には困ってしまうけれども、何の媚も含まれないからこそシンは惹き付けられてしまう。

「誘ってる?」
「さそ・・・!そんなわけないでしょ」
「チェギョン。さすがに、ハッキリそう言われると傷つくぞ」
「あ・・・」

チェギョンを緊張させないためか、クスクスと笑ったシン。

「シン君、笑う事無いじゃない」
「騙されるチェギョンが悪い」
「意地悪なのね」
「意地悪したくなるんだよ」
「何で?」
「チェギョンが綺麗だから。意地悪でもしてないと襲いそうになる」
「!」
「ば~か。冗談だ」

クルクルと変わる表情に、シンは楽しんでいたけれども。

「・・・キレイじゃなかった?似合わなかった?」

チェギョンの悲しそうな問いに、フッと笑った。

「お前、本当に俺の気持ち分からない?」
「え?」

シンは少し動いて、チェギョンの隣に腰を降ろした。
そして、そっと肩を抱き寄せて自分の胸に寄り掛からせた。

「聞こえる?」
「ドキドキしてる」
「今日は、朝からずっとだった」
「え?」
「昨夜から、って言う方が正しいかな。明日になったら、チェギョンと結婚出来るんだって思ったら、良く眠れなかった。朝だって、チェギョンの様子を見に行っただけでドキドキした。あと少し、もう少しって自分を抑えながら電話して。正装したチェギョンを見た瞬間、マジで一瞬全部飛んだ」
「うそ・・・」
「ホント。今まで、どんな面倒な儀式でも、公務での挨拶でも忘れたことは無いのに。本当にあの一瞬、全部吹っ飛んだ。自分が次に何をするのか、思い出せないぐらいに」
「・・・自信たっぷりだったくせに」
「そう見せてただけ。伊達に、皇太子としてやって来てないよ。でも、チェギョンを前にすると皇太子の仮面なんて何の役にも立たない。知ってたけど、あの瞬間本当にそう思ったよ。チェギョンの前だと、見事なほど仮面も理性も飛ぶ」
「えっと・・・。今は、理性は飛ばないでほしいかも」
「ククク。分かってる。でも、チェギョンが良いと思ったら、本当に理性飛ばすからな。覚悟しとけよ」
「・・・オテヤワラカニオネガイシマス」

何と言って良いか分からないとばかりに、挙動不審になっているチェギョン。
そんなチェギョンも、シンにとっては可愛らしいものでしか無くて。
ゆっくりと顔を傾けると、そっと口付けた。
想いを伝えるかのように、ゆっくり、静かに、でも情熱的に。

「シン君・・・」

今までと違うキスに、チェギョンの瞳が甘く揺れた。

「それ以上可愛い目をされたら、理性飛ばさない自信無くなる」
「シン君がキスするからいけないんでしょ」
「可愛くない奴」
「さっきは可愛いって言った」

直前までの甘い雰囲気を吹き飛ばすように、言葉遊びを始めるふたり。
でも、ただの言葉遊びではなくて、そこには優しい柔らかい空気が漂っている。
目を見交わし、柔らかい笑みを浮かべ合う。

「もうちょっとこうしていたい気もするけど、チェギョンも寝不足だろう?」
「そんなつもりは無かったけど、寝てもすぐ目が覚めてたみたい」
「だろうな。目の下にうっすらとクマがある」
「うそ!」
「うっすらと、だよ。一晩ゆっくり寝れば大丈夫だ。それに、チェギョンがお妃教育やら今日の儀式を頑張った証拠だろ?明日また、いつもの元気なチェギョンの顔を見せてくれ」
「うん」
「じゃあ、今日はもう休もうか」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



シンによって部屋を追い出されたチェ尚宮たちが、廊下で待機してしばらくした頃。

「チェギョン、この紐解くぞ」
「う・・・ん」

躊躇いがちなチェギョンの声に、女官たちは目を見開いて顔を見合わせた。

「あっ、シンく~ん」
「ここか?」

さらに聞こえて来た声に、女官たちの体は自然と室内へと傾く。

(ナニシテルノ?)

チェ尚宮も、表情を変えずに室内の様子を気にする。
この儀式に関してはふたりの意思を尊重すると聞かされていたから、ふたりがどんな意思を持っていても対応しようとは思っていたけれども。
皇帝や皇后から、きっとふたりは恥ずかしがってチェ尚宮たちを遠ざけるだろうから、その時はそれに従うように言い含められていた。

『チェギョンが恥ずかしい思いをするなんて、かわいそうだからな』
『シンはどうでもいいわ。チェギョンが恥ずかしい思いをしないように、次の朝顔を会わせ辛くなるようなことが無いように気を使ってあげてちょうだい』

伝統よりも、チェギョンの心理状態をキッパリと優先させた皇帝と皇后からの命令。
チェ尚宮もまた皇帝や皇后と同じく、ふたりが人目を気にして恥ずかしがるだろうと思っていたのに、何も言われていない。
自分たちを遠ざけることを忘れるほどその時を待っていたのかと勘繰りたくなるけれども、この数日、そして今日のシンを見る限り、そんなことはあり得ないと思う。
あれほど細やかにチェギョンの様子に気を配っていたシンだから、自分たちを遠ざけるまでは気を張っているはず。
その後のことは、わからないけれども。

「痛っ!シン君、痛い。そっとやってよ」
「優しくしてるだろ」
「あ、そこ」
「ここか?」
「うん。気持ちいい・・・」

年の近い女官たちは、ふたりの様子に聞き耳を立てては逞しい想像力に任せて想像しては顔を赤らめたり悔しそうに袖を噛んだりしている。

「シン君」
「なんだ?」
「交替」
「え?」
「交替。あたしも、シン君にしてあげる」

女官たちは、互いにチラリチラリと目を合わせながらそれぞれの想像に顔を赤らめている。
だが、実際は・・・。

「その頭じゃ横になれないだろ」
「うん。でも、外し方知らないよ」
「俺が外すから、そっち向いて」

チェギョンの背後に位置したシンは、カチェを外すために括りつけられている紐に手をかけた。

「チェギョン、この紐解くぞ」
「う・・・ん」

この紐、と言われてもチェギョンには見えない。
だから、返事をしようにもハッキリとは返事が出来ないでいた。

「ふう~」

大きく重いカチェが外され、思わず溜め息をついてしまったチェギョン。

「大丈夫か?」
「重かったから、首とか肩がバンバンに張ってる気がする」

これまでのシンの人生で、肩もみなんて縁が無かったけれども。

「あっ、シンく~ん」
「ここか?」

これまでの知識を総動員した見よう見まねで、チェギョンの首や肩をもみほぐして行く。

「痛っ!シン君、痛い。そっとやってよ」
「優しくしてるだろ」

多少の力加減の失敗はご愛嬌。

「あ、そこ」
「ここか?」
「うん。気持ちいい・・・」

室内は艶っぽさのかけらも無い雰囲気なのに、その状況を知らない人が言葉だけ聞けば誤解出来る会話を繰り広げて行くふたり。

「シン君、初めてなんでしょ?」
「ああ」
「何でも出来ちゃうんだね。欠点ないわけ?」
「俺は完璧ですから」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



あれからしばらく、動く様子や小さな声が聞こえて来ていたけれども、その後朝まで静かだった。
それを、果たして何と記録すべきか悩んだけれども、翌朝ふたりの顔を見たチェ尚宮は、昨夜何事も無かったと感じ取った。
ふたりの表情が、それほど変わっていなかったから。

「おはようございます」
「おはようございます、お姉さん」

ゆっくり眠ったのが分かる、スッキリした表情。

「ああ、おはよう」

シンは、寝不足ではないけれども、どこかスッキリしていない表情。
チェギョンを見て優しい顔をするところからして、チェギョンが傍にいるから眠れたけれども、傍にいるが故に複雑に葛藤した夜が伺える。

「本日の正殿へのご挨拶は午後からとなっております。東宮殿へと戻られ、朝食をお摂り下さい」
「分かった」

そう言うと、スッとチェギョンに向かって手を差し出した。

「シン君?」
「帰るぞ」
「うん」

今までも手を繋ぐ様子を見て来たけれども、今日のそれは今までのどれとも違った。
ふたりの姿を見た誰もが幸せのお裾分けをしてもらえるような、明るく優しい雰囲気を纏っているふたり。
その足元さえも、踊っているかのように楽し気だった。
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2013年09月16日

17-03 お願いだから

(お願いだから、YESと言ってくれ)

そう心の中で呟きながら、チェギョンを揺り起こすシン。
シンの中でも、結論は一瞬ごとに揺れていた。
皇太子という立場で言えば、結論はひとつ。
後継者を望まれる立場だからこそ、悩むまでもない。
だから、悩むのはシン個人の部分。
いや、チェギョンが引き出した“人間”の部分と言ってもいいかもしれない。
シンの“男”としての本能は、ひとつしか望まない。
シンの長年の願いが叶ってチェギョンを妃に迎えることが出来たように、男としてチェギョンの全てが欲しいと思うのは当たり前の感情だろう。
でも、氷のプリンスと呼ばれたシンに生きた血を通わせたチェギョンが相手だからこそ、結論が揺れる。
緊張が解けて居眠りをしてしまうほど疲れ切っているチェギョンに、これ以上無理をさせたくない。
何より、大切な存在だからこそ、こんな人の目や耳がある場所で抱きたくない。
ふたりだけの時間として、大切に過ごしたい。
そう思うからこそ、シンの心の中で振り子のように決断も揺れ動く。
どちらの意見にYESと言ってほしいのか、自分でもよく分からなくなるぐらいに。

「・・・シ・ン・・君?」

重た気に瞼を持ち上げたチェギョンが、シンを捉えて眠そうな声を発した。
と、同時に。

「あ・・・」

チェギョンが恥ずかしそうに、お腹を押さえて赤くなった。
チェギョンのお腹から、何とも可愛らしい音が聞こえて来たから。

「あはは・・・」

チェギョンが何とも乾いた笑いを浮かべても、シンは動じない。

「お腹の音ぐらいで、どうこう思わないよ。大口開けて食べているところも、よだれたらして寝ているところも見てるから」
「いやぁ~。例え見られてても、イヤなものはイヤよ」

続けられた小さな声に、シンの頬は何ともだらしなく緩んだ。

「結婚して早々からそんな姿見られるなんて、イヤじゃない。例え取り繕えないぐらいみっともない姿を見られてたって、やっぱり、可愛く見られたいもん」

ブチブチとそう呟くチェギョンが、シンにとっては可愛いとしか表現しようがない。

「どんなチェギョンだって、可愛いよ」

その場限りの言葉ではなく、シンの本音。

「こんなことしたくなるぐらいに、な」

と言うが早いか、唇を重ねた。
最初は、うっとりとしたようにその唇を受けていたチェギョンだったけれども。

「シ、シン君!お姉さんたち・・・」

自分の状況に気付いたのか、慌てたようにシンの肩を押して離れさせようとする。

「気にするな」
「気にするわよ」
「気にしたって仕方ないだろ。彼女たちはこれからずっと傍にいるんだから、このぐらいのことには慣れてもらわないとな」
「え?」

それは、チェ尚宮や女官たちがいても構わずにキスをするということなのだろうか。
そんなチェギョンの戸惑いが、言葉にせずとも伝わったのかシンはニッコリと笑った。

「当然」
「・・・」
「外で、公務の時にキスして怒られるならともかく、俺たちの“家”で、好きな時に自分の妻にキスして何が悪い」

キッパリと言い切られてしまい、チェギョンは何も言えなかった。
何よりも、

「ふっ、俺が東宮殿を“家”と表現するようになるなんてな。チェギョンと再会出来なかったら、チェギョンと結婚しなかったら、絶対に言わなかっただろうな」

と言われてしまったら、もっと何も言えなくなってしまった。

「さあ、チェギョンのお腹の虫がこれ以上自己主張しないように、とりあえず食べよう」

チェ尚宮に合図をして酒や膳を運び入れさせると、固めの杯を交わし食事を始めた。

「シン君、これ美味しいよ」
「食事は逃げないから、慌てずにゆっくりと食べろ」
「だって~」
「朝から殆ど食べてないだろうから、お腹が空いてるって分かるけど。急に大量に食べたら、体がビックリするだろうが」
「美味しいんだもん」

全種類制覇する気なのか、色とりどりに並べられたお皿を次々に指し、女官に食べさせてもらうチェギョン。
さっきまでの緊張のかけらも見当たらない。

(ま、これがチェギョンだよな)

震えるぐらい緊張してしまうチェギョンも可愛らしかったけれども、これはこれでチェギョンらしくて安心出来てしまう。

(どんなチェギョンでも、結局は俺を惹き付けるんだよな。はぁ、自分で言うのもなんだけど、惚れてるよな、俺)

当たり前と言えば当たり前のことを、今さらに確認してしまうシン。
でも、それが不愉快どころか心を温かくしてくれる。

「チェギョン」
「ん?」

スライスされた肉に嬉しそうにかぶりつこうとしていたチェギョンは、何とも間抜けな表情を晒すことになってしまったのだけれども、それでも口を動かすことをやめる気配はない。
モグモグと口を動かし飲み込むと、小首を傾げた。

「なあに?」
「ありがとう、俺と結婚してくれて」

一瞬、何を言われているのか分からないとばかりに瞬きを繰り返したけれども、花が咲くように満面の笑みを浮かべた。

「それは、あたしもよ。ありがとう、あたしと結婚してくれて。それから、ずっとあたしを忘れないでいてくれて」

そう言うと、居住まいを正し可愛らしくチョコンと頭を下げた。

「これから、宜しくお願いします」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェギョンの何気ない仕草のひとつひとつに心を奪われてしまったシンは、相談したいことがあるのにそれを口にすることが出来なかった。
口を開こうとチェギョンを見ると、つい目を奪われてしまうから。
何より、美味しそうに、楽しそうに食べているチェギョンにそれを中断させようとは思わなかったから。
だから、チェギョンが満足そうに最後の菓子を食べ終わるのを待って、チェ尚宮たちに目だけで合図をして下がってもらった。

「チェギョン」
「ん?」
「相談」
「相談?」

いつもだったら、シンが相談するなんて考えられないとか言ってしまうところだけれども、この数日、そして今日のたくさん気遣ってくれるシンを見て来たから、素直に小首を傾げてシンの言葉を待った。

「・・・なんて言えばいいんだ、こういう時」

言いたいことは決まっているのだけれども、どんなふうに、どんな言葉で伝えたらいいのかよく分からない。
チェギョンが大切だからこそ、伝える言葉ひとつに戸惑ってしまう。

「言いにくいこと?」
「まあ、そうだな」
「もしかして・・・、この後のこと?」

チェギョンが切っ掛けのひと言をくれたから、シンはひとつ静かに息を吐き出すと、頷いてそれを認めた。

「ああ。大人たちの間で、意見が分かれたんだ」
「?」
「さっき、固めの杯を交わしただろう?」
「うん」
「略式でするなら、同牢の礼はあれで終わり。でも、皇太后陛下は早くひ孫を抱きたいから、そのまま本来の同牢の礼にって仰ってる。でも、俺たちがまだ未成年であることから、略式だけでいいって言う意見もある。どうするかは、自分たちで決めろって」
「・・・」

数日前、思い切り身の置き所に困る講義を受けているから、本来の同牢の礼で何をするかは分かっている。

「シン君は、どう思っているの?」
「正直、迷ってる」
「・・・」
「誤解しないでくれよ。やっと、チェギョンと結婚出来たんだ。このままチェギョンの全てが欲しいと思ってる。でも・・・」
「でも?」
「チェギョン、疲れてるだろう?このまま、儀式のひとつだからって流れでいくのは違う気がするんだ。チェギョンが大切だからこそ、流れじゃなくて大切にチェギョンを抱きたいと思うし」

臆面も無く言われてしまい、チェギョンの方が恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「何より」

廊下に控えているであろう女官たちには聞こえないように、少し声を落とした。

「今ここで、本来の同牢の礼にしようとしたら、廊下に女官たちが控えていることになる」
「え!?」

儀式の無いようそのものの講義を受けていても、そこまでは聞かされていなかったらしい。
信じられないとばかりに、目を見開くチェギョン。

「昔の名残だ。本来相手を務める女性と勝手に入れ替わっていたりしないか、欲しいものを強請ったりしていないか、最悪は暗殺を企てていないかって、女官たちがチェックするために聞き耳を立てる」
「・・・」
「昔は、実際に部屋の中にいて監視したり、手を貸したりしたらしいけど」
「手を貸すって?」
「男がその気にならなきゃ、コトは成就しないだろ?だから・・・」

何を言わせるんだとばかりに軽くチェギョンを睨んだけれども、チェギョンはその前に恥ずかしさの余り視線を逸らしていた。

「さっき言ったとおり、それは昔の名残で。でも、女官たちが廊下にいることは変わらない。そんな中でって、イヤだろ?」

コクコクと頷くチェギョンに、シンのフッと笑った。

「俺だってイヤだよ。キスぐらいなら見られてもいいけど、さすがにな・・・。だから、俺から出来る提案は3つ。1つ目は、今ここで。まぁ、チェギョンも俺もイヤだって言ったから、これは無いけど」

秘め事と言われるぐらいだから、やっぱり誰かが聞き耳を立てているなんてイヤだ。

「2つ目は、改めて日時を設定する。ただし、今よりは多少離れて控えるように交渉はするつもりだ」
「完全にいなくなるって言うのは、無理よね?」
「無理だろうな。もちろん、それも交渉はしてみるけど、期待しない方がいいと思う」

チェギョン大事な皇帝や皇后なら、あるいはやりかねないけれども。
その一方で伝統を大事にする人たちだから、チェギョンに恥ずかしい思いはさせたくないけれどもと、妥協案を提示して来る気がする。

「3つ目は、2つ目と同じように改めて日時を設定する。ただし、その前にこっそり俺たちだけでその時を迎えてしまう」
「え?」
「多分、妥協案で手を打たなきゃいけなくなるから、その前に誰もいないところで、ふたりだけで大切にその時を迎えたい」
「それって、大丈夫なの?」
「何が?」
「その・・・」
「昔のヨーロッパの王侯貴族だったら、花嫁が処女であったことを示すためにシーツを掲げて証明する、なんてやったらしいけど、そう言うことはしないから。だから、大丈夫だろ」
「でも、皇族は嘘をついちゃいけないんでしょ?」
「必要な嘘って、あると思うよ」
「・・・」
「チェギョンはどうしたい?」
「・・・3つ目」
「わかった。じゃあ、今日はこのまま休むとしようか」
「え?」

用意されている自分の部屋へ戻るのかと思ったチェギョンは、シンの言葉に驚いたように声を上げた。

「ベッドでゆっくり休ませてやりたいとは思うけど。同牢の礼が略式で行われる前提で、東宮殿の改修がされてるんだ。つまり、寝室は別。いくら何もしないからって、結婚初日から別に寝るのはイヤだ。チェギョンが俺と結婚してくれたって実感したいから、一緒に寝よ。何もしないって、約束するから」

例えそれが苦行だったとしても、チェギョンを手放せない。

「本当に、何もしない?」
「キスぐらいはするかもしれないけど」

その言葉に、チェギョンが何とも表現し難い上目遣いでシンを見て来た。

(お願いだから、俺の決意を揺るがすような無意識に誘う視線はやめてくれ)
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2013年09月14日

06-01 もたれる

引き攣っていてもいいから笑みを浮かべていろ、とは言われたものの。
これまで、ちょっとした愛想笑いはしたことがあっても、こんなに大勢の人の前で、それも長時間それをキープし続ける経験なんて無い。

(無理だよ~)

馬車が動き出してすぐに、そう愚痴を言いたくなったチェギョン。
どちらを見渡しても人・人・人の黒山の人だかり。
その上、大学でそれなりにこの婚姻に対する反対の声を聞いていたから驚かないつもりだったけれども、それでもやはり堪えてしまう反対する声。
そんな中で笑みをたたえ続けるのは至難の業。

(シン君、すごい・・・)

うっかり沿道を見たら緊張することは分かり切っていたから、チェギョンは自分の前を走る馬車へと視線を送った。
そこには、プリンススマイルを一瞬たりとも曇らせる事無く手を振り続けるシンの姿。
そんなシンの姿を見ていると、自然とチェギョンの顔に笑みが浮かぶ。

(シン君、カッコイイ♡)

シンを見て甘い笑みを浮かべるチェギョンに、沿道から野太い歓声が上がる。
シンは、それが誰に対する歓声なのかを的確に理解し、わずかに眉間にしわを寄せる。
もちろん、誰にも悟らせないぐらい、ホンの一瞬の出来事。
まるで、光が眩しいと感じているかのように、わずかに顔の向きを変えた。
だがそれは、先に交差点を左折するシンの馬車から、少し顔を動かすだけでチェギョンが見えるからにほからならない。

(頑張れ)

わずかに唇を動かしてチェギョンを力づけることも忘れない。
その結果、再びチェギョンが柔らかい笑みを浮かべ、沿道から何とも言えぬ歓声が上がることになるのだけれども。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「お疲れ」

ようやく馬車が止まった。
つまり、道路を埋め尽くす群衆とはようやく離れることが出来たということだけれども、チェギョンは既に疲労困憊。
先に馬車から降りたシンが、チェギョンの馬車に近付いて来た。

「大丈夫か?」
「・・・大丈夫に見える?」
「愚問だったな。でも、良く頑張った」

シンに褒められて、悪い気はしない。
疲れた顔に、何とか笑みを浮かべたチェギョン。
そのチェギョンに、シンは手を差し出した。

「?」
「ひとりじゃ降りられないだろ。掴まれ」
「優しいのね」
「当然。やっと、チェギョンをここに連れて来ることが出来たんだ」
「何度も来てるじゃない」
「お前な・・・」

遊びにくる、という意味でなら確かに何度も来ている。
皇太后や皇帝、皇后を相手に、何度チェギョンを間に争って負けたことか。

「もう、帰る時間とか次に逢える予定とかを気にしなくて良くなった」
「ふふふ」

笑う余裕はあるけれども、馬車から降りるだけの力は、残っていないらしい。
立ち上がろうとしてもうまく立ち上がれないチェギョンに、シンはひらりと馬車に飛び乗った。

「シン君?」
「暴れるなよ」

そう言うが早いか、チェギョンを抱き上げた。

「シン君!」
「暴れるなって。暴れたら、落とすぞ」
「でも、危ないよ」

わずかに揺れる馬車の上。
しかも、普段着ているような洋服ではなく韓服、しかもお互いに正装姿。

「ば~か。俺が何年皇太子やってると思ってる。お前よりは、こういうのには慣れてるよ」
「あたし以外にも、誰かお姫様抱っこしたの?」
「それこそ、ホントバカだな、お前。するわけないだろ。お前以外の女は、全部石ころかカボチャでしか無いのに」

そう言いながら、危なげなく馬車から降り立ったシン。

「立てるか?」

シンにもたれ掛かるようにして足を地につけたチェギョンが、確実にひとりで立てるのを確認するまで手を離そうとはしない。

「うん、何とか大丈夫みたい」

ゆっくりと顔を上げながら、ひとりで立つチェギョン。

「手を繋いでやるから、転ぶなよ」

いつもだったら、偉そうだのなんだの文句を言うはずのチェギョンが、おとなしくシンに手を引かれて歩き始めた。

(おとなしいな。さすがに、疲れて言い返す気力も無いか?ま、その方が都合がいいけど)

チェギョンは気付いていないけれども、まだカメラはふたりを追っている。
先ほどまでとは違い代表撮影だし、ふたりからは見えない位置で撮影をしているはずなのでチェギョンには分かるはずが無い。
気付けばまた緊張してしまうだろうし、何よりこうやってシンがチェギョンを気遣っている様子を撮られる分には、シンがチェギョンに惚れ込んでいると世間に分からせることが出来る。
だから、シンはチェギョンをお姫様扱いする。

「疲れただろう。でも、まだ大統領とかからの祝辞を受けなきゃならないから、もう少し頑張れよ」
「うん」
「後は、ずっと俺が一緒だから、頑張れるだろ?」
「ずっと一緒?」
「ああ」

そう答えたシンの頬がほんのりと赤らんだけれども、チェギョンにはその理由までは思い当たらなかった。

(どうしたものかな・・・)

実は、合房をどうするかは当人たちに委ねられていた。
婚礼まで慌ただしく過ぎてしまったことからしばらくはふたりだけの時間を過ごしては言う意見がある一方、一日も早く皇太孫をという意見もある。
ひ孫の顔を見たくて仕方が無い皇太后は、むろん後者の意見を押していて。
最愛の息子を取られたくないから、では無く、かわいい義娘にあれもこれもと押し付けたくないからという建前と、何より実の息子より嫁を溺愛しているがゆえに前者の意見を押す皇后。
意見が色々と分かれてしまったために、当人たちに任せると通達されたのは昨日のこと。
尤も、通達されたのはシンだけで、即ちどうするかはシンの胸三寸。

(とりあえず、祝辞を受けてから考えるか)



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



これと言ったトラブルも無く、大統領を始めとする要人の祝辞を受けたシンとチェギョン。

「お疲れ。良く頑張ったな」
「シン君・・・。もう、ビックリ。大統領なんて、テレビの向こうの人だよ~」
「あのな、お前だってもうテレビの向こうの人だぞ」
「え?」

全く実感がないのが丸わかりな、キョトンとした表情。

「自分で言うのもなんだけど、俺、皇太子。テレビの向こうの人。で、その俺と結婚したお前は皇太子妃。これまた、テレビの向こうの人。違うか?」
「えっと、そうかも・・・」
「そうかもって、お前な・・・」

チェギョン相手に言っても無駄だと思ったのか、シンは、

「女官たちが待ってる。着替えて来い」

と、促した。
そして、自らも韓服からスーツへと着替え、予定された最後の儀式、同牢の礼のために最後の儀式の場へと向かった。

「あ、シン君スーツだ。良いな、身軽で」

シンから遅れること暫し。
シンとは違い、相変わらず韓服姿だけれどもさっきまでとは違う衣装に着替えたチェギョンは、姿を見せるなり腰を降ろしたことで疲れが出たのか、家具に寄り掛かって眠り始めた。

(相談しなきゃいけないんだけどな・・・)

この後の儀式を、略式にするか本来の手順に則ってするのか。
シンの中でも様々に揺れるその結論を、チェギョンに相談しようと思ったのだけれども、それよりも早くチェギョンが夢の世界へと旅立ってしまった。
そして、いつもなら一人冷静というよりも冷ややかにことの成り行きを見守っているはずのシンも、今までにやったことの無い他人に対し気を使うという作業を一日中していたためか、壁にもたれて船をこぎ始めた。
儀式のために室内に入って来たチェ尚宮と女官たちは、そんなふたりの様子に笑みを浮かべた。
チェギョンが眠ってしまうのは、想定内と言えば想定内。
だが、シンのその姿は意外というよりも驚きだった。
同時に、シンがそこまで神経をすり減らしてチェギョンを気遣っていたのだと思うと、氷のプリンスにもきちんと血が通っているのだと感じられて嬉しくなる。

「殿下、妃宮様。お目覚め下さい。まだ儀式が残っております」

チェ尚宮の声に、シンが直ぐさま目を醒ました。

「俺・・・眠ってた?」

自分で自分の失態が信じられない、と言わんばかりの顔をしている。

「長丁場の上に、ずっと妃宮様を気遣っておいででしたので、お疲れになりましたでしょう。ですが、最後の儀式のためにこれからお酒とお膳が運ばれます」
「わかった」

そう言いながら、チェ尚宮よりも先にチェギョンの傍に寄って行くシン。

「チェギョン」

チェ尚宮たちが聞いたことが無いぐらい、優しく甘い声。
だがチェギョンにとっては驚く声音ではないのか、目を醒ますどころか自然と声のする方に体を倒し擦り寄って甘える。

「甘えん坊チェギョン、起きろ」
「ん・・・」

自分にもたれて来るチェギョンに、口では起きろと言いながらも眼差しはとても優しくなっている。
疲れているチェギョンを、このまま寝かせておいてやりたいとばかりに。
だが、そうさせてあげるわけにはいかない。

「チェギョン、最後の儀式だ。その前に相談があるんだ、起きてくれ」
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2013年09月10日

10-03 脚

「頭が重い~。やっぱり緊張する~」

シンがくれた電話で、一瞬は緊張が和らいだと思ったけれども、やはりこの状況で緊張と縁が切れるはずもない。
とはいえ、その緊張を口に出来る程度にはほぐれているのだけれども、チェギョン自身がそれに気付いた様子は無い。

「緊張する、どうしよう~」
「失敗しちゃったら・・・」

次々と出てくる不安を示す言葉に、それでもチェ尚宮は笑みを見せた。
ここで自分が厳しい表情をしたら、チェギョンを萎縮させてしまう。

「媽媽、宜しいでしょうか」
「もう、時間?」
「はい」

チェ尚宮の声に、椅子から立ち上がったチェギョン。
自分で足が震えているのが分かる。
普段着るような洋服ではなく韓服であることに、感謝したくなる。
チマの中で足が笑っているが、とりあえず見えないから。
自分でもどうしようもないぐらいに、音が聞こえそうなぐらいに震えている。
それでも、女官たちに手を取られながら自分の足で立つ。
シンのもとに行くために。

「媽媽、参りましょう」

女官の声に、チェギョンは最初の一歩を踏み出した。
そして、第一関門とも言える小さな段差をやり過ごすと、わずかに顔を上げた。
自分たち以外の人の気配、そして静かだけれども人々が集まるが故の音が感じられたから。
その目に映ったのは・・・。

(カメラ・・・。そうだよね)

事前に、聞かされていた。
ユルの両親の婚礼以来四半世紀ぶりの国婚だから、一日中カメラがふたりを追い続けると。
それを聞かされた時、シンが皇太子なのだと実感した。
チェギョンにとってシンはシンでしかなかったから。
複雑な儀式も、シンが皇太子だからこそなのだと頭では分かっていても、それ以前にこの国が誇り守らなければならない伝統という認識が主だった。
そこには、シンが皇太子であることは関係なかった。
だが、まるで見せ物のように可能な限り儀式の全てをつまびらかにするという事実に、シンが公人なのだと、ただのイ・シンという男ではなく皇太子なのだと気付かされた。
そして、そのカメラの存在がチェギョンの緊張を増幅させる。
それでも、さっきのシンからの電話を思い出し、勇気をもらおうとするかのように視線だけでシンを探すと。

(いた)

いてくれなければ困るのだけれども、いてくれたことに安心を覚える。
そんなチェギョンの想いが伝わったのか、シンがこちらに視線を送って来た。

(来たな。ガチガチに緊張してるな)

パッと見た瞬間、チェギョンの状態を見て取った。
そして。

(でも、かわいいな)

自分の頬が赤くなるのが分かる。
普段の元気のよいチェギョンでも、スカートの裾を翻して駆け回るチェギョンでもなく、初めて見る韓服の正装姿できれいに化粧を施されている。
そのどれもが、シンの目を惹き付けて止まない。

(う~、シン君笑ってる?でも、意地悪な笑い方じゃないよね)

ハッキリ見えるわけではないけれども、シンの目元が優しく微笑んでいる気がする。
例えそれがチェギョンの願望だとしても、今はそれに縋って前に進むしかない。

「待ってたよ」

女官たちに支えられながらシンの近くまで足を進めると、かろうじて聞こえるぐらいの大きさのシンの声が聞こえて来た。
その声にチェギョンがわずかに笑みを浮かべると、嵐のようにシャッター音が鳴り響く。

「チェギョン」

マスコミとは縁のなかったチェギョンの顔が、そのシャッター音に強張りかけた瞬間、すかさずシンが声を掛けて来た。

「俺の声が聞こえるか?」
「うん」

1台2台だったら問題ないところだが、数十台のカメラが一斉にシャッターを切ると、近くにいても声が聞こえなくなる。
それを懸念して問うシンに、チェギョンは小さいけれどもしっかりとした声で答えて来た。

「怖がらなくていい。こんなにカメラがいることは経験が無いだろうけれども、カメラを気にする必要は無い。ここに俺がいる。だから、顔を上げていて」

女官たちが支えているから、躓いたりして倒れる心配は無い。
儀式の進行も、もし間違えそうになったら自分がフォローすればいいから大丈夫。
チェギョンがきちんと前を向いてさえいてくれれば、どうにでも取り繕える。
今まで、この家に生まれて来たことを何度恨めしく思ったか知れない。
それでも、今この瞬間は、これまでの全てがこの時に役立てるためだったのかと思うぐらい、経験から来る知識を総動員してチェギョンをリードして行く。
それは、冷たい眼差しをするシンばかりを見て来た女官たちを驚かせるほど。

「今は泣くなよ」

チェギョンの父からの訓示に、チェギョンの顔がわずかに下がったのを感じたシンが、すかさず声を掛けた。
もし自分がチェギョンの立場だったとしても泣かないという変な自信があるくせに、チェギョンなら泣いても不思議ではないと思っている。
自分には無い、豊かな感情を持ち合わせているチェギョンが、泣かないはずが無いから。
尤も、今までの自分なら注目を集める公の場で泣くなんてとんでもないというところだけれども、今のシンには独占欲と呼べる物があるから。
例えそれがチェギョンの親からの言葉であっても、泣かせたくはなかった。
泣くのなら、自分の前だけにしてほしい。
こんな独占欲が自分の中にあるなんて、思いもしなかった。
でも、それをやめるつもりなんてサラサラない。

「後でいくらでも泣かせてやるから、今は我慢しろ」
「うん」
「いい子だ」
「子ども扱いしないでよ」

緊張していたはずなのに、シンの言葉に即座に反応するチェギョン。
小声だし、それほど唇を動かさないから、まさか自分たちの婚礼の最中にこんなやり取りをしているなんて、誰も思わないだろう。

「してないだろ」
「してるもん」

間近で聞いているチェ尚宮や女官たちは、思わず緩んでしまいそうになる頬を抑え込まなければならなかった。
同時に、シンのその驚くほど繊細な心遣いがどこか納得出来ないのも表に出さないように努力しなければならなかった。
彼女たちに取ってシンは、無表情な氷のプリンスそのものだから。
確かに、チェギョンと再会してからのシンを見て来たから今のシンを嘘だとは言わないけれども、それでも、彼女たちに取ってシンは皇太子だから。
特にこの数日、そして今の自分のことよりもチェギョンのことに神経を使うシンは、予想外と言ってもいい。
だが、女官たちは如実にその効果を感じていた。
控えの場から一歩足を踏み出したときのチェギョンからは、震えがとても良く伝わって来ていた。
それが、今では全く震えが無いとは言わないけれども、シンに言い返す瞬間だけは女官たちが支えなくてもキチンと自分の足で立っていられる。
例えそれがシンに対する怒りが原動力であったとしても、それが出来るのはシンだけ。
シンの変化を納得出来ないくせに、チェギョンを支えられるのはシンだけだと言い切れた。
それほどに、シンの傍にはチェギョンしか立てないと確信している。

(こんなステキなおふたりにお仕え出来るなんて)
(私たち、運がいいわよね)

お互いに目を合わせて、言葉を交わさずとも思っていることを確認し合う女官たち。

「シン君、せっかく覚えたのに忘れちゃうから、からかわないで」
「からかってないだろ」

近寄り難い存在としてではなく、近い存在として。
そして、命令からではなく自らの意思で傍で仕えたいと思う存在として。
その存在の始まりから関われることを、幸せに思う。

「ほら、怒るな。あと少し頑張れ」

シンにうまくあしらわれながらも、何とか親迎の礼を終えることが出来た。

「次は、パレードだな」

息つく間も無く続いて行く儀式。
そのひとつが終わったに過ぎないけれども、チェギョンは小さく頷くとシンを見上げた。

「どうした?」
「ありがとう」
「え?」
「迎えに来てくれて」
「当然だろ。自分の大切なものは、自分で取りに来ないとな。誰にも渡したくないから」

いつにも増して、韓服での正装姿で凛々しさ倍増のシンにそんなこと言われたら、立っているのがやっと。
言い返すことも出来ずにいると、スッとシンの手が伸びて来て頬に触れた。

「しばらく一緒にはいられないけど、正殿に着いたら後はずっと一緒だから。背筋を伸ばして、引き攣っててもいいから笑みを浮かべてろ。出来るか?」
「頑張る」
「じゃあ、馬車に乗って。また後で」

名残惜しそうに手を離し、背を向けたシン。

「やっぱり、ワガママだって言われても同じ馬車にしてもらえば良かった」
「え?」
「こんなきれいなチェギョンをひとりで馬車に乗せるなんて、ヤダ」
「・・・」
「くそっ、同じ馬車に乗って、お前に変な視線を送って来る奴を牽制したい」

背を向けたままだけれども、思いも掛けない言葉をかけられて、チェギョンの顔には恥ずかしそうに、でも嬉しそうな笑みが浮かんだ。
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2013年09月04日

18-04 ちょっと待って

婚礼開始直前。
全ての音が、遠くから聞こえて来る気がする。
それほどに緊張が高まっているチェギョンに、チェ尚宮が声を掛けて来た。

「媽媽」

いよいよその時なのだと思い、何とかチェ尚宮を視界に捉えた。

「お姉さん・・・」

自分でも情けないと思う声しか出ない。

「ちょっと待ってって言っても、ダメよね?」

シンと結婚したくないわけではない。
いや、そのために、急展開の日々を乗り切って来たのだ、言うはずも無い。
でも、その時を待ち望んでいた気持ちとは裏腹に、そのための厳粛で伝統的で複雑な仕来りや儀式には尻込みしてしまう。

「媽媽」

窘められると思って、不安そうに上目遣いで見上げるチェギョンの前に意外なものが差し出された。

「お姉さん?」

さらに差し出されたのは、チェ尚宮の携帯電話。
小首を傾げながらも、チェギョンはその携帯電話を受け取って耳に当てた。

『チェギョン』

同じく婚礼開始直前のシンの声が聞こえて来た。

「シン君!」
『緊張してるか?』

シンは緊張していないのかと聞き返したいのに、言葉が出て来ない。
何より、聞こえて来る声がどこか楽しそうなのも癪に障る。

『いいよ、緊張していても』
「え?」
『むしろ、緊張してない方がおかしいだろ』

確かに、そのとおりだ。
これを緊張せずにいられる人がいたら、会ってみたい。

『最初の一歩さえコケなければ』
「ひどっ」
『だって、最初の一歩をコケなければ、女官たちが俺の傍に連れて来てくれるだろ?』
「・・・うん」
『そうしたら、俺が傍にいる。女官たちもチェギョンを支えてくれるだろうけど、俺が傍にいる。俺が、チェギョンを支える。何があっても、俺がカバーする』
「シン君・・・」
『だから、最初の一歩だけ頑張れ』

本気でそれを信じられるわけではない。
最初の一歩だけで済むはずが無い。
それでも、昨夜シンが手を握っていてくれたように、今朝わざわざ顔を見せてくれたように、自分を気遣ってくれているのが分かるから。

「うん」

そう返事をすることが出来た。

『不安なら、最初の一歩を踏み出す前に俺を捜せ』
「え?」
『チェギョンが向かう先に、俺がいる。そのための儀式だからな』
「ふふふ」

笑うことが出来た。

『だから、俺のところまで、頑張って歩いておいで。ちゃんと待ってるから』
「うん」
『そうしたら、後は一緒に頑張ればいい』

全部をひとりで頑張らなくていい。
一緒に頑張ろうと言ってくれた。
その言葉が、今だけのことでは無いように聞こえるのは、自分の願望だろうか。

『今まで、真面目にこれからのことを話したことは無いけれど、俺は陛下たちのように女性が一歩下がればいいとは思っていない』
「シン君?」
『伝統を全て打ち壊すことは出来ないし、してはいけないと思っているけれども、出来る範囲で並んで歩きたいんだ。だから、一緒に頑張れることは一緒に頑張ろう』
「・・・」
『おい、泣くなよ。せっかくきれいに化粧してるんだろう?化粧が崩れたら、100年の恋も一瞬で冷めるぞ』
「むぅ・・・」

意地悪なシンに、仕返しがしたくなる。

「じゃあ、あたしもシン君が嫌いになる」
『ちょっと待て』
「待たない」
『誰も、嫌いになるなんて言ってないだろ』
「だって」
『それに、俺、まだ100年も恋してないし』
「・・・」
『何より、嫌いになってくれと言われたって嫌いにはなれない。速攻で断る』
「・・・」
『今からお前を迎えに行くのに、つれないこと言うなよ』
「・・・ちゃんと来てよ」
『当然』

一瞬の躊躇いも無く、当たり前のように返って来た声。
そして。

『俺の願いが叶って、チェギョンを妃に迎えられるんだ。どんな邪魔が入ったって、絶対に迎えに行く』

今までのシンの無言の優しさを証明するような言葉に、チェギョンの頬に赤味が差した。

「うん、待ってる」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「ヤバいだろ、その声」

チェギョンの声から少し緊張が取れたのを確認して通話を終えたけれども。
最後に聞いた、

『うん、待ってる』

の声が、とっても可愛らしかった。
姿が見られないのが、残念なぐらいに。
そして、声だけなのにシンの心臓をかき乱してくれる。

「殿下、ご準備は宜しいでしょうか?」

シンが通話を終えたのを確認したコン内官が、近付いて来た。

「ああ。と、言いたいところだけど、ちょっと待ってくれ」
「殿下?」
「少しで良い」

その返事に、コン内官は驚いた。
少なくともチェギョンと再会するまでのシンは、自分の感情は二の次で淡々と義務をこなして来た。
そこにどんな感情が存在したとしても、それをきれいに隠し皇太子の仮面を貼付け、やるべきことをやって来た。
でも、チェギョンと再会してから、チェギョンがいる時には表情が豊かになった。
それは、皇太后を始めとするシンの家族はもちろんのこと、あの頃を知っているコン内官たち古参の職員も望んでいたことだから、誰もが嬉しく思いながらその様子を見ていた。
だから、チェギョンの入宮後、幾度となく予定を調整してチェギョンと会えるようにした。
今朝早くチェギョンの様子を見に行くことも、黙認した。
例え予定外の行動をしても、きちんとやるべきことはやっていたから。
それなのにそのシンが、スケジュールを知っているはずのシンが、少し待ってほしいというなんて思わなかった。
だが、続いて聞こえて来たその理由に、コン内官の顔はいつにも増して優しい笑みが浮かんだ。

「チェギョンが少しでも落ち着けばいいと思って電話したけど、すっごくかわいい声を聞かされて俺の方が落ち着かなくなった」

それを示すかのように、ほんのりシンの頬が赤味を帯びている。

「これから毎日一緒だって言うのに、今から声だけでこんなにドキドキさせられたら、俺どうなっちゃうんだろ」

本気でそう呟いている様子に、不謹慎ながらも可愛いと感じて笑ってしまいたくなる。
分かっていたけれども、際限なく惚れ込んでいる様子に、シンが今まで抱えていた淋しさやつらさを補って余りあるほど存在に出会えたこと、そして共に歩めることに、先帝の先見の明とともに天に感謝せずにはいられない。

「う~、ダメだ。さっきの声を思い出すと顔がにやける」

皇太子としての顔を作り直そうとして苦労しているシンを見られる日が来ようとは、誰も思わなかっただろう。

「でも、待たせ過ぎると、また緊張させるよな」

そう言って、必死に自らを立て直したシン。

「コン内官、待たせた。行こうか」

そう言って真っ直ぐに顔を上げたシンが、ひと回り大きくなった気がした。
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2013年08月29日

03-04 ほつれた髪

翌朝、つまりシンとチェギョンの婚礼当日早朝。

「おはようございます。お目覚めですか?媽媽」
「おはよう、お姉さん」

チェ尚宮の声に枕から頭を上げたチェギョンの髪が、ほつれている。
果たしてそれは、ちゃんと眠れたからなのか、眠れずに何度も寝返りを打ったからなのか。

「媽媽、少しでもお休みになれましたか?」
「うん・・・。シン君が傍にいてくれたから」

シンが手を繋いでいてくれたからか、夜中に目が覚めて自分が寝ていたことを知った。
とはいえ、その後ずっと熟睡していたわけではなく、短時間で何度も目が覚めてしまっていたけれども。
それでも、シンがいてくれたという事実がチェギョンを支えてくれた。
緊張とは縁が切れないけれども、シンとの新しい生活への高揚感もある。
だから、寝不足で多少の顔のむくみはあるけれども、表情は明るい。

「チェギョン、起きてるのか?」
「シン君?」
「おはよう」
「・・・おはよう」
「何だ、寝起きか?」

いくら他の人に比べてシンの言動には驚かないチェギョン、そして何度もシンのためにスケジュール調整をしたチェ尚宮でも、この登場には驚いた。
それでなくても、顔を合わせないという慣例を破っていると知っているはずなのに、当日の朝まで会いにくるとは。
しかも、いつもならコン内官やチェ尚宮が事前に察知して調整するのだけれども、この行動は予想外だった。

「じゃなくて。何でいるの?」
「何でって、チェギョンの顔見たいからに決まってるだろ」

チェギョンの驚きに気付かないのか、はたまた分かっていて無視してるのか。
当たり前にチェギョンに近付くと、お下げ髪に手を触れて軽く揺すった。

「昨夜、解いてやろうと思ったんだけど、良く眠ってたからやめたんだ。思ったより乱れてないところを見ると、少しは眠れたみたいだな」
「そんなところで判断しないでよ。でも、ありがと。シン君のおかげだよ」
「俺は何もしてないよ」

サラリと返って来た答えに、この突然の登場もシンの優しさだと感じられた。
言葉にはしないだろうけれども、心配してくれている。

「シン君」
「ん?」
「大好き」

そう言ってふんわりと抱きつくチェギョンに、チェギョンの前ではいつも下がっているシンの目尻がさらに下がった。

「知ってる。俺も、チェギョンが大好きだ」
「あたしも知ってる」

何でも無い日にこれを見たら、ただのバカップルだと思っただろう。
でも、チェ尚宮の目には、シンに抱きついたチェギョンの手が震えているのが見て取れた。
元気の良さが取り柄のチェギョンだけに、入宮当初は明るく過ごしていたけれども、この数日は時折顔を強張らせて緊張が見て取れていた。
尤も、それを見越したかのように良いタイミングで、シンが姿を見せていたのだけれども。
だから今だって、忙しい婚礼当日の登場に驚いたけれども、チェギョンの為には良い事だと思うから止める気は全くない。
むしろ、お互いに落ち着けるのならと、時間が許される限りふたりにしようと静かに部屋を出た。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



頃合いを見計らって、用を済ませたチェ尚宮がチェギョンの部屋へ戻ると、シンがチェギョンの頬にキスをして部屋を出て来るところだった。

「後は頼む」

チェ尚宮が席を外したのはそれほど長い時間ではないけれども、その時間の中でどんな会話をしたのか、気のせいかシンの纏う空気がひと回り大きくなった気がする。
その後ろ姿を見送ってから室内に入ると、チェギョンが落ち着いた表情で立ち上がったところだった。

「媽媽。まずはお体を清めて頂きますが、その前に何か召し上がりますか?」
「食べられそうにないわ」
「では、後ほどお支度の際に軽くつまめるものをご用意いたします」

チェギョンに考える間を与えないためか、追い立てられるようにチェギョンはバスルームへと連れて行かれ女官たちの手で磨き上げられた。
そして次は、髪を結い上げるためにドレッサーの前へと誘われた。

「媽媽、本日の儀式は長時間に渡ります。少しで構いませんので、お召し上がり下さい」

女官たちが、髪一本の乱れも無いようにキッチリと結い上げて行く最中でも食べられるようにという配慮なのだろう。
一口サイズのクッキーやサンドイッチ、そしておにぎりと、チェギョンの状態に合わせて撰べるように数種類用意されている上に、チェギョンの気を引くように可愛らしく形作られている。
さらに飲み物に至っては、冷たい物を飲むとお手洗いが近くなるからという配慮なのだろうか、ストローで飲めるギリギリの温かい温度にされている。
チェ尚宮の指示なのか、それとも厨房の気遣いなのか。
どちらにせよ、自分のために用意してくれたと思うから、全く手をつけないなんて出来ない。

「あ、これ美味しい」

自分一人だったら、きっと緊張し過ぎて味が分からないかと思ったけれども。
シンやチェ尚宮の優しさと同じぐらい、ちゃんと味を感じることが出来る。

「お姉さん、ありがと」

チェ尚宮にとっては当たり前の行動にもきちんとお礼を言うチェギョンは、命令されることが当たり前のチェ尚宮でさえも微笑ませることが出来る。

「媽媽。御髪を整える間、私も支度をして参ります」
「また戻ってくるわよね?」
「もちろんでございます」
「良かった」

チェギョンを一人にしないために、チェ尚宮とチョン女官、パン女官が時間差で支度することになっている。
そう説明され、ホッとした表情になるチェギョンに、チェ尚宮は思わず妹を見るような眼差しを送ってしまった。
シンに対し強気な態度に出るかと思えば、こうやって不安そうな表情も見せるチェギョン。
仕えるというよりも、守りたくなる。
とはいえ、皇太子妃という立場で留まるわけではなく、この先がある身。
守るだけではいけない事は分かっているけれども、少なくとも今日だけは、新しい世界に足を踏み入れる今日だけは守りたいと思った。

「何かございましたら、遠慮なくこの二人にお申し付け下さい。それでは、暫し失礼いたします」

チェ尚宮が一礼して部屋を出て行くと、チェギョンは女官を質問攻めにした。

「お姉さんたちも、着替えるのよね?」
「はい。媽媽が韓服でいらっしゃるのに、私たちがこのスーツではおかしいですから」
「じゃあ、チェ尚宮お姉さんも韓服に?」
「もちろんです」
「でも、あたしの支度が時間がかかるって言われているのに、韓服に着替えて戻って来られるの?」
「私たちはもともと交替で支度をする予定で、可能な限り髪型など事前に準備出来ることは済ませてあります」

緊張を隠すためかもしれないけれども、喋り続けるチェギョンの相手をしながらも支度を進めて行く。

「媽媽、お目を閉じて頂けますか?」

髪を整え、化粧を施して行く。

「お姉さん、クッキー取って。お姉さんたちの分もよ」
「媽媽、私たちは・・・」
「一緒に食べましょ。長時間の儀式なのは、お姉さんたちもでしょ?」

自分が食べるときは、道連れのように女官たちの口にも同じものを放り込む。
食べ物でつられるわけではないけれども、そんな些細な優しさが嬉しかったりする。

「わあ、チェ尚宮お姉さんキレイ」

支度を終えたチェ尚宮が戻って来たのをドレッサーの鏡を通して見つけたチェギョンは、すぐに声を上げた。

「何だか、ドラマみたい」

自分がその主役だということを忘れているらしい、ワクワクとした表情。

「殿下とご一緒されると、さらにそう思われるかもしれませんね」
「う~ん、格好良過ぎて、現実だと思えないかも」

サラッと惚気られてしまったけれども、誰もが同意せずにはいられなかった。
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2013年08月22日

17-05 依存してしまう

いよいよ、明日に迫った婚礼。

「お姉さん、どうしよ~」

シンと結婚するという事実よりも、いかに婚礼の儀式を間違えずに滞り無く済ませるかが、今のチェギョンの最大関心事。

「媽媽、今の復習もきちんとお答え頂きました。儀式の流れは見事に覚えておいでです。そうご心配なさらずとも・・・」
「だけど、うっかり間違えちゃったら、シン君やお父様たちに恥をかかせちゃう」

婚礼後もチェギョン付となることが決まったことで、チェ尚宮はチェギョンへの呼び方を変えた。
最初は抵抗を示し、今後も今まで通りに呼んでもらうことを望んだチェギョンだったけれども、婚礼後は絶対に譲らないというチェ尚宮に折れた形。

「遊びに来ているときも、入宮してからも、何でもお姉さんに聞きながらやって来たんだもん。それこそ、お姉さんがいてくれないと不安だわ」

皇太后を始め、宮の誰もが受け入れてくれたこの婚姻。
それでも、毎日のお妃教育を投げ出さずに続けて来られたのは、チェ尚宮が気を配ってくれたから。
シンとは違う意味で、絶対に必要な存在だ。

「嬉しいお言葉です」
「あら、本気よ」

そう言うと、チェギョンは居住まいを正し、チェ尚宮に向かって頭を下げた。

「媽媽!」

チェ尚宮からすれば、あってはならない事態。
滅多なことでは声を荒げないチェ尚宮でも、思わず大きな声を出してしまった。

「これから、色々な分からないことや難しいことに出会ったら、きっと、間違いなく頼っちゃうけど。宜しくお願いします」
「媽媽、おやめ下さい」
「ううん、やめない」
「媽媽」
「シン君を頼りたくないわけじゃない。むしろ、シン君がいてくれるから頑張れる。でもね、シン君と違う意味でお姉さんがいてくれないと、頑張れないの。だから、これからもお願いね」

チェ尚宮にとって、宮の人間に尽くすことが当たり前だった。
そのために、厳しい入宮試験を突破して来たのだ。
でも、チェギョンは良い意味で現代っ子。
昔ながらの、全てに尽くすやり方は好まない。
良い意味で、距離を近くしようとする。
時々、近くなり過ぎそうになることもあるけれども、職員との間の垣根を低くする。
それは、この先国民との間の垣根も低くする可能性があると思う。
シンが、自分の思いを遂げてチェギョンを選んだように。
チェギョンはきっと、国民と手を取り合って行く宮を作る気がする。
皇后に仕えるのも、やりがいがあって日々充実していた。
でも、チェギョンの傍で送る日々が、それ以上のものになる予感がする。
チェギョンの突拍子も無い言動に振り回されるだろうけれども、それを補って余りあるほど充実感を得られる気がする。

「どこまで媽媽のご期待に添えるかは分かりませんが、精一杯お仕えさせて頂きます」
「そんなに堅苦しくなくていいのにぃ」

不満そうな口調ながらも、顔は嬉しそうに笑っている。

「お姉さんに頼り過ぎて、依存しちゃって、面倒見切れないって怒らないでね」
「むしろ、この期間中よりご一緒させて頂く時間が増えますので、媽媽の方が逃げ出したくなるかもしれませんよ?」
「ふふふ、そうなったらどうしよう?」

どうしようという割には、笑っている。

「さあ、媽媽。明日は朝早くからお支度して頂かねばなりません。お夕食後は、お早めにお休み下さい。後ほど、ゆっくりお休み頂けるようにホットミルクをお持ちしましょう」

日々のお妃教育の中でも、チェギョンの顔色やちょっとした動きの違いにも目敏く反応して、スケジュールを調整したり薬湯を用意したりと気遣ってくれた。
それを、今日も当たり前にやってくれる。

「眠れないわ、きっと」
「例えお休みになれなくても、横になって下さいね」
「は~い」
「では、お夕食の前に御召し替えを」

これまでも何度もチェ尚宮の手伝いとして顔を合わせていた女官が、婚礼後正式にチェギョン付になることになっている。
そのふたりが、心得たように頷いてチェギョンを促して着替えを手伝う。

「この色をお召しになれるのも、今日が最後ですね」
「そうね」

以前にもシンの前で着た、黄色のチョゴリ。
その色を着られるのは、今日まで。

「淋しいですか?」
「え?」

チョゴリに腕を通さず、どこか名残惜しそうに眺めているチェギョンに、チョン女官が声を掛けた。

「今日で、独身とお別れですからね」
「う~ん、そう言うこと考えたこと、無いかな」
「無いんですか?」
「だって、確かに今日まであたしは、戸籍上は独身だけど。自分の意思でシン君と結婚するって決めてからというもの、そのことを考えない日は無いし。何より、入宮後はパパやママと会えるわけじゃなかったし、あんまり実感無いっていうか。戸籍上は独身でも、もう宮で生活しちゃってるわけだし」

チェギョンの中では、半分既婚者の気分だった。
チェギョンが感傷に浸る暇もないぐらい、チョッカイを出して来るのも理由かもしれない。

「ただ・・・」
「ただ?」
「責任っていうか、プレッシャーっていうか、そう言うのはドンドン感じるようになった」
「・・・」
「でもね。お姉さんたちや、チェ尚宮お姉さんたちがいてくれるから。もちろん、おばあ様やお父様、お母様、そしてシン君がいてくれるから。だから、恐くても頑張れる」
「媽媽・・・」
「だから、これからも宜しくね」

そう言うと、ニッコリ笑ってチョゴリに手を通し、あっという間に部屋を出て行った。

「すごい方ね」
「うん。でも、何だか媽媽と一緒にいたら楽しそうよね」

当たり前に、義務的に従事するつもりだったチョン女官とパン女官は、チェギョンの想定外の言動に驚きながらも、命令からではなくチェギョンに仕える気になっていた。
それも、チェギョンが起こした小さな奇蹟。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「シン君、お待たせ」

最後の夕食を、当然のようにシンと囲む。

「今日は、胃に凭れないような軽めのメニューだな」
「そうだね」

見事なほど、全てが計算されている。

「明日だな」
「・・・うん」
「何だ?今さら、やめたいとか?」
「何でそうなるのよ。・・・でも、そうかな」
「おい!」

思わず、ガタッと椅子に音をさせて立ち上がったシン。
その慌てぶりに、チェギョンはクスクスと笑う。

「騙したな」
「嘘は言ってないわ。ただ、シン君が勝手に誤解してるから」
「誤解?」
「シン君と結婚するのをやめたいって意味じゃないの。失敗しちゃったら、シン君やお父様たちに迷惑かけちゃうだろうから、そういう意味でやめたくなるっていう意味」

強気なようで、そう言いながらスプーンを持つ手がわずかに震えている。
明日の本番を前に、緊張するなという方が無理なのは分かっている。
何度も、面倒な伝統的儀式を経験しているシンでさえ、緊張するのだから。
尤も、ようやくチェギョンが本当の意味で自分の元に来てくれる日だから、という緊張の方が勝っているのだけれども。

「チェギョン」
「何?」
「緊張するなとは言わない。無理なのは分かってるから」
「・・・」
「でも、ひとりじゃないんだ」
「シン君」
「俺がいる。俺たちのための日だろ?ひとりで何でもやろうとするな」
「・・・うん」

殆ど食事が喉を通らないチェギョンに、シンは無理に食べろということも無く、部屋へと送り届けた。
そして。

「傍にいるから、少し眠れ」
「シン君は?」
「チェギョンが寝たら、戻るよ」
「シン君だって、明日早いんでしょ?」
「大丈夫。こういうのは慣れてるから」
「・・・」

いつもなら、チェギョンを気遣っても逆に叱られてしまうのだけれども、今日はさすがに怒る気もないのかチェギョンは素直に目を閉じた。
ただ、シンに頼るように、繋げられた手に力が込められていたけれども。
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2013年08月01日

ラスト・キス 1

宮は今、皇太子妃を迎えるべく、華やかでどこか浮き足立った空気が漂っている。

そんな中、皇太子妃となる少女のお妃教育の様子を見る為に、皇后が教育の場へと足を向けて来た。

 

「媽媽、お目覚め下さい」

 

皇后がこちらに向かっていることを知り、慌てて少女に声を掛ける女官たち。

慣れない宮中用語や伝統芸能などの講義で疲れているのは分かるのだけれども。

よりによって、直属の上司になるとも言える皇后の前でこの醜態は頂けない。

これから結婚する相手は皇太子だけれども、伝統が息づく宮中では女性だけの集まりも多く、必然的に色々な事を教わるのは皇后からという事になる。

それだけに、こんな姿を見せて良いはずは無いのだけれども。

 

「ふふふ。興味を持てないと、退屈なのよね~」

 

気持ち良さそうに寝息を立てる少女を見て、皇后はまるで同じ年頃の少女のようにコロコロと笑った。

見事なほど韓服をきれいに着こなし、可愛らしさを滲ませながらも皇后としての威厳を醸し出すその姿とは相容れぬ行動。

でもなぜか、それが似合ってしまう不思議な空気。

 

「媽媽」

 

皇后付の尚宮が、窘めるように声を掛けたけれども。

 

「あら、自分で言うのもなんだけど。お姉さんも同じように苦労したからわかるでしょ?」

 

皇太子妃付の尚宮にチラリと視線を送ってから、自らの尚宮へと目を向けた皇后。

 

「媽媽」

 

20数年前の話しに、2人の尚宮は顔を見合わせる事しか出来なかった。

そして、思い出そうとするまでもなく蘇る、あの頃の事。

今、目の前で皇后として当たり前に振る舞っているその人が、20数年前は同じようにお妃教育の最中に寝てしまっていたなんて。

国民に話しても、信じてもらえないかもしれない。

あるいは、皇后らしいと好意的に受け止められるだろうか。

それほどまでに国民の信頼を得られる皇后になるなんて、あの頃には想像もできなかった。

でも。

 

「まぁ、あの子に振り回される上に訳の分からないお妃教育じゃ、疲れるわよね。でも、シン君が待っているから・・・」

 

申し訳無さそうに、少女の傍に腰を降ろすと優しく揺り起こした。

 

「起きて」

「・・・」

 

安眠を邪魔されたとばかりに、不機嫌そうに目を開けた少女は。

 

「皇后陛下!痛っ!」

 

自分を起こした人が皇后だと知り、慌てて居住まいを正そうとした。

でも、その拍子に文机に足をぶつけてしまったらしい。

 

「疲れている所、ごめんなさい。でも、良かったら一緒にお茶でもと思って誘いに来たの。どうかしら」

 

都合を聞いているようで、実は拒否権なんて無い。

尤も、皇后に誘われて拒否しようと思える人がいたら、会ってみたいものだけれども。

 

「はい」

「あの子も呼んだから、会えるわよ。それとも、ここに来てるのかしら?」

「午前中に・・・」

「差し入れでもしてくれた?」

 

チラリと皇太子妃付の尚宮に目をやった少女は。

 

「飴を差し入れて頂きました」

 

と、嬉しそうに報告した。

すると。

 

「ふふふ。やる事が同じね。それとも、シン君の入れ知恵かしらね」

 

皇后は楽しそうに笑うだけで、皇太子がここへ来た事を咎める様子は無かった。

 

「あの子、あなたにはいつも通り接しているのかしら?」

 

少女からすれば雲の上の存在とも言える皇帝を“シン君”と呼ぶ皇后に連れられて、皇帝の待つ部屋へと向かいながら、もしかしたらお茶の時間に呼ぶ事よりもこちらが本題だったのでは、と思える事を尋ねられた。

 

「はい。いつもと変わらずお優しいです」

 

お妃教育の為に入宮して数日した頃から、皇太子の態度が変わり始めたのだ。

妃となる彼女に対しては変化は無かったのだけれども、なぜか、それ以外の事に関しては反抗的で。

ことに、皇帝や皇后に対してはやたらと突っかかる。

今まで見て来た皇太子は、見本にしたくなるぐらい両親を大切にし、そして母親である皇后が大好きという態度を崩さなかったのに、なぜか、急に態度が変わってしまった。

 

「環境が変わって大変な時に、ごめんなさいね。理由が分かれば、対処のしようもあるのだけれども・・・」

「私には、いつもと変わらずに接して下さいますから。ただ・・・」

「ただ?」

「勘違いかもしれませんが、時折何かを悩んでおいでのような表情をなさいます」

「そう、あなたには感情を出すのね」

「え?」

「あの子、私にさえ何も言わなくなってしまったから」

 

淋し気な表情を見せる皇后に、何か言いたいけれども言葉が浮かんで来ない。

 

「でも、殿下は皇后陛下を嫌いになったわけではないと思います」

「あなたには、そう見えるの?」

「はい」

「ありがとう」

 

ただの反抗期なら、ここまで悩まない。

遅い反抗期と言えばそう言えなくもない年の皇太子だけれども、ただの反抗期とは思えなかった。

それに皇后は、自分が通って来た道だからこそ、この新しい皇太子妃に自分のことでさえ手一杯なこの時期に余計な苦労をさせたくなかった。

それなのに、気遣われてしまった。

 

「あの子が好きになったのがあなたで、本当に良かったわ」

 

皇后にしみじみと言われ、恥ずかしそうに目を伏せたとき。

間近に迫っていた目的の部屋から、宮の中では考えられないような大きな声が聞こえて来た。

 

「僕は、生まれて来てはいけない子どもだったんだ!」

「え?殿下?」

 

皇太子妃が驚くぐらいの大きなこえ、そしてあり得ない言葉。

さらには、部屋を飛び出して来たその姿。

皇太子妃の声が聞こえたのか、一瞬足を止めた皇太子だったが、皇太子妃の横にいる母を認めた瞬間今まで誰も見たことが無いような鋭い眼差しを見せた。

 

「あなたは、のほほんとした雰囲気に、とんでもない本性を隠していたんですね。父上を騙し、僕を騙し、国民を欺いて来た。国母だなんて、よくも恥ずかしげも無く言えますね。あなたみたいな自分勝手な人のことは、母だなんて思えない。僕なんて、生まなければ良かったのに!」

 

そう言い捨てて走り去ろうとした時、皇后がいる時には絶対に怒らないと言われている皇帝が、鬼のような形相で部屋を出て来たかと思うと皇太子の襟首を掴んで床に放り投げた。

 

「シン君!」

「チェギョンに向かって、なんてコトを言うんだ。もう一度言ってみろ、叩き出してやる!」

 

脅しでもなんでもなく、実行しそうなオーラを放ちながら皇帝が皇太子を睨みつけている。

だが、皇太子も負けじと皇帝を睨み上げた。

 

「何度でも言ってやるよ。僕なんて生まなきゃ良かったんだ!」

 

繰り返された言葉に、皇帝は手どころか蹴りさえ出しそうになった。

だが。

 

「シン君、ダメ!」

 

皇后が全身で皇帝を止めようとするから、皇后を傷付けたくないという理由だけで止めた。

すると、その隙に、皇太子は立ち上がると走り去って行った。

 

「皇帝陛下、皇后陛下。失礼いたします」

 

皇帝との約束があるのは分かっている。

それでも、皇太子妃にとって大切なのは、思いを交わし婚礼を目前とした皇太子の方だった。

だから、初めて見る怒り狂った皇帝も、皇帝を止めつつも皇太子の暴言に呆然とする皇后も気になったけれども、直ぐさま皇太子の後を追った。

 

「殿下!」

 

職員にどう思われようとも気にしなかった。

わずかに見える皇太子の背中を見失わないように、チマを持ち上げるようにしてその背中を追って行く。

 

「殿下!」

 

彼女にとってこの宮中は迷路だった。

ひとりで目的の場所にたどり着けたためしがない。

そのぐらい入り組んでいるものだから、皇太子がようやく足を止めた時には自分がどこにいるのか全く分からなかった。

でも、大切なのはそれよりも皇太子の繊細な心。

 

「殿下」

「・・・なぜ追って来た」

「殿下をお一人にはしたくありませんでした」

「俺は、謝らない」

「謝って下さいとお願いしに来たのではありません。両陛下のお話を聞いて下さいとも申しません」

「・・・」

 

意外だった。

周囲に勧められたり、勝手に決められたりした婚約者ではなかった。

自分たちの想いを成就させての、婚約者。

それでも、窘められても当然の親に対する暴言を吐いた。

 

「殿下がそこまで仰られるぐらいですから、相当悩まれたことでしょう。ですから、ひとりで悩まないで頂きたいのです。私にお話し頂いても、何もして差し上げることは出来ないかもしれません。それでも、ひとりよりふたりで抱えた方が楽なこともあります。無理にとは申しませんが、気が向いたらお話し下さい」

「ごめん、醜態晒して・・・」

 

自分を心配してくれるのが分かるから、素直に謝った。

そして、慰めてほしいとばかりに皇太子妃に抱きついた。

 

「殿下。ひとつだけお答え下さい。本当に、皇后陛下をお嫌いですか?」

「・・・好きだ」

「良かったです。私の好きな殿下は、マザコンかと思うぐらい、皇后陛下が大好きな方ですから」

「お前!」

 

皇太子妃のからかい口調に、思わず本気で声を張り上げそうになった。

 

「好きだから、信じたくない。俺が聞いたことは、嘘だと思いたい。でも・・・」

「殿下。今ここで結論付けなくてもいいのです。後で、ゆっくりとお聞かせ下さい。いくらでも、お付き合いします」

 

ぐちゃぐちゃだった思考回路が、彼女の静かな声で少しずつ凪いで行く。

 

「俺の部屋に来るか?」

「置いていかれても、困ります。ここがどこだか分かりません」

 

可愛らしく膨れる皇太子妃に、怒っていたはずの皇太子も笑みを見せた。

 

「良かったよ、お前がいてくれて」





もし興味を持たれたら、
http://blogs.yahoo.co.jp/mika_elisa0801 にてお手数ですがファン登録して頂ければと思います

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posted by 美佳 at 23:57| ∟ 1000000hit (案内用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はじめに

こんにちは。アルフレッドだよ。

【お久しぶり。メアリーよ。覚えているかしら?】

この「ラスト・キス」の説明をするね。
このお話での媽媽の相手は、シンとユル殿下だって。

【ユル殿下が、媽媽を連れて行っちゃえばいいのに】

だ~か~ら~
メアリー、そういうこと言わないの。
シンを応援してくれる人に怒られるよ?

【きっと、またバカ皇子が何かやらかすんでしょ?】

今回は、違うみたい。
いつも媽媽の味方だったユル殿下が、結構ブラックみたいだよ。

【もともとブラックじゃない、あの人。みんな騙されてるだけよ】

今回は、本当にブラックなんだって。
媽媽もシンも、それで苦労するらしいよ。

【でも、美佳のことだから、最後は救いの手を伸ばしちゃうんでしょ】

それは否定出来ないけどね。
でも、そのブラックなユル殿下のせいで、媽媽もシンも苦労するし、媽媽の相手にユル殿下が出しゃばってる時期もあるらしいんだ。
というか、媽媽とユル殿下が結婚するとかしないとかって言う噂もあるし、媽媽とユル殿下の大人な時間もあるらしいよ。
それでも一応、最後はシンと媽媽のハッピーエンドだって言ってたよ。
だけど、媽媽たちの子どもも出てくるから、それが苦手な人も注意だね。
う~ん、やっぱり注意するキーワードがいっぱいだ。

【美佳だもん。このぐらい当然じゃない?】

まあね。
もし、途中で気に入らないって思ったら、すぐに引き返してね。
それじゃ、いってらっしゃ~い。
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posted by 美佳 at 23:57| ∟ 1000000hit (案内用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

☆取扱説明書☆

●この取扱説明書は、当ブログをお楽しみ頂くために必要な注意事項が記載されています
ご覧頂く前に必ずお読み頂き、正しくご使用頂きますようお願いいたします

●この取扱説明書は、いつでも確認出来るように常にTOPに表示しております
変更がある時は新たに書き直してUPしますので、緊急時や思い出した時にお読み下さい

<準備>

◆「ゆめの世界」のサブブログになります
「ゆめの世界」の「過去の影」に耐えられなかった方は、引き返す事をお勧めします

<基本性能>

◆女主人公は、シン・チェギョン
ただし、相手はその時のより変わります
つまり、相手はシン君だけではないということです

◆ハッピーエンド
世間一般のハッピーエンドとは限りません
死ネタでも、そのお話の主人公たちが思い合っていれば美佳に取ってはハッピーエンドです

<目的>

◆現実逃避&ストレス発散
ストレス発散が主目的になる予定
つまり、シンチェの場合はシン君が苦労することが多くなると思われます
が、その余波でチェギョンも苦労すると思われます

<安全上のご注意>

◆カップリングはシンチェだけではありません
現在のところ、ユル君が相手で製作中

◆各書庫の最初にカップリングを明記する予定orシンチェ以外の場合と表示する予定
その表示を無視しての読後の苦情はお受けしかねます

◆チェギョン、その相手役が苦しむ設定が長時間続く予定(全体の1/2~2/3)
救いようが無いぐらい暗い状態が続く、美佳の得意技です

◆万人受けしにくいと承知の上です 
が、無性にストレス発散したくなる時には、こういうお話が書きたくなるのです
ですので、ご自身の精神状態を考慮の上、お楽しみ下さい

<免責事項>

◆ゲストブックの未設置
登録時の挨拶は不要のため設置してません
美佳にコンタクトを取りたい時は、各記事のコメ欄か「ゆめの世界」のゲスブへお願いします

◆お気に入り登録のお礼
無精もの故、一度溜め込み始めるととことん溜め込んでイヤになる性格
そのため、最初から伺わないことにしました
でも、足向けて寝るような真似はしません
心の中でお礼を言い、お話を書くことでお礼とさせて下さい

◆ご自身のお好みと合わないこと
これは趣味の範囲で書いているものです
それでも、それなりに一般常識に欠けるような展開にはしない予定ですが
展開上どうしても「そこまでする?」ということもあるかと思います
が、そこは「お話で必要なのね、しょうがないわね」と温かい目で見守って下さい
あり得ないことがあり得るのも、二次創作の楽しみだと思っています
それを、「現実にはあり得ない」と一刀両断されると、間違いなくテンション下がります
場合によっては、現実逃避からさらに逃避して雲隠れします
もちろん「それで、どうなるの~?」というコメなら喜びます
タネ明かしになるので、はぐらかした答えにはなるでしょうが

◆あくまでも、メイン活動は「ゆめの世界」です
そのため、こちらの更新はとっても気まぐれです



毎度のことながら、長ったらしい説明書で申し訳ありません
が、美佳のお話はつらいことが多いので、出来るだけ事前に注意喚起出来ればと思っての説明書です
とは言え、美佳は説明書読まない人なので、説得力ありませんけれども

美佳なりのハッピーエンドをお楽しみ頂ければ幸いです
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posted by 美佳 at 23:56| ∟ 1000000hit (案内用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

お知らせ

だ~いぶ前に達成した1000000hit
キリ番申告はありましたが、リクエストは特にありませんでしたので美佳からお知らせです


これまただ~いぶ前から繰り返していた投票等の意見を加味して考えたものですが・・・

この度別ブログを立ち上げました!!


と言っても、メインはあくまでもここです。
これからも、ここで更新は続けて行きますし、新しいお話も書いて行きます。

あちらは、ここのブログで言う「そのひとことが・・・」や「過去の影」よりも数段酷い展開を思いついてしまったので、そう言うお話をUPするために立ち上げました。
ここは、お気に入り登録しなくても読めるってことなので、それなりに自制してのお話でしたけど、あっちはやりたい放題酷い展開です、多分。
なので、あちらのブログのTOPに載せた文章と、お話の1話目とそれに先立つアルフレッドからの説明文を載せてみます。
興味を持たれたら、あちらのブログへお越し頂ければと思います。
が、あちらはお気に入り登録、ファン登録した方のみとなります。
といっても、パスワードでブロック出来ない代わりの予防線程度にお考え下さい。

しかし、絶対好み別れるわ。
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posted by 美佳 at 23:56| Comment(0) | ∟ 1000000hit (案内用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月31日

18-02 恥ずかしい

着々と、その日は近付いてくる。
婚礼はまだとはいえ既に家族として馴染んでいるチェギョンだけれども、それでもまだチェギョンは正式な家族ではない。

「う~~~~」

低くうなり声をあげて、ばったりと文机に顔を伏せた。

「お姉さん、笑ったでしょ」

すぐ近くで、チェ尚宮の抑えた笑い声が聞こえた。
辞書で真面目、生真面目という言葉を引いたらチェ尚宮の挿絵が出て来るのではと思うぐらい、その言葉の代表格であるチェ尚宮ですら、チェギョンを前にすると感情を制御することは難しいらしい。
チェギョンの隠し事の無い報告のおかげで、今では皇后はもちろん皇太后にもチェ尚宮でさえ笑うと知られているし、皇后に至っては、チェ尚宮がチェギョンのお妃教育の指導官であると同時に、チェギョンがチェ尚宮の感情表現の師であると捉えている節がある。
その証拠に、

『チェギョンに学ばせることが出来る人は他にもいるでしょうけれども、あなたを笑わせることが出来るのはチェギョン以外にいません。この期間だけのつもりでいましたが、チェギョンさえ良ければ、このままチェ尚宮をチェギョン付にしようと思いますが、どうでしょう』

と、ある意味当然のことながら本人の意思を無視したやり取りが、目の前で繰り広げられていた。
尤も、その提案に否は無いから、チェギョンが受けてくれることを願って聞いていたのだが。

『わ~、いいんですか?嬉しいです』

皇后の思惑など全く意に介さないと言いたげな、明るく屈託の無い声が上がった。
そしてそれ以降、チェギョンがさらにチェ尚宮に信頼を寄せるようになり、それまで以上にチェ尚宮に嬉しいことや戸惑うこと、愚痴なども口にするようになった。
それまでのチェ尚宮だったら、間違いなくチェギョンを窘めて、自分とチェギョンの間の距離を保とうとしたはず。
でも、良い意味でチェギョンの影響が出ているのか、チェギョンのガス抜きに絶妙のタイミングで軽口を挟むようになった。

「避けては通れない儀式ですから」
「意地悪」
「ですが、お二方の婚礼が済めば、国民はもとより両陛下、皇太后陛下も期待されることでしょう」
「分かってるけど・・・恥ずかしい」

婚礼ギリギリまで伏せられていた、チェギョンが受けなければならない講義。
他の講義は、復習の時間も含め相当前から開始されていたのだけれども、今しがた受け終わった講義だけは存在そのものすら隠されていた。
チェギョンが、こういう反応することが分かっていたから。

「それに、これはお姉さんが担当じゃないのね」

他の講義は、全てと言ってもいいぐらいチェ尚宮から教わった。
チェ尚宮ではない人から教わったのは、普段の皇太后や皇后とのお茶の時間にさり気なく伝えられる宮の人間としての心構えや、宮の女性としての嗜みについて。
それなのに、このことに関してだけは、それまで接したことの無い人の講義だった。

「私共宮女は婚姻が許されておりませんので、ご指南申し上げるほどの経験は持ち合わせておりません。ですので、以前でしたら乳母や出産経験のある側室などが担当したと言います。ですが、その昔ですとそこに嫉妬やら政治的思惑やらが絡み合っていたとも言います。そのため、近年では内官の妻女を指南役にしております」

サラリと言われてしまったけれども、チェギョンはその中の言葉に反応した。

「お姉さんは、結婚したいって思わないの?」
「私は、誰かと添い遂げたいと思うよりも、その情熱を宮の伝統を守る皆様をお守りすることに捧げたいのです。そのために、試験を受けたのです」
「結婚出来ないと分かっていて?」
「はい」
「すごいのね」

チェギョンにも、やりたいことはあった。
でも、自分を犠牲にするような、そんな視点に立ったことは無く、素直に感心せずにはいられない。

「でも、不思議ですね。内官のおじさんたちは結婚出来るのに、お姉さんたちは結婚出来ないなんて」
「もともと、宮中の女性は全て王様の女という位置づけでしたから。ですが今は、男性職員の奥様方が、官舎にお住まいです」
「さっきの人も?」
「はい。チェギョン様や殿下がお望みになれば、養育係として採用することも出来ます」
「ねえ、お姉さん」
「はい?」
「宮だと、養育係がいるのが当然なのかな」

以前のチェ尚宮だったら、キッパリと当然だと言い切った。
でも。

「チェギョン様には、何かお考えがおありですか?」

チェギョンの意見を優先しようとする。
もちろん、出来ることと出来ないことはあるけれども。

「考えってほどじゃないけど・・・。それに、シン君がどう思っているか分からないし」
「では、叶えられるかどうかはともかくとして、今思っていらっしゃることは何でしょうか?」
「この前、お母様にシン君のお弁当を作ってもらったように、あたしも自分の子どもにお弁当を作ってあげたい。もしかしたらシン君は、あの頃の自分は皇太子でも皇太孫でもなかったから出来たことだって諦めちゃうかもしれないけど、お母様ならあたしの気持ちを分かってもらえるかもしれない。ただ・・・」
「ただ?」
「あたしにとってシン君はシン君だけど、シン君は皇太子な訳だし・・・」

今まで考えもしなかったことが、今では考え無いようにしていることになって来ている気がする。
シンを名前で呼ぶことも、皇太后をおばあ様と、皇帝をお父様と、そして皇后をお母様と呼ぶことも、家族として迎えられている証であると同時に、彼らを特別な存在と意識し無いようにしているからなのかもしれない。
それは、無意識に自分だけが違うと言うことを認識しないようにしていたのだろうか。

「あたしは、シン君みたいに生まれた時からこの宮の生活をして来たわけじゃないし、お母様たちみたいにそれに近い生活をしていたわけでもない。だから、もしあたしが母親になったとしても、その子をちゃんと宮に相応しい子に育てられるか、自信は無い」

今までに見せていたシンを叱り飛ばすほどの強さなどかけらも無く、むしろ今まで見たことが無いぐらいに自信なさげな表情を見せるチェギョン。
勢いでここまで来られたけれども、目前に迫っている婚礼に、そして今受けたばかりの講義に、急に現実に引き戻されてしまったらしい。

「チェギョン様、それは・・・」
「チェギョンは、ひとりで子どもを育てるつもりか?」
「え?」

チェ尚宮の声にかぶせるようにして聞こえて来た、ここにいるはずの無い人の声。

「シン君!」

突然姿を見せたシンは、当たり前にチェギョンの傍にやってくるとどさりと腰を降ろした。
シンらしくない乱暴な仕草に、チェギョンが不思議そうに眉間にしわを寄せると、なぜかシンが、フッと目を逸らした。
それだけなら、嫌われたのかと誤解してしまうところだったけれども、シンの目元がわずかに赤く染まって恥ずかしそうに見えるのは、気のせいだろうか。

「少しで良い。ふたりにしてくれ」

視線を逸らしたままチェ尚宮にそう命じると、チェ尚宮は黙って頭を下げ下がって行った。

「シン君?」
「来て正解だったな」
「どういうこと?」
「お前が、無駄なことに悩みそうな気がして来てみたんだ」

シンの中でも、チェギョンは自分の上を行く強さを持っているという認識だったけれども、なぜかそんな気がした。

「俺も、同じ講義受けてたんだ」

そう言って文机に肘をついてそっぽを向くシンに、チェギョンは小さく声を上げた。

「え!シン君も?」
「ああ」
「ねえ」
「何だ」
「もしかして、照れてる?」
「ばっ!お前・・・」

図星を指されたのが丸わかりな反応だった。
尤も、シンもチェギョン相手に取り繕う気など無いらしく、大きな溜め息をつくとあっさりと認めた。

「そうだよ。悪かったな」
「・・・」

あっさりと認められてしまい、さすがのチェギョンも言葉が続かなかった。

「仕方ないだろ。いつか、の話じゃなくて目の前の話だし、相手も決まってるし、しかもどうでもいい相手じゃなくて、俺が望んでる相手なんだから」
「えっと・・・」
「まだまだ先の話だったら、適当に聞き流すことも出来たんだろうけど。さすがに無理だったし」
「・・・」
「かと言って、真面目に聞いていると・・・」

チェギョンの面影が目の前にちらついて、集中出来ないか、逆にリアルに想像出来過ぎてしまう。
さすがに、チェギョンに向かってそこまで言う気はなかったのか言葉を濁したシン。

「真面目に聞いてると?」

本気で分かっていないのか、そう問い返して来るチェギョンに絶句したシン。
あんな講義の後でチェギョンと顔を会わせ辛いところだったのを、チェギョンが変に悩んでいないか気になってしまい様子を見に来たのだけれども。
こんなふうに追いつめられるとは思っても見なかった。
だから、強引に話を変えた。

「チェギョン、さっきの質問」
「え?」
「お前、ひとりで俺たちの子どもを育てるつもりか?」
「そんなこと・・・」
「じゃあ、何でさっきみたいなこと言うんだよ」
「だって・・・」
「それに。お前、勘違いしてないか?」
「え?」
「昔ならいざ知らず、今のこの時代に、ましてや俺はお前に跡継ぎを生ませるためだけに結婚するわけじゃない。チェギョンの思う普通には程遠いかもしれないけど、俺だって自分の子どもの成長には関わりたい。お前の言う宮の子育てが正しいかどうかは、俺を見れば分かるだろ?」

さすがに、何と反応していいか困った。
肯定すれば皇帝や皇后の子育てを否定することになり、かと言って否定すればシンの過去を否定することになる。

「俺は、自分の経験を反面教師にしたいと思ってる。この立場だからこそ、やむを得ず経験させなければならない淋しさや苦労もあるとは思うけど、変えられることは変えたいし、チェギョンに淋しい子育てをさせるつもりは無い。尤も、俺はすぐには子ども要らないけど」
「え?」
「だって、チェギョンを独占したいし」

出来るとは思わない。
今でさえ、誰の婚約者だと言いたくなるぐらい、日々争奪戦なのだ。
婚礼が済んだからと言って、それが無くなるわけではない。
むしろ、義理とは言え本当に娘となったチェギョンを、さらに可愛がる気がする。
そんな状態で子どもが出来たら、チェギョンの意識は子どもに向かうだろうし、親たちは子ども諸共チェギョンを連れて行ってしまう気がする。

「でも・・・」

婚礼が済めば、チェ尚宮の言うとおり世間も皇太孫を望むはず。

「皇太孫を急がなきゃいけない理由は無い。皇太后陛下は早くって言いそうだけど、そのためにチェギョンに無理をさせたいとは思わないし。それとも、チェギョンはさっさと子ども生んで、義務から開放されたい?」
「義務なんて思ってないもん」
「だったら、しばらく俺だけのチェギョンでいて」

サラッと言われた言葉に、チェギョンは見事なほど真っ赤になった。
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2013年07月20日

16-03 絡める

シンが昼食を食べ終えるまでの間に、チェギョンはチェ尚宮に事情を話して時間を作ってもらうと同時に、皇后へ訪問の連絡を入れてもらった。
朝から晩までチェギョンに付き従っているチェ尚宮だから、当然今朝の皇后との弁当作りも知っているのであっという間に手配を済ませてくれた。

「シン君、行くよ」

ぐずぐずと往生際悪く皇后に会う瞬間を引き延ばそうとするシンを、問答無用で連れて行くチェギョン。

「チェギョン~」
「そんな情けない声出さないの」
「だけど・・・」
「何怖がってるのよ。シン君のお母さんじゃない」
「・・・」

何でも無いことのようにあっけらかんと言ったチェギョンだったけれども、その沈黙の中に含まれるシンの不安や恐れが言われずともわかるのか。

「あたしが一緒にいるじゃない」

と、自分の腕とシンの腕を絡めた。
そんなチェギョンの言葉と行動に、シンはデレッと表情を崩したけれども、直ぐさまそれを引き締めた。

「ずっと一緒にいてくれよ?」
「もちろん」

何を言っても、すぐに答えが返って来てしまう。
これでは、チェギョンが満足するような行動をとるまでずっとせっつかれるに決まっている。
シンは小さく溜め息をつくと、覚悟を決めたのかチェギョンと共に歩き出した。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「チェギョン、いらっしゃい。待っていたわ」

約束の部屋へ向かうと、そこには皇后だけではなく皇太后もいた。
茶菓が出ていることから、少し前からここにいたらしい。

「おばあ様もいらっしゃったんですね」

チェギョンの言葉ににこやかに微笑みながら、隣に座るように促す皇太后。

「美味しいお菓子が届いたからと皇后を誘ったのだが、チェギョンとの約束があるというではないか。だから、チェギョンにも食べさせてあげたくて、こちらに来たのだ」
「わあ、ありがとうございます」
「シンも座りなさい。そなたが小さい頃から好きだったお菓子だ」
「・・・」

戸惑ったシンがチェギョンにチラリと視線を送ったけれども、チェギョンはそれに気付いていないのか、

「シン君、良い時に来たね」

と、美味しいお菓子が食べられるのが嬉しいのか明るく言い、表情にもそれが表れている。
だが、シンにしてみれば、ここへ来た目的を果たすには皇太后の存在は邪魔だった。
ただでさえ、照れくさいというのに。

「その元気な声は、チェギョンがもう来ているのだね?」
「あ、お父様」

よりもよって、皇帝まで登場してしまった。

「母上からチェギョンが来ると聞いて、来ずにはいられなかったよ」

(誰だよこれ)

チェギョンと再会してからこちら、両親の意外とも思える姿を幾度も見て来たけれども、改めて思ってしまう。
尤も、祖母に関してはいつもこうだったから驚かないが。

(大学のバカどもに、この姿見せてやりたいな)

そう思いたくなるぐらい、この場の中心はチェギョン。
誰もがチェギョンを喜ばせようとする。
それも。

「チェギョン、座りなさい。シンも」

自分が二の次、三の次なのは気のせいではないぐらいに。

「ところで、チェギョンは皇后にどんな用なのだ?お妃教育が難しくて大変だとか?」

お妃教育は皇后の管轄だから、皇帝が直接口を出すことは出来ない。
それでも、心配はしているから尋ねずにはいられなかった。

「いいえ。難しくないって言ったら嘘になりますけど、知らないことを知るのは面白いので、大変だとは思いません。それに、小さい頃とかに不思議に思っていたことは宮が守って来た伝統なんだなと思うと、大切にしなくちゃって思うので、なかなか覚えられませんけど覚えなくちゃとは思います」

チェギョンの言葉に嬉しそうに頷いている皇帝や皇太后を見ていると、嫉妬するよりも呆れてしまう。
この調子では、チェギョンが望めばどんなことでもこの二人は叶えてしまいかねない。
それも、大切に守って来た伝統を覆してでも。

(あり得ない存在感。っていうか、俺の存在感無さ過ぎ?)

シンが、そう心の中で呟きたくなるのも、仕方が無いと言えた。
と、思っていると。

「お邪魔した理由ですけど、用があるのは、あたしじゃなくてシン君です」

サラリと、事実だけれどもこの場で言ってほしくない言葉がチェギョンの口から飛び出した。

「おい」
「だって、本当のことでしょ?」
「そうだけど・・・」
「ほら、早く」
「ここで?」
「他にいつ言うのよ。それに、そのために来たんでしょ?」
「・・・」

反論の余地もないほどにキッパリと言われては、何も言い返せない。
皇后に対して言うことでさえ躊躇いがあるというのに、皇帝と皇太后も揃ったところで言わなければ行けないという状況にチェギョンに文句を言いたいところだけれども、勝てるはずも無い。
シンは、わずかに息を吐き出すと覚悟を決めた。

「皇后陛下。今日、俺の昼食を作って頂きありがとうございました。小さい頃に食べた、懐かしい物が入っていて驚きました」

自分の手作りだと気付いてくれた、と皇后が涙ぐみそうになっていたけれども。
シンがチェギョンに、約束を守ったぞとばかりにドヤ顔で顔を向けると、容赦ない言葉が返って来たため皇后の涙も引っ込んでしまった。

「何よ、“皇后陛下”って。シン君にとってあのお弁当の思い出は、お母さんが作ってくれたという思い出ではなく、義務から作ってもらった思い出なわけ?はい、言い直し」
「・・・母上、ありがとうございました」

チェギョンには逆らえないことをあっさりと露呈させながらも、そのことに些かの不満も見せない。
その様子に、思わず皇帝がシンをからかわずにはいられなかった。

「まるで、チェギョンはシンの母親みたいだな」
「・・・チェギョンは、俺と結婚するんです。母親なわけ無いじゃないですか」

ムスッとした表情で言い返したシンに、皇帝が冗談も通じないのかと呆れたような表情をしようとした時。
突然チェギョンが立ち上がり、皇帝の隣へと近付いて行った。

「お父様にはお母様がいらっしゃるから、正妃は無理でも側室なら有りですよね。そうしたら、シン君のお母さんになれますよね」

と、シンに見せつけるかのように、皇帝の腕と自分の腕を絡めた。

「おい!チェギョン!」

シンが声を上げると、チェギョンはしてやったりとばかりに片頬を上げただけ。
皇帝は、チェギョンがシンをからかっていると分かっていながら、可愛い娘に腕を組まれて嬉しくないはずが無い。
それを示すかのように、気のせいか頬を緩め、鼻の下を延ばしているとも言える表情になっている。
しかも。

「10年若かったら喜んで・・・と言ったのだがな」

と言って、さらにシンを怒らせた。
それを聞いた皇后と皇太后は呆れたような表情をしていたけれども、皇后は娘とも思うチェギョン相手に嫉妬するという大人げない態度を取るつもりが無いからか、

「チェギョン、良かったらあげるわよ」

と言い、皇太后はシンだけではなく皇帝をも黙らせる言葉を紡いだ。

「ほほほ。チェギョンはシンの母だけではなく皇帝陛下の母にもなれるかものぉ」

女3人の攻撃に、男2人は黙り込むことしか出来なかった。
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2013年07月10日

21-04 組み敷く

「シン君、驚いてるかなぁ」

チェギョンも昼食の時間となり、シンがお弁当を開けてどんな反応をしているのか気になる。
シンのことだから、電話をしてくるか、最悪講義を受けずにそのまま帰って来ることも考えられたけれども、今のところどちらの行動も起こしていない。
それは、シンがあのお弁当を見て何も感じないからなのか、それとも嵐の前の静けさなのか。
気になるところではあるけれども、チェギョンとてシンだけに構っているわけにはいかない。

「えっと、次は・・・こうやって、それから・・・」

昼食後の自習時間になると、目前に迫っている婚礼の流れを頭に叩き込み、その際の自分の動きを実際に動いて確認して行く。

「ここで膝をついて、っと」

流れを書き取ったノートやらチェ尚宮に渡された代々行われて来た婚礼を記した書物を文机やその周囲に広げ、ひとつひとつ確認しながら復習して行く。

「これをこの前着た正装でやれって言うんだから、無茶よね」

思わず不満を零しながらも、手を休めることはしない。

「んで、立つんだよね。お姉さんたちが支えてくれるって言ってたから大丈夫だろうけど、立つのも一苦労だわ」

ヨイショ、と掛け声を掛けながら立ち上がろうとしたその時。

「うわっ!」

突然、自分の体が宙に浮いた。
と、思ったら、背中全面が床に付いている上に、見えるのは天井ときた。

「え?なに?」

何が起こっているのかサッパリ分からずにいたが、

「シン君?」

この場にいるはずの無い人が、すぐ傍にいた。
しかも、見ようによってはというよりも、確実に組み敷かれている。
それでも、慌てず騒がず、チェギョンは尋ねた。

「どうしたの?大学は?」
「チェギョン・・・」

その声音に、チェギョンは悟った。

「気付いたのね?」
「・・・」

その沈黙を、チェギョンは答えたくないというよりも答える言葉がわからないと解釈した。
自分で仕掛けただけあって、シンの戸惑いも織り込み済みらしい。

「イヤだった?」
「・・・イヤじゃなかった」

照れているのか、ボソボソと答えが返ってくる。
でも、その様子に、チェギョンは笑みを浮かべた。
シンの中に、皇后の手作り弁当の思い出が残っている。

「ちゃんと全部食べた?」
「・・・」
「食べてないの?」

意外だった。
照れたように言葉を返して来るぐらいだから、キチンと全部食べていると思った。
すると、例え作り手がチェギョンではないにしても、チェギョンとの約束を破る気はないのか、

「・・・ここで食べていいか?」

と、言い出した。
しかも、そう言うからには、

「もしかして、全っ然食べてないの?」

ということだろう。
案の定コクリと頷くシンに、チェギョンは溜め息を飲み込むとシンの胸を押し返した。

「どいて」
「ヤダ」
「シン君」
「だって、今までと違って、ちょっといい眺めかも」

例え自分より背が小さくても、チェギョンはシンの中で存在感が大きいから対等か場合によっては自分より大きな存在だった。
でも、今みたいに組み敷くと、当然チェギョンは自分より下に位置するわけで。
その滅多に無い位置関係に、征服欲のような物をくすぐられる。
一方チェギョンは、今までにない姿勢に、シンをいつになく男性として意識してしまい、目を逸らした。
その目の動きに、シンが反応しないはずはなくて。

「目を逸らすなよ」
「・・・」
「目を逸らされると、こういうことしたくなるんだけど」

そう言うなり、スッと顔を近づけチェギョンの唇を奪った。

「!」
「さすがに、これ以上は今は出来ないけど」

と言うと、チェギョンから離れた。

「でも、もう少ししたら・・・な」

もう少ししたら。
ふたりの関係が、もう一歩前進したら。
全てを口にしないけれども、チェギョンにもその意味が分かるだけに、頬を真っ赤に染めた。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



いつも元気なチェギョンが、恥ずかしさからか黙ってしまったので、シンは空気を変えるかのように、

「チェギョン、ここ片付けていいか?」

と言いながら、チェギョンの許可が出る前に文机を片付け始めた。

「お弁当出して」

その言葉に、嬉々としてお弁当箱を取り出すシン。

「ねえ」
「ん?」
「どうして気付いたの?」

その問いに、シンはお弁当箱のふたを開け、ある物を指した。

「これ?」

薄くスライスされたハムで作られた、薔薇の花。
大学生の、しかも男の子のお弁当に入れるには可愛らし過ぎるそれを作る過程を見ていたチェギョンは、皇后の器用さに感心したのだった。

「これ、俺が小さい時に母上が作ってくれた」
「それでわかったの?」
「ついでに、イヤな記憶も思い出したけど」
「え?」
「母上から聞いたのか俺が強請ったかしたんだろうけど、同じように用意しようとしたんだろう。でも、母上はハムで作っていたけど、厨房で作ったのはにんじんだった」
「あ!もしかして・・・」
「多分、それでにんじんが嫌いになったんだと思う」

シン自身でさえ覚えていない、にんじんを嫌いになった理由。
それが、この薔薇の花を見た瞬間に気付いてしまった。
きっと、栄養を考えて、そして彩りを考えてにんじんだったのだろうけれども、小さかったシンにとってそれは、母との思い出を踏みつぶされるような物だった。
だから、味や食感などが理由ではなく、嫌いになったのだろう。

「そうだったのね」
「食べるか?」

せっかくの形を崩さないようにすくいあげられた薔薇の花をチェギョンの前に差し出すと、一瞬物欲しそうな目をしたくせにフルフルと首を振った。

「チェギョン?」
「だって、シン君の大切な思い出だもん。今日はシン君が食べなくちゃ」

そのために、皇后にいつもより早起きをしてもらったのだから。

「今度、あたしもお母様に作ってもらう。それに、同じように作れるように教えてもらう」
「そうしたら、チェギョンが作ったお弁当を持って、どこかに行こう」
「それいいね」

シンの提案に喜びながらも、チェギョンは冷静にシンを観察していた。

(こう言えるってことは、お母様のお弁当に悪い思い出はないのね。むしろ、好き嫌いも含めて、思い出を封じ込めるため・・・)

チェギョンが知らない時期のシンが、いかに色んなことを我慢していたかをこういう瞬間に気付かされる。
だから。

「シン君、お弁当食べ終わったら、お母様にごちそうさまって言いに行こ」
「ぶっ!」

当たり前にそう提案したチェギョンだったけれども、シンにとっては意外と言うか想像すらしなかった言葉なのか、焦ったように吹き出した。

「もう。ご飯粒飛ばさないでよ」
「お前が変なこと言うからだろ」
「何が変なのよ。作ってもらったら、ごちそうさまって言うの当然じゃない」
「・・・」
「シン君、毎日お弁当箱持ってあたしのところに来るよね?それと同じじゃない」
「・・・違うだろ」
「どうしてよ。ごちそうさまって言わないにしても、ちゃんと全部食べたよって言ってくれるよね?それは、明日からもう作らなくていいっていう意味だった?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、お母様のお弁当、もう食べたくない?」
「・・・」
「ね?同じでしょ?」

何を言ったって、チェギョンに勝てるはずがない。
そんなことはわかっているけれども、素直になれないシンはそっぽを向きながらポソリと呟いた。

「行きゃ良いんだろ。でも、チェギョンも一緒だからな」

素直に行くとも、ひとりで母に会うとも言えないから、チェギョンを巻き添えにした。

「ふふふ。だから、シン君大好きよ」

例え照れること、恥ずかしいこと、苦手なことでも、シンはそうするべきだと思ったことは渋々でも何でもやり遂げる。
その素直さは、シンの立場を思えば希有な才能と言ってもいいぐらいで、だからこそチェギョンはシンの中に純真さを見出し、大の男に母親の手作り弁当を食べさせるということをさせることが出来るし、無理矢理でも何でもお礼を言わせることが出来る。
そんなシンを、チェギョンは誇りに思うし、素直に尊敬もする。
だからこそ、自然とその言葉が出てくる。
尤も、シンからすればどこからそんな言葉が出て来るのかよく分からないが、言われて嬉しい言葉だから無粋な突っ込みはしないでおく。
ただ。

「お前、危機感無さ過ぎ」

そんなことを言われて、はいそうですかとおとなしくしていられるはずがない。
あっという間に再びチェギョンを組み敷くと、状況を理解していないらしいチェギョンにニヤリと笑って唇を重ねた。
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2013年07月01日

19-02 涙でぼやけた視界

「はい、これ。今日のお弁当」
「いつもサンキュ。いってきます」
「いってらっしゃい」

婚礼前だけれども、夫婦の朝の会話が最早当たり前になりつつある。
シンの中では、想像すらしなかったやり取り。

「これで“いってらっしゃいのキス”がついたら、文句無いんだけどな」

思わずそう呟いてしまうほど、あり得ないはずだったことが当たり前にある毎日。

「却下」

聞こえていたのか、速攻で返って来たひと言。

「冷たいな」

と言いつつも、チェギョンが恥ずかしそうに顔を背けているのが可愛くて仕方が無い。
だから。

「じゃあ、俺から。いってきます」

そう言って、チェギョンの頬にキスをすると、怒られる前にと東宮殿へと戻って行った。

「もう・・・」

言葉は怒っていながらも頬を赤らめ、そして緩めていては、誰もが照れ隠しだとしか思わない。
しかも、明らかに照れ隠しと分かるように、

「お姉さん、あたしも行ってくるね」

というのだから、さすがのチェ尚宮の頬も緩んでしまう。

「はい。行ってらっしゃいませ」

現在のチェギョンは、生活の全てがこの別宮の中で済ませることが出来るのに、チェギョンが出掛けると行ってもチェ尚宮は驚いた様子も無く当然のように見送る。
まだ宮中に不慣れなチェギョンを案内するべく先に立ったチョン女官さえも、当然のように足を進めて行く。
そして着いたのは、皇太后と皇帝夫妻の食事を作る、正殿の厨房。

「チェギョン。シンはもう行ったの?」
「はい、お母様」
「そう。あの子、気付くかしら」

普段の落ち着き払った態度とは違い、ソワソワとしている。

「ふふふ。お母様、今そんなにソワソワしていて、朝のご挨拶の時にシン君に気付かれませんでした?」
「それは大丈夫よ。あの子、チェギョンがいなければ顔もろくにあげないんですもの」
「それはそれで、どうかと思いますけど・・・」

思わず零れた本音に、皇后は申し訳無さそうな表情になった。

「ごめんなさい。チェギョンには余計な苦労ばかり掛けてしまって」

ソウルに戻って来てシンと再会するなり、急転直下婚姻が決まってしまった。
この短期間に、チェギョンが感じている感じていないに関わらずどれだけの負担を強いていることか。
でも、チェギョンは、

「苦労だなんて思いません」

と、明るく言い放つ。

「あたしがシン君を好きだから、結婚するって決めたんです。後悔なんてありませんし、するつもりもありません。もしあるとしたら、お勉強が大変だなってちょっぴり思うだけで、古語は難しいけれども昔のことを知ることは楽しいです」
「本当に、あなたが来てくれて良かったわ」
「え?」
「あなた以外の人の前でのあの無愛想ぶりでは、どんな相手が来てもあの子が幸せになれるはずは無いし、相手にも同じ思いをさせて不幸にしてしまう。それに、こんなことを言うとチェギョンは笑うかもしれないけれども、またあの子を取り上げられると思うとイヤだったの」
「お母様・・・」
「でも、シンがチェギョンを望み、私たちもチェギョンを望み、そしてチェギョンもシンを望んでくれた。その上、チェギョンは私たちがやりたくても出来なかった事を、当たり前にさせてくれる。こんなに時間が経ってから、またこうやってあの子にお弁当を作ってあげられるなんて、思いもしなかったわ」

そう言って涙ぐむ姿は、どれほどこの時を待っていたかを雄弁に語っていた。

「シン君が帰って来てからの反応が、楽しみですね」
「でも、気付いてくれるかしら」
「気付きますよ」
「でも・・・」

シンが出て行ったばかりでこの状態では、帰って来るまでに心身ともに疲弊してしまう。
でも、それほどにシンにとってつらい過去は、親にとってもつらい過去だったのだろう。
ただ、互いにそう思いながらそれを素直に表に出せなかっただけで。

「お母様。シン君はお母様の息子ですよ?気付かないわけないじゃないですか」

当たり前のことだとばかりに、キッパリと言い切られた。
それが、皇后の琴線に触れてしまったらしい。
皇后は、取り繕う暇もなくその場に泣き崩れた。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



宮中でそんなやり取りがされていることなど知る由もないシン。
いつものように講義を受け、そしていつものようにユルに弁当を見せびらかしながら昼食を摂るところだった。

「チェギョン、忙しいのに毎日頑張ってるね~。シンのために大変な思いしてまでお弁当作ること無いのに」
「羨ましいなら、素直に羨ましいって言えよ」
「言ったら、そのお弁当くれる?」
「やるわけないだろ」
「じゃあ、言うだけ無駄じゃん」

とはいえ、チェギョンがどんなものを作ったのか興味はあるから、シンにどんな意地悪をされてもこの時間が楽しみであることは事実。
だから今日も、シンをからかいつつもシンの手元を覗き込んだ。

「今日のお弁当、いつもよりきれいだね。手伝ってもらったのかな?」

決して、チェギョンが料理下手なわけではない。
毎日シンが持って来るお弁当を見れば、毎日朝から晩まで勉強漬けで疲れているだろうに、それなりに手際良く作っているのだろうということが読み取れる。
シンと違い、自分で料理をするユルには、それが分かる。
それだけに、いつもよりもキレイに出来上がっているそれが、気になる。

「シン?」

ユルが少しでもチェギョンのことをからかえば、全力で言い返して来るはずなのに、何も無い。
そんなはずが無いと訝ってシンを見ると。

「シン!」

お弁当の蓋を開けた姿勢で、動きを止めてしまったシンがいた。

「シン、どうしたの?」
「これ・・・」

そう呟いたきり、お弁当を凝視しているシン。

「シンの嫌いな物が入ってるのか?」

先日、チェギョンにあんなことを言ってしまったから、チェギョンが本当にシンの嫌いな物を入れたのだろうか。
でも、ざっと見たところ、一般的に嫌いになりそうな物は何も入っていない。
もちろん、好き嫌いは人それぞれだから、一般受けするものを嫌う人だっている。
それでも、どこか幼稚園生でも食べられそうなそのお弁当に、シン嫌いな物があるとは思いにくかった。

「・・・」

黙ってしまったシンに、これ以上何を聞いても答えるとは思えない。

(シン、もしかして泣いてる?)

注意深くシンを観察してみれば、わずかに目が潤んでいるようにも見て取れる。
シンをここまで驚かせるようなことを仕出かせる人を、ユルはチェギョン以外に知らない。

(チェギョンは、何をしたんだ?)

一見ただのお弁当だけれども、シンにとってはそれだけでは済まない何かを秘めている。
それも、チェギョンがシンに知らせずあっさりと遣って退けることが出来る何かを。
これまで見て来たふたりのやり取りを考えると、シンが口に出さずに、あるいはチェギョンにだけ訴えるような、シンが求める何かがここにはある。

(まさか、皇后様の手作りとか?)

自分の母よりは余程家庭的な皇后ならば、お弁当作りしても不思議ではない。
そしてチェギョンなら、相手が皇后であろうともシンの母としてそれを頼み込むことが出来るはず。
もし、自分の仮説が正しいのなら。

(チェギョン、すご過ぎ・・・)

おそらく、小さい頃の思い出を引きずり出す何かが、この中にあるのだろう。
その思い出に入り込んでしまったらしいシンを、ただ見守ることしか出来なかった。
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2013年06月30日

09-04 膝

数日後。
大学から帰ってくるなり、いつものようにチェギョンを訪ねて来たシン。

「今日も全部食べたぞ」

明日も作ってもらおうとばかりに、そう報告することは忘れない。

「全部食べたの?」

いつもなら“良く出来ました”と言ってくれるのに、今日は違う言葉が返って来た。
だが、その意味がシンには分かっていた。

「やっぱりわざとか」
「うん。だって、料理長のおじさんが言ってたもん。シン君、野菜嫌いだって。その中でも、にんじんが特に嫌いみたいって」
「・・・」

余計なことを、と文句を言いたいところだが、事実だけに逆らえなかった。

「やっぱり嫌いだったんだ」

先日の皇后の言葉から、もしかしたらと思い料理長に尋ねると。
料理長はキッパリハッキリ断言したわけではないけれども、シンが野菜、特ににんじんが嫌いらしいと匂わせたのは事実。
自分の前でそんな素振りが無かったと言えば、シンには分からないようにすりおろすなどして料理の中に混ぜ込んでいると答えが返って来た。

「でも、嫌いって言うより食わず嫌いっていうか、見ただけで拒絶反応が出てるだけじゃない?」
「どういうことだ?」
「気付いてないでしょ。一昨日の夜と今朝のサラダのドレッシング、にんじんドレッシングだよ」
「え?」
「それと、昨日の夜のスープもにんじん」
「お前・・・」
「うん。わざとそうしてもらった。だって、料理長のおじさんはシン君にちゃんと栄養を取ってもらおうって、前からそうやって隠して料理の中に入れてたって言ってたもん。色も味も匂いも分からないようにしてね。だから、敢えて分かりやすい色のまま出してもらって、シン君が気付くか試してもらったの。でもシン君は、形が見えなければ平気みたいだね」
「・・・」
「それで、今日のお弁当はわざとにんじんの形が見えるようにしてみたんだ」

悪びれた様子も無くケロリと白状されてしまい、怒るに怒れなかった。
何より、桃とピーナッツはアレルギーがあるから入れるなとは言ったけれども、それ以外に制限を掛けていないから怒れるはずも無い。

「でも、イヤならやめる」
「・・・ついでに、弁当作りもやめるって言うんだろ?」
「ありゃ、バレた?」
「どうせチェギョンのことだ、自分が作れば俺が残せないからってこれからも俺の嫌いな物を入れる気だろ?しかも、例え嫌いな物が入っていても、俺がチェギョンの弁当を断るわけが無いって分かっててそう言うんだろう?」

結末は分かり切っている。
嫌いな物が入った弁当と、チェギョンの手作りではない弁当を比べた時、シンがどちらを選ぶかなんて宮の誰に聞いても答えは同じになるはず。

「否定出来ないところがなんだけど、チェギョンの手作り弁当が食べられるなら、どんな苦手な物も我慢して食べる。でも、さすがに全部嫌いな物にするのだけは勘弁してくれよ」
「にんじんの炊き込みご飯に、にんじんのナムルに、にんじんのグラッセも良いかなぁ。それじゃメインのおかずが無いから、お肉と一緒に炒めても良いよね。いっそのこと、のり巻きって言う手もあるよね」
「お前な・・・虐めて楽しいか?」
「虐めて無いじゃない。シン君の好き嫌いを直したいって思ってるだけよ」
「うそつき。顔が笑ってるぞ」

クスクスと笑ったチェギョンは、スッと真面目な顔になった。

「聞いても良い?何で嫌いなの?」
「何でだろうな。覚えてない」
「ということは、味とか食感ってことじゃないのね」
「だろうな。前ほどイヤだとは思わなかった」

無断で嫌いな物を入れたけれども、思ったより悪い結果にはならなかったらしい。

「じゃあ、これからも入れていいよね?」
「・・・ダメって言っても入れるだろ?」
「虐めるつもりは無いから、毎日じゃないけどね」
「チェギョンの手作り弁当が食べられるのなら、仕方ないか」

シンの判断基準は、その一点のみらしい。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「な~んか気になるのよね・・・」
「何がでしょうか?」
「え?」

復習の時間ということで、一人文机に向かっていたチェギョン。
いつの間にか戻って来ていたチェ尚宮の声に、ハッとしたように顔を上げた。

「何かお気になることがおありのようですが?」
「あ・・・」

恥ずかしそうに口元を覆ったけれども、ひとつ小さく溜め息を漏らすと筆を置いた。

「あのね、お姉さんから見てシン君ってどう思う?」
「どのような意味でしょうか?」
「シン君にお弁当を作ってるでしょう?シン君がすごく喜んでくれたのは私も嬉しいんだけど、何か引っかかるのよね」

あれ以来、にんじんが入っていただの文句ともつかない感想を言われつつも今のところ毎日作っている。
少々早起きをしなければならずつらいところではあるけれども、それでもシンが喜ぶ顔を見てしまっているだけにやめようなんて思わない。
ただ、チェギョンからすれば、喜び過ぎている、と感じられた。
そう訴えると、チェ尚宮は思いもしないことを言い出した。

「コン内官を呼びましょうか?」
「え?」
「私はコン内官ほど接点があるわけではありませんし、殿下もそれほどお話し下さるわけではありません。ですので、チェギョン様が欲しいと思っていらっしゃるであろう答えを持っているとしたら、私ではなくコン内官だと思われます」
「でも、迷惑じゃ・・・」
「チェギョン様がもたらす殿下への影響を考えますと、むしろコン内官は喜んでお力になりますことでしょう」

本人だけが気付かない、チェギョンのシンへの影響力。
そしてその力が見せる、シンの変化。
その変化を知っている者なら誰でも、無条件に協力したくなるはず。
矯正不可能と思われた氷のプリンスを、人間どころか子どもにしてしまうのだから。

「どうだろう。でも、お願いしてみても良いですか?忙しかったりしたら、無理にとは言わないから」
「承知致しました。連絡を取ってみます」



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



チェ尚宮の行動も早かったけれども、コン内官の行動も早かった。
チェギョンが呟いて30分後には、チェギョンはコン内官と向き合っていたのだから。
向き合っていると言っても、手持ち無沙汰にならないようにという配慮なのか、縁側でお茶を飲みながらだけれども。

「忙しいのにごめんなさい」
「とんでもございません」

いつだって笑みを絶やさないコン内官の、不愉快そうな顔を見たことが無い。
シンがいない間にやってしまわなければならない仕事だってあるだろうに、今だって穏やかに微笑んでいる。
でも、きっとそれを申し訳なく思ったところで、コン内官は同じ答えしか返して来ないだろう。
そう思うから、さっさと本題に入ることにした。

「シン君にお弁当を作っているでしょう?」
「はい。殿下は、たいそうお喜びでいらっしゃいますね」

毎朝、チェギョンと一緒に朝食をとったシンは、上機嫌と表する以上の機嫌で東宮殿に戻ってくる。

「そのことなんですけど。喜び過ぎって思うのは、あたしだけですか?」
「喜び過ぎ、ですか?」
「そう。喜んでくれるのは嬉しいんですけど、無駄に喜ぼうとしてるっていうか・・・。うまく説明は出来無いですけど、不自然っていうのかな」
「・・・」

思うところがあるのか、コン内官の表情がわずかに曇った。

「実はこの前、シン君が気になることを言ったんです」
「気になること、ですか?」
「過去形だとは言っていましたけど、シン君は籠の鳥だと思っていたって」
「・・・」
「それに、シン君は小さい頃にお母様の手料理を食べていた記憶があるって。もしかしてシン君は、その頃の思い出を手放したくなくて、あんな反応をしているのでしょうか?」

シンの言葉から、なぜその結論に辿り着くのかはコン内官には分からなかった。
それでも、分かることがある。

「チェギョン様が、殿下の思いをきちんと汲み取って下さるからでしょうね」
「え?」
「殿下は、自分を理解してもらえないと思う相手には一切感情を見せません。ですが、チェギョン様に対しては他の誰よりも感情を見せておられます。見せ過ぎなぐらいに」

それはチェギョンも思っていることだから、クスリと笑ってしまう。
ただ、その理由が知りたい。

「ご存知とは思いますが、殿下は突然皇太孫となり自由が奪われたと思っておられます。確かに、それまでご家族でお住まいだったのに、ご両親とは別の建物に独立して住まわれ、お会いになれる時間もそれほど多くはありませんでした。大人は、事情が分かっていますから納得出来なくても理解は出来ます。ですが、お小さかった殿下にそれを求めるのは無理です。そしてそれが、今でも殿下の心に暗い影を落としているのでしょう」
「・・・」
「ですが、チェギョン様はお小さい頃と何も変わられなかった。あの頃のまま、殿下を皇太子としてではなくただの幼なじみとしてみていらっしゃった。殿下には、それがこの上なく嬉しかったのでしょう」
「だから、籠の鳥だと思っていたって過去形だったと?」
「本当のところは、殿下にしか分かりません。ですが、可能性はあるかと思われます」

そのとおりだと言い切っても問題ないはず。
そうでなければ、シンのあの無駄に明るい様子は説明がつかない。
でも、コン内官の立場では言えるはずも無い。

「う~ん・・・」

益々悩んでしまったチェギョン。
そのチェギョンの表情が一瞬何かを思いついたようにパッと明るくなったのだけれども、また悩み始めた。

「シン君って、怒ると怖いですか?」
「いいえ。静かにお怒りになられますから」

怖いと思う暇もないほどに、視線だけでスッパリと切って捨てられる。
尤も、チェギョン相手にそんなことをするとは思えないけれども。

「チェギョン様」
「はい?」

突然コン内官は立ち上がると、チェギョンの前で深々と頭を下げた。

「どうか、殿下をお救い下さい。このようなことをお願い出来るのも、そしてそれを成し遂げられるのもチェギョン様しかいないと思っております。無茶なお願いとは重々承知しておりますが、どうか殿下のことを宜しくお願いいたします」

膝を屈してでも頭を下げそうな勢いに、コン内官はずっとそんなシンを歯痒く思っていたのだろうと伝わって来た。
自分にそんな大それたことが出来るとは思わないけれども、少しでもシンの苦しみを癒すことが出来るなら。
そう思うから、チェギョンはある行動に出ることにした。
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2013年06月28日

15-01 掠める

約束を取り付けたシンは、毎日のように朝ご飯が終わるとチェギョンからお弁当を受け取って大学へ通った。
その様子は、微笑ましい話題として宮の中では誰もが知るところだった。

「太子は、今日も締まりのない顔をして出て行ったのか?」

シンには知られないように、絶対にシンがいない時間に呼ばれた皇太后とのお茶の席。
チェギョンが腰を降ろすなり、そう問われた。

「締まりのない顔だなんて・・・」
「チェギョンにとっては、惚れた欲目、あばたもえくぼとな」
「おばあ様!」
「ほほほ。仲が良いのは良いことだ」

勝つつもりは無いけれども、それでも言葉で皇太后に勝てた試しは無い。
むしろ、最後に楽しそうに笑われて、反論する気が失せてしまうと言ってもいいぐらい。

「皇后もそう思わぬか?」

皇太后と皇后という立場から言っても、姑と嫁という立場から言っても、皇后が勝てるはずは無いけれども、チェギョンと同じように呼ばれていた皇后もこの話題には苦笑するしか出来なかった。

「はい、陛下」
「お母様まで・・・」
「でも、チェギョン。シンは、残さず食べていますか?」
「はい。残したら、次から作らないって約束してますから」
「そうなのですか?」

余りにあっさりと言い切られてしまったけれども、シンがそれに素直にしたがっていることが微笑ましくもあり、不思議でもあった。

「はい。最初に、約束しました。そうしたら、アレルギーがあるのでピーナッツと桃さえ入れなければ何でも良いと・・・」
「シンが、自分でアレルギーのことを話したのですか?」
「はい」
「そう。そうですか」

どこかほっとしたように、でもどこか淋しそうな皇后に、チェギョンは首を傾げた。

「あの子、自分から話したことが無いの」
「え?」
「あの子のアレルギーが分かったのは小学生になってからだったのだけれども、私に報告が上がったのはコン内官からだった。あの子は、自分から一度もひと言も誰にも話したことが無いの。それなのに、あなたには自分から話したのね」
「・・・」

皇后が哀しそうなのも理解出来るけれども、チェギョンにはシンの抱えていた孤独に気付かされる言葉だった。

(だから、あの言葉が出て来たのね)

シンがなぜ母である皇后にさえ報告しなかったのかは、聞いてみなければ分からない。
それでも、シンがそうせずにはいられなかった、子どもの立場故の孤独があったのだと再認識出来た。

「シン君は、あたしに隠す必要は無いからって話してくれましたけど、あたしにしてみれば理由は何でも良いです。シン君が、喜んでくれるのなら」

あの子どものような満面の笑みを見てしまったら、きっとイヤと言える人はいないだろう。
それに、シンがまだ話していないだろう小さい頃の淋しさを今からでも埋める手伝いが出来るのであれば、拒む理由は無い。



 ・・・・・ ☆ ☆ ☆ ・・・・・



「義誠大君殿下のお越しです」

そろそろチェギョンが引き上げようとした時に聞こえた声に、チェギョンは腰を上げようとしたのをやめた。
入宮前に会ったきり、もう何日会っていないことか。

「チェギョン。久しぶりだね」
「うん。久しぶり、ユル君。どうしたの?大学は?」
「休講が2コマ続いてたから、お昼ご飯を食べに帰って来たんだ。で、一人だと淋しいからおばあ様と一緒に、と思ってね」
「そうだったの」
「だって、大学だとシンが自慢するんだもん」
「え?」
「チェギョン、シンにお弁当作ってあげてるでしょ」
「うん」
「あれ、思いっきり自慢するんだ、シンのヤツ」
「・・・」

チェギョンの前では子どもっぽくなると分かってはいるけれども、それでも、チェギョンの中でその行動がシンと結びつかない。

「くれだましっていうのかな?からかうつもりで、ちょっとちょうだいって言ったらさ。シンのヤツ、僕の前まで持って来てスッと引っ込めたんだよ」

いつもの宮から届けられる、ひとりでは食べ切れないような食事とは違い、一人分の弁当箱に詰められたそれを横取りする気なんて無かった。
ただ、余りにシンが自慢するから、ちょっとからかってみたかった。
もちろん、一口だけでももらえたら、という思いが無かったとは言わない。
でもシンは、あげるとはひと言も言わずに一切れ寄越すかのようにユルの前まで持って来たくせに、ユルの鼻先を掠めるようにして自分の口へと運んだのだ。

「何やってるんだか・・・」
「自慢したかったんでしょ。他に自慢出来る相手いないし」

チェギョンは知らないけれども、シンはあれ以降見事なほど周囲との接触を断っていた。
ガンヒョンのようにチェギョンを受け入れている相手は例外だけれども、それ以外の、特にチェギョンを悪く言った相手とは見事なほど近付こうとすらしない。
それは、ガンヒョンがシンの腰巾着と評したあの御曹司たちにも言えることで、高校時代なら間違いなく一緒にいた彼らとすら、距離を置いている。
結果、学部の違うユルと一緒にいることが増えるわけで。
しかも、お弁当を自慢するという子どもっぽさを見せられる相手など限られるわけだから、イヤでもユルは巻き込まれてしまう。

「正直言えば、羨ましいとは思うけどね。でも、僕の分を頼んだらシンが怒り狂いそうだからやめておくよ」

お弁当は1つ作るも2つ作るも大して差は無いから、良いよと言いたいところだけれども。
ユルの言うとおり、シンが怒り狂う様子が簡単に想像出来てしまうから溜め息しか出ない。

「だから、チェギョン」
「なあに?」
「その代わりに、シンの嫌いなものでもお弁当に入れておいてよ」
「え?」
「シン、全部食べるって約束したんだろう?だから、シンの嫌いな物を入れておいてよ」

自慢される腹いせに、シンが苦労して食べている姿でも見て溜飲を下げたい。

「シン君、嫌いな物なんてあるのかな」

好き嫌いを聞いた覚えが無い。

「あら」

小さく呟かれ皇后の声に、チェギョンは何かを知っているらしいと感じた。

「小さい頃、にんじんが嫌いだったの。にんじんだけでなく野菜全般と言ってもいいかしらね。でも、食べられるようになったのかしら。それとも、チェギョンの前では、弱味を見せたくないのかしら」
「普通に食べていたと思いますけど・・・」
「じゃあ、克服出来たのかしらね。ごめんなさいね。こんなことも知らないのよ」

シンにとって昔のことが心に疵を負わせているように、皇后の心にもずっと消えない疵があるのだと感じられた。
だから、

「食べられるようになったのなら、良かったですね」

と、サラリと言うと。

「ユル君。シン君を虐めようとしないで。虐めたら、あたしがやり返すからね」

と、別のことへと話題を移した。

「どうやって?」
「あら、簡単よ。ここでユル君に・・・」
「ストップ!それ以上言わなくていい」

約束したわけではないけれども、ここで偶然にでも会ったなんてシンに知られたら、間違いなくシンは怒るだろう。
それを想像するだけで、シンが怖いわけではないけれども体が震えてしまう。

「というわけで、シン君を虐めないでね?」

ニッコリ笑って可愛らしく首を傾げているのに、絶対に逆らえない強さを感じる。

(はぁ。シンがベタ惚れになるのも分かる気がする・・・)

おそらくチェギョンは意識しないでやって退けているのだろうけれども、シンの矜持を傷付けないように周囲をコントロールすることが出来る。
きっとそれは、シンを前にしても発揮されているのだろう。
そう考えると、シンがチェギョンの掌で転がされているような気もするが、当然とも思える。

「ホホホ。シンもユルも、チェギョンには逆らえぬようだのお」

皇太后に楽しそうに言われてしまったけれども、反論なんて出来るわけも無かった。
ラベル:練習用
posted by 美佳 at 23:56| Comment(0) | ∟ 二人の為のお題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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